頭から消えた 5
あと行っていないのはダイニングキッチンのすぐ隣にある扉。
男に緊張感が覆い被さる。
もし、次の部屋に手掛かりが無かったら。
そんな不安を抱えながら男は静かに扉のノブに手を掛けた。
ゆっくりキーッと音を立て扉が開く。
ベッド、化粧台、タンス。
どうやらここは寝室のようだ。
埃で白く彩られた床を踏みしめ進む。
化粧台の椅子に1冊の本が置いてあるのを見付けた。
男は本を手に取りペラペラとめくる。
本の内容はよくあるミステリー小説。
男が最後のページまで滞りなくめくっていくと、スッと1枚の紙が床に落ちた。
男が紙を拾い上げて見る。
そこには
『殺したいほど憎い』
とだけ綴ってある。
男の手が震えはじめた。
もしかしたら母親が父親を殺したのか。
今は服役中で、だから自分1人だけなのか。
自分はそのショックから記憶を失くしてしまったのか。
もっと情報が必要だ。
男は警察へ向かうことに決めた。もう男は耐えられない位に、何かにすがらないと壊れてしまいそうな程に憔悴しきっているのだ。
玄関に立ち扉の前で静止する。
中々1歩が踏み出せない。
外の世界に対する不安が彼の脚を凍りつかせてしまっているからだ。
男は大きく首を横に振り、意を決したように勢いよく玄関扉を開けた。
外の空気、音、光。全てが新鮮に彼を包み込んだ。