第82話 マルゴワールでの生活(2)
「お母さ~ん!」
カールが駆け出した。
その先には洗濯物を干すノーラがいた。
「カ、カールかい!?」
ノーラは驚きのあまり、洗濯物籠を地面に落としてしまった。
「うん! ただいまー!」
カールは勢いよくノーラに抱き着いた。
1年ぶりに母親に会えたのだ。カールは満面の笑みを浮かべていた。
「お久しぶりです、ノーラさん。」
俺はノーラに向かってぺこりと頭を下げた。
「アスカ! アルフレッドも! 無事で良かった。」
ノーラはカールの頭を撫でながら笑顔で答えてくれた。
「ん、その子は…?」
ノーラが言ったのはリディだ。
「は、はじめまして…」
リディが遠慮がちな感じの声で挨拶した。
「その子はね、リディだよ! ノワールコンティナンで知り合ったんだけど、ボクの大切なお友達なんだ!」
カールが嬉しそうな顔で説明した。
「リディです、よろしくお願いします…」
リディが緊張した声で挨拶の言葉を述べた。
「へぇ、あんた魔族かい?」
「は、はい…」
リディがもじもじしながら答えた。
尻尾がへにゃっと下を向いている。
「はっはっは、そんな緊張しないでいいさね。うちにお上がり。カール、お友達を案内しな。」
「はーい!いこ! リディ」
カールがリディの手を引いて家の中に入って行った。
「アスカ達もゆっくりしていきなよ。色々話も聞きたいからね。」
ノーラが地面に落ちた洗濯物を拾いながら言った。
「はい。お邪魔しますね。」
俺達は洗濯物を拾い終わったノーラに続いて家にお邪魔することにした。
「おう、久しぶりだな。」
俺達が居間に通ると、ノーラの夫である魚屋の主も売り場の方から姿を現した。
ノーラは俺達にお茶を用意してくれているようだ。
少ししてお盆にお茶を乗せて居間に入って来た。
カールは久しぶりに会ったきょうだい達と裏庭で遊んでいた。
リディも馴染めている様だ。良かった。
「お茶よ。遠慮しないで飲んでね。」
「頂きます。」
俺は出せれたお茶をぐびっと飲んだ。
爽やかなハーブティーのような味でとても美味しい。
「良かったら1年前のあの日、神殿の転移魔法陣から転移してからの話を聞かせてくれる?」
ノーラは俺のティーカップにお茶をつぎ足しながら言った。
「あ、はい。」
俺はアルフレッドと共にノワールコンティナンへ転移してからの事を話した。
ノワールコンティナンでやってきたこと、仲間の死、この大陸への航路などだ。
マルゴワールでの国王救出については話していいか分からなかったのでぼかそうと思ったが、作戦終了後にケヴィンからそれとなく聞いていた様だ。
「なるほど、大変だったんだな。うちの坊主は役に立ってたか?」
ご主人がせんべい(のようなお菓子)をバリボリと食べながら言った。
「もちろん、カールは凄く役立ってくれましたよ…って、心配とかそういうのじゃないんですか?」
「あー、まぁ心配はしてなかったな。何しろ母親がこいつだからな。」
「それってどういうことかしらね…?」
ノーラはジト目でご主人を見た。
ま、まあ、言いたいことは分かる。
カールは自分の母親の事を一族最強の戦士だと言っていた。
ムキムキマッチョ、ではないが逞しい体をしている。
どこかのフ〇ンズの如く身体能力は高いはずだ。
カールは人間であるご主人とのハーフであるが、高い身体能力を受け継いでいた。
「ところで、アスカ。ケヴィンから聞いたんだけど、貴女お姫様だったのね。」
「え、ああ。一応…?」
俺はお姫様であるが、中身は違うし…。うーむ。
「あまりそう見えませんでした?」
「そ、そうね。あまり気品は感じなかったわね。悪いけど…」
そりゃそうだ。まぁケヴィンがどこまで話したのか分からないし、俺自身の事まで話す必要は無いんだろうか?
「お姫様って言っても元々何年も寝てただけですからね。」
「なるほどね。それにしても…」
ノーラは俺の横に視線を向けた。
「・・・?」
視線の横を確認すると、それは俺の剣だった。
「貴女、かなり強くなったみたいね。その剣自体もかなり攻撃力ありそうだけど…」
この人は元来冒険者で、獣人族の女戦士なのだ。
やはり強さとかそういうのは気になってしまうのだろう。
「アスカは強いですよ。多分僕じゃ勝てませんね。」
アルフレッドくんはいきなり何を言うのかな…!?
「え、ええ!? そんなことないと思うけど…」
「僕的にはAランク冒険者に匹敵すると思うけどな。」
や、やめてー。
このノーラさんみたいな人にそういうことを聞かせては…。
俺はチラッとノーラを見た。
…やはり。
このうずうずしたような表情。もごもごと何かを言いたそうな口。
どこかのラノベで読みました。
獣人の女戦士、しかもその中で上位の実力者は戦闘狂っぽいキャラがいると。
何としても話題をそらねばなるまい。
「ノ、ノーラさん。私、こっちに帰ってくる間に少しずつお料理できるようになったんですよ! さっき紹介したリディも料理が得意で。私達の為に骨を折ってくれたお礼もしたいし、迷惑じゃなければアルフレッドやリディと一緒に作りたいんですけど…!」
俺はアルフレッドの腕を引っ張りながら立ち上がった。
「そう? じゃあお願いしようかしら。食材はお店のものを使ってもいいわよ。」
ノーラがニコニコしながら答えた。
何とか回避できたようだ。
あとでアルフレッドには文句を言ってやらないとな。
俺はアルフレッドの手を引いて台所に向かいながらそう思った。




