番外編 おデート
「お姉ちゃん達、明日デートしてきなよ!」
「え、ええ?」
カールが突然の提案をしてきた。
剣術指南・盗賊討伐の依頼を終えてから数日。
俺は宿舎として利用しているマルゴワール郊外の屋敷で寛いでいた。
そんな時、前述の話があった訳である。
「えっと、突然何を言い出すのかな? カールくん。」
俺は少し顔を引き攣らせた笑顔で答えた。
「だってアスカお姉ちゃん、最近忙しかったからアルフレッドお兄ちゃんと二人だけでお出かけとかしてないでしょ?」
「う、うーん。そういえば…」
確かにカールの言う通りではある。
ノワールコンティナンから帰還した後も父王救出作戦、剣術指南などずっとバタバタしていた気がする。
「ボクとかリディの心配はしなくて大丈夫だよ? お姉ちゃん達が出かけている間はお家に帰ればいいし。ねー、リディ!」
「うん。ア、アスカ達、もっとイチャイチャしてきた方が良い。」
話を振られたリディは少しぎこちない口調で答えた。
青白い顔色で良く分からないが、きっと頬を赤らめているのだろう。
この子、会ったころは男の子のような感じだったが、最近はぐっと女の子らしくなってきたなあ。
「と、言う訳で明日行ってきてね! じゃ、ボク達は今からお家に帰るね。いこ! リディ!」
「う、うん!」
カールはリディの手を引いて元気よく駆け出して行った。
何か自分達の方がイチャイチャしてる気もするけど。
そんなこんなで…
「という訳なんだ。」
俺は歩きながらアルフレッドの横顔を見上げた。
「なるほどね。それで今日誘ってくれたんだね。」
アルフレッドは優しい笑顔で答えた。
「まぁ、カール達は気を使ってくれたんだね。」
俺達は二人でマルゴワールのメインストリートを歩いていた。
メインストリートと言っても中世の田舎町のようなところだが、間違いなく一番賑やかな所だ。
「せっかくだから今日は目いっぱい楽しもうよ。ね、アスカ。」
アルフレッドが手を差し出して来た。
これは、つまり、そういうことである。
「そ、そうだね。」
それに応え、俺は手を繋いだ。
所謂、恋人つなぎである。
「ところで、この後どこに行こうか?」
「それなら僕に任せてもらおうかな。実はこの先にお洒落なカフェを見つけたんだ。」
ふむ!
確かにお洒落な感じのカフェである。
転生前は何とかバックスとかそういう所には良く行ったものだが、ここは手作り感溢れるアットホームな佇まいだ。
「うーん、何頼んだらいいのかな。」
「これなんかどうかな?」
俺達はメニューを覗き込みながら、そんな会話をした。
趣のある会話、では無いと思うが、何気ない会話というのも楽しいものだ。
数分後、頼んだものが運ばれてきた。
コーヒーの上にクリームたっぷりの、日本風に言えばウィンナ・コーヒーのようなものだ。
「うわー、美味しいね。」
「そうだね。」
俺はコーヒーを美味しそうに飲むアルフレッドの顔を見た。
カッコイイ…。
っと、そうじゃなくて、かっこいいのは間違いないんだけど、何というか平和を感じるなあ。
次に運ばれてきたのはパンケーキだ。
ふわふわとした食感のケーキには甘いシロップが染み込み、噛むごとにじゅわっと味が広がった。
「ア、アルフレッド! はい、あーん…」
「う、うん! ありがとう!」
アルフレッドが嬉しそうな顔で食べてくれた。
それにしても転生前かなりの不良だった俺がこんなことをしようとは…。
カフェでおなかを満たした俺達は市場を抜け海の方に向かった。
マルゴワールの港の先には小さな浜辺があった。
ノワールコンティナン近海の荒れた海とは違い、この海は実に穏やかだ。
太陽の光がキラキラと反射する水面は実に美しい。
「綺麗だね。」
「うん。」
美しい風景に目を奪われている俺達に、多くの言葉は必要ない。
実にムーディーだ。
ちゅっちゅしてもおかしくないほどだ。
唯一つを除いては。
「ねえ、アルフレッド…」
「うん…」
俺はアルフレッドの顔を見上げた。
頭一つ分上にある、傾きかけた陽光に照らされたその顔はいつもより精悍に見えた。
「やっぱり気付いてた?」
「僕もそれなりに鍛錬を積んでたからね、違和感はあったよ。」
「だよね…。はぁ…」
俺はため息をついた。
そして、ネックレスの力で小柄を具現化した。
普段は剣を持っているからこれを使うのは久々だが、以前より洗練されたものにはなっているだろう。
「いつまでそこで見ているのかな!?」
俺は気配を感じていた方向に向けて、小柄を投げつけた。
「う、うわぁ!」
叫び声と共に、木陰から何人かの人間が飛び出て来た。
飛び出て来たのはロイと、アレクサンドルだった。
「不思議な組み合わせねぇ…。あんたたち…」
俺は二人を睨み付けた。
「い、いや。たまたまお前等を見かけたから、なぁ!」
「そ、そうですよ! あはは。」
二人は不自然な掛け合いで答えた。
「たまたま、ね。」
俺は腕組みした。
「たまたま見かけて、町中からずっと後をつけてくるものなの? 俺が気が付いてないとでも思ったのかな?」
俺が再び具現化した小柄をちらつかせて二人に迫った。
ロイはそのあたり百戦錬磨だからあまりビビらないが、アレクサンドルには効果てきめんだ。
彼は俺を過大にビビっている気がする。
「す、すみません。そのつもりは無かったのですが、今朝町に買い物に市場に行ったら先生のお仲間の子供達がいるお店に偶然立ち寄りまして、先生とアルフレッドさんが今日デートしてると聞いてしまって」
ついに自供を始めた。
「それでたまたま同じ場所にいたこのロイさんにそそのかされてその…」
アレクサンドルがチラっとロイを見た。
「お、おい! お前!?」
それを聞いてロイが表情を変えた。
なるほど。主犯はロイだな。
「なるほどねー。じゃ、覚悟は良いかな? ロイさ~ん。」
俺はロイを睨み付けた。
「ば、馬鹿! 冗談じゃねえかよ! おい、アルフレッド! 助けろよ!」
ロイがすがるような目でアルフレッドの顔を見た。
「うーん、僕にはちょっと助けられませんね。というかさすがの僕もちょっと怒ってますよ。」
「ひ、ひい!」
アルフレッドの“笑顔の怒り”だ。
ロイも終わったな。
まぁアレクサンドル君は大目に見てあげよう。
ちゃんちゃん!




