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俺・プリンセス  作者: 風鈴P
第9章 日常生活編
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第85話 けんじゅちゅしなん(2)

「整列!」

ディミトリが号令を出した。

士官学校の学生達が整列していく。

士官学校の道場にいた学生の人数は15名。彼等は恐らく俺と変わらないくらいの年齢だろう。

「これからお前達の剣術指南役として招聘した方を紹介する。…アスカ殿。」

「は、はい…!」

ディミトリに促され、俺は一歩前に出た。

学生達は少しざわついていた。ま、当然の反応だろう。

「冒険者ギルドから派遣されてきました、アスカ・エール・フランクールと申します。本日より3週間…」

そこまで言いかけた時、一人の学生が口を開いた。

「ディミトリ先生、これは一体どういうことです?!」

「よさんか、アレクサンドル。アスカ殿に失礼だろう。」

それでもアレクサンドルと呼ばれた学生は話を続けた。

「私達はマルゴワール士官学校の学生であることを誇りに思っています。そしてそれに恥じないよう、努力をしているつもりです。私達は貴族であり、マルゴワール随一の騎士であるディミトリ先生に教えを受けるのを望んでいます。冒険者ギルドから派遣されたとなんてどこの誰だか分からない人に等…」



うーむ、ディミトリの言った通りだな。

典型的な、権威を重んじるタイプの貴族のようだ。



「ア、アレクサンドル、何という事を…!」

ディミトリがアレクサンドルの方に向かおうとした。

「ディミトリ先生、ここは私に…」

俺はディミトリを制し、アレクサンドルと呼ばれた学生の前に出た。

身長が150cm以下の(アルエット)というのもあるが、アレクサンドルは結構な身長のようだ。

俺はアレクサンドルの顔を見上げた。

「えー、貴方はアレクサンドル君…と言いましたね。」

「ええ、そうですが。」

アレクサンドルは俺を見下ろしながら答えた。

「貴方は私の様などこの馬の骨とも分からない、実力も分からない人間からは教わりたくないと言いましたね。つまり、身分が違うと。」

「そう聞こえましたか?」

実に冷たい視線、受け答えだ。

「宜しい。それに対して、私からは二つ返答を致しましょう。」

俺は自分の身分や権力を笠に着るのはあまり好きじゃない。

前世? でも学校の教師は嫌いだったし、警察なんかも大っ嫌いだった。

…だがこの状態ではそれをするのも致し方のないことだろう。

三歩程歩いて再び振り向いた。



「まず一つ目の答え、身分についてです。アレクサンドル君や他の学生諸君、貴方達は貴族です。自分より身分が下の人間に教えを乞いたくないという考えは理解できなくもない。ですが…」

俺はアレクサンドルの顔を見た。

「だが『事実』として、今君はそれを言うことは出来ません。私の本当の名前と身分はアルエット・エール・ヘンドリクセン。ナイザール国王ヘンドリクセン3世の第3王女です。故あって偽名にて冒険者をやっておりますが…」

「な…!?」

アレクサンドルの顔色が変わった。

「疑うようであればそこのディミトリ先生に聞くも良し、それでも駄目なら貴方のお父上の主人たるマルゴワール伯に確かめるのも良いでしょう。」

俺はそう言いながらディミトリを見た。

「さて、貴方達は誰の前にいるのです?」

ディミトリは意図を把握したようだ。

「は…! 生徒が失礼な事を…、申し訳ございません。」

ディミトリが膝をついて頭を下げた。

アレクサンドルをはじめ、学生達もそれに倣った。

アレクサンドルの顔は青ざめていた。



「よろしい。ディミトリ先生、この生徒達で一番の遣い手は誰になりますか?」

「は、このアレクサンドルです。我らマルゴワール現役の騎士、中位には値するかと…」

「なるほど…。ではアレクサンドル君。」

俺は再びアレクサンドルを見た。

「は、は…!」

アレクサンドルは顔を上げた。

「二つ目の答えです。詳しい状況は言えませんが、私は数日前に真剣にてディミトリ先生と立ち合っています。その時は私が勝利しています。」

「な…!」

アレクサンドルは言葉を失ったようだ。

「ディミトリ先生は貴方が中位の騎士に相当する実力があると言いました。ならば今貴方が腰に下げているその剣を使い、私に打ち掛かってきなさい。これは命令です。」

「し、しかし…」

「私はあれで良いかな。」

俺は道場の壁に掛かっていた短めの木刀を手に取った。

「さあ、いつでも良いですよ。」

俺はにっこりを笑った。

「う…!」

アレクサンドルは動揺していた。

「早く来てください。手を抜くことは許しませんからね。」

俺はアレクサンドルをじっと見た。

アレクサンドルは殺気のようなものを感じ取ったのかもしれない。

剣を抜いて俺に向かって走り出し、攻撃の動作に入った。


…なるほど。動き自体は悪くなさそうだ。

だがディミトリに比べてもそれほどでもないし、俺の師であるテオドールと比べたら止まって見える程だろう。

「ふむ、ここだね。」

カーン!


高い音と共に、俺は木刀でアレクサンドルの剣をはじき落とした。

「く…!」

アレクサンドルは手を抑えた。

かなりの痺れを感じているだろう。

「分かりましたね? これが二つ目の答えですよ。」

「は、はい。申し訳ありませんでした。」

アレクサンドルは消沈した表情になった。



うーん、ちょっとやりすぎちゃったかな?

「ま、まぁ気に病むことは無いです。」

俺は剣を拾い上げ、アレクサンドルに手渡した。

「今日から3週間、私は貴方達に剣を指導します。よろしくお願いしますね。」

俺は生徒達ににこりと笑いかけた。

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