第83話 マルゴワールでの生活(3)
翌日、俺は冒険者ギルドのマルゴワール支部を訪ねることにした。
「こんにちはー!」
俺はギルドの扉を勢いよく開けた。
「あら、アスカちゃん。久しぶりね。」
受付のお姉さんがにっこり笑顔で出迎えてくれた。
実に爽やかな笑顔だ。耳長族は美人が多い。
「はい! お久しぶりです!」
俺はてくてくと受付に近づいて行った。
「うーん…」
お姉さんは俺の体をまじまじと見て来た。
「え、えっと? お姉さん?」
何が言いたいのか…分かってしまった。
「アスカちゃん、1年経ったけど何も変わらないわね…」
や、やっぱりー!!!!
「い、いや! そんなことないですよ! す、少しくらいは、はは…」
俺のお山は成長が見られない。そう言いたいんだろう。
悲しい。
「み、見た目は変わらないけど、強くはなったんですよ!」
「そうみたいね。」
お姉さんは手元の帳票をめくった。
「アスカちゃんの活動報告は私の所にも来てるけど凄いわね。ノワールコンティナンのA+ランクの依頼をクリアしたらしいじゃない。」
「いや、あれは仲間がいたおかげで…」
「冒険者になって1年でBランクに昇格したんだから、誇って良いと思うわ。」
「そ、そうですか…?」
ここまで褒められるとなんかこそばゆいな。
「あー、アスカちゃんちょっと…」
お姉さんがもっと顔を近づけてという風に手招きをした。
「え、何ですか?」
「アスカちゃん、貴女…。ケヴィンから聞いたんだけど、ナイザール王国のアルエット姫だったのね。」
「はい。ええ、まあ…」
俺は苦笑いをした。俺がお姫様だったら、扱いが変わってしまうのだろうか?
「まぁでもケヴィンだって本当はあれでも貴族だし、冒険者としてギルドに登録している以上、王族だろうが何だろうが身分によってギルドとしての扱いは変わらないから安心して良いわ。」
「あ、ありがとうございます。」
ありがたいことではあるが俺や仲間はつい最近までお尋ね者だったわけだし、兄レオポルドの支配地域ではそれは変わらないから、お姫様扱いされない方が良いな。
「お姉さん、お姫様って言われるとちょっと面倒だからその…」
「大丈夫よ、アスカちゃん。そこら辺の事情も聞いてるわ。…にしても。」
お姉さんは帳票を机の上に置いた。
「登録は魔法使いだけど、腰に下げてるその剣を見るととてもそうは思えないわね。」
「あー、そうですね。」
魔法で身体強化をしてるには違いないけど、あまり魔法使いらしい戦いはしていないな。
「でも最初見た時はちょっと弱々しそうな感じの子だったから、だいぶ逞しい雰囲気になって安心したわ。」
「そうですか? ありがとうございます。」
俺はぺこりと頭を下げた。
「ところでお姉さん。私、一仕事終えてちょっと暇なんですけど、今出来そうな依頼はありませんか?」
「あ、ごめんない。つい話し込んじゃったわね。そうね、Bランク向けの依頼は…」
お姉さんは引き出しから書類を取り出した。
冒険者はランクによって受けることのできる依頼が限定される。
自身のランク以下のものは全て、上に関しては一つ上まで引き受けることが可能だ。
冒険者のランクは最下位のEから始まり、Bランクからは-~+の表記も加わる。
ノワールコンティナンでの依頼のように集団でやるものはリーダーのランクが基準になる。
お姉さんはペラペラと書類を捲っていく。
「うーん、マルゴワールは魔物が少ない地域だし差し迫った危険もあまりない所だから、あまり高ランクの依頼ってないのよねえ。Bランクの貴女に、低ランクの依頼を紹介してもしょうがないしね。」
なるほど。確かにマルゴワール領はナイザール王国の一地方で他国との接点があまり無い。
そして領主のジョルジュは内政的な能力が高いのだろう。
田舎であるということもあるが、領内の治安はナイザール王国よりも良いと言える。
兄レオポルドが発端のもの以外の混乱とは無縁な気がする。
「一つあったわ。これなんかどうかしら?」
お姉さんが俺に紙を一枚差し出した。
ふーん、どれどれ。
「最低ランクB以上。募集内容は剣術指南。あなたは剣を使うんでしょ?」
「剣術指南…ですか?」
確かに俺はテオドール・クザン流の剣術を修めてはいるが…。
「報酬は50ナイザール金貨よ。期間は3週間。命を失うような依頼じゃない割には良い方だと思うけどな。」
ふむふむ。まぁ剣を指導するだけなら確かにそうかもしれないな。
「分かりました。じゃあその依頼引き受けます。」
「了解、手続しておくわね。来週からお願いね。」
お姉さんが書類に手をかざすとポワーっと光るものが見えた。
手続きを進める魔法だ。
「はい。頑張りますね!」
俺はその紙を受け取るとにこやかに一礼した。




