第90話 とうぞくとうばちゅ(4)
「先生、レオポルド殿下派の兵を捕らえました。」
ここは俺達が詰め所として借り受けている一軒家。
アレクサンドルが拘束された兵を連行してきた。
フードを被り下を向いているその兵は、身なりから魔導士のようだ。
「ご苦労でしたね、アレクサンドル。」
俺はアレクサンドルに微笑みかけた。
「も、勿体ないお言葉です!」
俺の言葉に、アレクサンドルは顔を輝かせた。
「うんうん。アルフレッドもお疲れ様。」
「ありがとう。さて、顔を上げてもらいましょうか。マリユス様。」
「え、マリユス!?」
俺はその兵を見た。
顔を上げた兵士は、確かにマリユスだった。
「あらま、本当だ。」
俺はしゃがみ込んでマリユスの顔を覗き込んだ。
「・・・」
マリユスは一瞬俺を合わせたが、すぐに目を逸らした。
「ふむ…」
俺は立ち上がって椅子に腰を下ろした。
「マリユス殿。今から私は貴方に質問をします。」
マリユスが再び俺の方を見て来た。
その表情は、まぁ憎悪がにじみ出ている感じだな。
「私はマルゴワール伯の依頼で、この地域に出没している盗賊について調査をしています。ここまでの情報だと、兄レオポルド派の兵が関係してるのではと言われていました。アルフレッドとアレクサンドルは先行で偵察を行っていたわけですが、マリユス殿、貴方は何をしていたのですか?」
「・・・」
マリユスは無言のままだ。
俺はふぅっとため息をついた。
「残念ですね。仮定の話ですが上級貴族の貴方がもし盗賊に身を窶していたのなら、実に嘆かわしいことです。」
「…確かに俺は落ちぶれた。功を上げねば、俺の家は没落貴族のままだ。俺はどんなことでもするだろう。だがそんな俺にも誇りくらいはある。」
マリユスが俺を睨み付けた。
「姫は、そんな俺が仲間を売るとお思いか?」
自分勝手な誇りだ、と言いたい所ではあるが…。
「先生、尋問は私にお任せください。」
そんな時アレクサンドルが口を開いた。
「ん、どうしたの?」
「はい。私の家はマルゴワールにて尋問官を輩出してきた家系です。」
尋問官! どこかの宇宙戦争で聞いたような役職だ。
正式には対象者に尋問や拷問を行うものなのだろうが。
「つまり私はお許しさえ得れば、“効果的な”尋問を行う術を知っておりまして。特に、このお方のような誇り高い貴族に対して“効果的な”ね…。」
アレクサンドルがニヤリと笑った。
「それでも証言を引き出せなければどうするの?」
「そうですね。“拷問”しても引き出せなければ、その先はお判りでしょう。我が主君たるマルゴワール伯は盗賊のような無法者をお許しになる筈はありませんからな。」
あー言っちゃったよ、拷問って…。
しかもその先って、もう〇刑しかないじゃないか。
「く…」
マリユスが冷や汗を浮かべ始めた。
アレクサンドルはそんなマリユスに歩み寄り、剣の柄を触りながら話し掛けた。
「マリユス様とおっしゃられましたな。そう言う事なので、若輩者ではありますが私が貴殿のお相手をすることになりそうです。」
シュッ!
アレクサンドルの剣が、マリユスの方の部分の装束を布一枚だけ斬った。
おお! 実に素晴らしい剣さばきだぞ!
俺はアレクサンドルの成長を褒めたい気持ちになったがマリユスの表情を見て自重した。
マリユスの顔は生気を失い、恐怖に満ちていた。
「さて、どうされますか? マリユス様。」
マリユスがあからさまに震え始めた。
証言を拒否した場合の先を理解したのだろう。
こうなってしまえば、もう証言を拒否できないだろう。
「よろしい。では質問を再開いたしましょう。では…」
アレクサンドルが問いかけ始めた。
それから1時間ほどの尋問で色々な情報が得られた。
マリユスがいた部隊は、兄レオポルドよりマルゴワール領の攪乱を命じられていたらしい。
直接関係のない民が被害を受けるのは酷いことではあるが、戦略的に効果があるのかもしれない。
俺には良く分からないことだが。
マリユスから得られた情報は、マルゴワール伯等に伝えられた。
情報を元に討伐軍が編成され、300名程が差し向けられることとなった。
生徒達も従軍するとの事だが、直接戦闘にかかわることは無いみたいだ。
これでマルゴワール領での盗賊騒ぎは解決するだろう。
俺の剣術指南から続いた依頼もクリアーである。




