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俺・プリンセス  作者: 風鈴P
第9章 日常生活編
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第84話 けんじゅちゅしなん(1)

数日後、俺はギルドで引き受けた『剣術指南』の依頼先である、マルゴワール士官学校を訪れた。

依然述べた様にマルゴワール伯爵領はナイザール王国の一地方ではあるが高度な自治を行っており、外交権などは持っていないが半ば独立していた。




「こんにちはー!」

俺は士官学校の受付を訪ねた。

「む、何だね君は…?」

受付の兵士は怪訝そうな顔で答えた。

ここは俺のような女が訪ねてくるような場所では無い、とでも言いたそうな表情だ。

「冒険者ギルドから派遣されてました、アスカ・エール・フランクールと申します。本日より貴校の学生さんへのけんじゅちゅ…指南をしに参りました。」

噛んでしまった。

俺は顔を赤くしながらも、冒険者証を兵士に手渡した。

「君が…?」

兵士はギルドから剣術指南の人間が派遣されてくることは聞いていた様で、冒険者証を念入りに確認していた。

だが俺のような人間が来るとは思ってもいなかったのだろう。

「登録は魔法使い…の様だが、貴女に剣術指南など出来るのですか?」

口調こそ丁寧なものに変わったが、訝し気な視線は変わらない。

「はい。一応そちらからギルドへの依頼条項であるBランク以上は満たしておりますが、お疑いであればここで貴方にお試ししても宜しいですよ。」

俺はにっこりしながら答えた。

「いや、そういう訳ではないが…。分かりました。ご案内します。」

兵士は渋々と扉を開けた。

俺は学校内の応接室へと案内され、ここで待つように言われた。

「ふーん…」

俺は応接室を見渡した。

壁には鹿のような動物のはく製や調度品が飾られていた。

俺にはこれらの価値などは分からないが、この学校は貴族や武人の子弟が通う学校らしいから、きっと価値があるものなのだろう。




「お待たせいたしました。」

数分後、一人の男が応接室へ入って来た。

「は、はい…!」

俺はソファから立ち上がって会釈をした。

「あ、あれ…?」

その男は見覚えがあった。

「おや、貴女でしたか。…私は国王陛下を幽閉していた城の守備隊長をやっておりました。」

見覚えのあるその男は、父王ヘンドリクセンが幽閉されていた城の守備隊長をやってきた男だったのだ。

実は戦いが終わるころ俺に掛かっていたケヴィンの変装の魔法の効果が一瞬薄れていたらしい。

守備隊長は俺の一撃で意識を失う直前に俺の顔を見ていたらしい。

俺も注意してたんだけど、ケヴィンの魔法がちゃんと掛かってなかったのかな?

バレていたのなら仕方ない。

「お久しぶり…じゃない、数日ぶりですね。」

「ええ。あの時は完敗でした。さ、お掛けください。」

「は、はい。」

俺はソファに腰掛けた。

「改めて自己紹介致します。ギルドから派遣されてきました、アスカ・エール・フランクールと申します。」

「私は当校校長のディミトリと申します。」

ディミトリはそう言うと秘書と思しき女性に合図をした。

女性は頷くと部屋の隅にあった冷蔵庫から飲み物を用意してくれた。

「マルゴワール地方名産のハーブを使ったハーブティーです。お召し上がりください。」

「ありがとうございます。」

スッキリとした香りのするハーブティーだ。実に美味しい。

「さて私共が依頼した『剣術指南』ですが、貴女ほどの実力者が引き受けて頂けて実に頼もしく思います。」

「そ、そうですか?」

「私はこれでもマルゴワール内では上位の実力を持っていると自負しておったのですが…。貴女のようなお若い方に完敗しまして、鼻を明かされた気分になりましたよ。」

「か、買い被りですよ…」

俺はぽりぽりと頭をかいた。

「いえ。それもアルエット姫にですからな。それも含めて、頼もしいと言ったわけです。」

「・・・!」

その言葉を聞いて、俺はディミトリの顔をじっと見た。

「私の正体をご存じなのですか?」

「はい。貴女は国王陛下が救出されるまではお尋ね者でしたからな。無論、下位の兵達は人相書きだけで名前や身分は知らされてませんでしたが、我々のようなある程度の身分の者は…ね。」

なるほど、納得だ。

「話がそれましたな。この度指導して頂く当校の学生たちですが、全員がマルゴワール領内に住む貴族の子弟になります。マルゴワール伯爵様より土地を拝領しているもの、いないもの様々ではありますが。」

「ふむふむ?」

「年齢は貴女と大体変わらないくらいですが、まあ、無駄に気位が高いと言いますかな。何と言いますか…」

「プライドが高くてめんどくさい、って訳ですね?」

「そういうことになりますな…」

つまり大した実力も無いボンボンの癖に、プライドだけはいっちょ前って訳だ。

そんな人、前世?にもたくさんいたなぁ。

まぁ、全員が全員そうではないとは思うけど…。

「本来であれば私が彼等に指導すれば良いのですが情勢が変わりまして…。ナイザール王国本国の…、いえ、レオポルド殿下の勢力への備えが必要になりましたからな。」

そうだろうな。

父王が救出されマルゴワール伯ジョルジュがレオポルド派の兵を領内から駆逐したのだ。

兄レオポルドはマルゴワールを敵と見なしたことだろう。

「ディミトリさんの言いたいことは分かりました。3週間ではありますが、私にお任せください。」

俺はにっこりとほほ笑んだ。



学生たちの実力は見てみないと分からないが、まぁうまくやってそのプライドを折ってやろう。

俺は心の中でニヤッと笑った。

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