第89話 とうぞくとうばちゅ(3)
「敵は魔導士1名、軽装歩兵2名か。よし…!」
「どうしますか? アルフレッドさん。とりあえず念話の呪文書で先生に連絡を取って…」
「捕らえる。援護してくれ。」
「へ…?」
アルフレッドの言葉にアレクサンドルは体を膠着させた。
「聞こえなかった? 彼らを捕らえるよ。」
「し、しかし相手は3人で…」
「そうだけど、何か問題あるかな?」
アルフレッドはきょとんとした表情を浮かべた。
「も、問題って…。相手の方が人数が…」
「そうだね。だけど見る限りあの3人以外に敵はいないようだ。つまり彼らを捕らえるチャンスなわけだよ。もしかしたら情報が得られるかもしれない。」
「それは、そうですけど…」
「君は僕の護衛だろ? 期待している。」
そう言うとアルフレッドは駆け出した。
「ア、アルフレッドさん!?」
アレクサンドルはそれを見て口をあんぐりとさせた。
「ま、魔法使いの貴方が護衛の私より前に出るなんて!」
アレクサンドルは思い直したように言うと、アルフレッドを追いかけた。
「ファイアーボール!!!!」
アルフレッドは気の影から姿を現すと詠唱を破棄した魔法を唱えた。
アルフレッドの掌には炎が収束を始めた。
「ファイアーボール!? そ、そんな最初歩の魔法なんて!」
アレクサンドルが驚くのも無理もない。
ファイアーボールは火属性の攻撃魔法の中で、魔法使いが最初に覚える魔法である。
つまり誰でも使えるような魔法である。
もっとも攻撃力に関しては遣い手の魔力に依存するからある程度違いが出てくるが。
敵兵3名はアルフレッドの接近に気付いたようだ。
即座に迎撃態勢を整えた。
「…×10!!!」
アルフレッドがそう言うと、掌の中の炎が一気に増大した。
10発分の炎が現れたのである。
「いけーっ!」
大きな炎が敵に向かって放たれた。
敵は戸惑っていた様だが、戦闘の歩兵が盾で防御する体勢になった。
ドォォォン!
盾によって直撃は免れたようだが、かなりの衝撃なのは間違いないはずだ。
「アレクサンドル、先頭は任せる。光の剣!」
「は、はい!」
「ああ、君にもこの魔法の加護を。」
アルフレッドは魔法で生み出した光の剣を掲げた。
「む…!これは…!?」
アレクサンドルは自信の体に力が漲るのを感じた。
「光の剣の効果だ。ある程度の身体強化の効果があるよ。」
「…それはありがたい!」
アレクサンドルが剣を抜き、先頭の兵に斬りかかった。
敵兵はアルフレッドの魔法でダメージを受けたのもあるが、防戦一方だ。
アルフレッドはその脇をすり抜け、後続の2名に近づいた。
魔導士の近くの兵がアルフレッドを攻撃しようとした。
「睡眠魔法!」
それに対して、アルフレッドは攻撃を躱しながら魔法を唱えた。
魔法を掛けられた兵は昏倒し、その場に崩れ落ちた。
「お、お前はアルフレッドか…?」
魔導士は震えるような声を絞り出した。
「おや?」
突然名前を呼ばれたため、アルフレッドは一瞬驚いてその魔導士の顔を見た。
「ああ、マリユス様ではありませんか? こんな所で何をしているんです?」
「貴様、俺に対して嫌味でも言っているのか?」
マリユスはアルフレッドを睨み付けた。
「俺は“あの一件”以来、レオポルド殿下の従者の座を失った。俺は何もかも失ったのだ。」
マリユスが手に持った杖をアルフレッドに向けた。
「今では前線に送られ、この有様だ。あの一件さえなければ…!」
「…何が言いたいんです? マリユス様。」
「お前や、アルエット様さえいなければこんなことにはならなかったのだ!」
マリユスは杖に魔力を込めた。
魔力が込められると、杖からはバチバチと電撃が発せられた。
「雷の刃!」
一閃! 高度に収束された電撃がアルフレッドに襲い掛かった。
アルフレッドは攻撃を躱し、距離を取った。
「酷い言いがかりですね、マリユス様。貴方は僕と見下し、僕だけじゃなくアスカ、…アルエット姫に対しても敵意を持っているのは分かりますが、元はと言えばご自身の所為でしょう。」
「うるさい!雷の刃!」
マリユスは続けざまに電撃を放った。
この男は決して魔導士としての実力がないわけでは無い。
上級貴族としての身分だけでは無く、高い魔力を持っているのだ。
「アルフレッドさん! だ、大丈夫ですか?」
アレクサンドルが敵兵と交戦しながら叫んだ。
敵兵もただの一兵卒ではなくそれなりの実力を持っていたため、アルフレッドの方に駆け付けられそうにも無かった。
いや、アレクサンドルは初めての実戦な訳だから、これでもかなり頑張っていると言えるのだ。
「心配ない、大丈夫だよ。さて…」
アルフレッドはマリユスの方を見た。
「マリユス様、そこまで言うのなら魔導士として決着を付けましょう。」
「望むところだ。俺はお前を殺す!」
マリユスが先程よりも大きな魔力を込め始めた。
対して、アルフレッドはじっとマリユスを見ながら動かなかった。
それを見てマリユスは激怒した。
「貴様、俺を舐めているのか?」
「舐めてなんかいませんよ。」
「ふん…。死ね! 雷の刃!」
大きな電撃がアルフレッドに襲い掛かった。
それに対してアルフレッドは身構えながら掌を前に出した。
「魔法障壁!」
アルフレッドは電撃魔法を障壁で止めに掛かった。
「フン、止められるものか!」
マリユスは嘲笑した。
「むむむ…!」
アルフレッドは十秒程魔法を押しとどめた。そして…!
突然、マリユスの魔法が消えた。
「な、馬鹿な!? アルフレッド、貴様、何をした。」
「僕の光の剣は武器としてだけでは無く身体強化などの効果もありますが、進化した“ディフェンダー”は攻撃を受け止め、吸収する力があります。光の盾の能力の付与ですね。」
「何だと…?」
「そしてこうすれば、吸収した“もの”を自らの“力”にすることも出来るんですよ。」
アルフレッドは光の剣を掲げた。
「雷の槍!」
マリユスの雷の刃とは違い、アルフレッドは吸収した電撃で槍を形成した。
そしてその槍はかなりの高速でマリユスへと飛翔した。
バチィィィ!
雷の槍がマリユスの目の前へと突き刺さった。
マリユスは恐怖のあまり、その場に崩れ落ちた。
自身の最大魔法が破られ、しかもそれを自分への攻撃の力に利用されたのだ。
「あれは…敵わないな…」
アレクサンドルは剣を鞘に納めながら呟いた。
アレクサンドルの戦いも丁度終わった所だった。
彼は敵を殺すことなく気絶させていた。
「ふふふ。先生も先生なら、その相方も相方だってことか。」
アレクサンドルは力なく首を振った。




