第81話 マルゴワールでの生活
ヘンドリクセン王救出に成功した後、マルゴワール領内での情勢は大きく変化した。
マルゴワール伯爵ジョルジュは3000の兵を動員し兄レオポルド派のナイザール王国軍の掃討作戦を発動した。
かつて兄レオポルドはマルゴワールを威圧するために1万の兵を派遣したが、その後他国及び諸侯領を制圧に兵を差し向けた為、マルゴワール領内に駐留していたのは500名、境界付近に100名程いただけであった。
レオポルド派の部隊の一部は抵抗したがそれも長続きせず1日も持たずに降伏し、境界付近にいた兵は撤退していった。
この一連の動きの結果、俺達は所謂「お尋ね者」では無くなった。
「ふぁ~~。」
俺はバルデレミー商会の施設のソファーでぐーっと伸びをした。
「よう、暇そうだな。」
ロイがビールを片手に話し掛けて来た。
うーむ、この人は戦い以外ではいつも酒を飲んでる気がするな。
「暇だよー。いつまで俺達ここにいなきゃいけないのかな?」
「さてな。今はギュスターヴ殿下がバルデレミーと事後処理に動いてるようだ。」
ロイはそう言うとゴクゴクっとビールを飲み干した。
「ま、俺は暇な方がコイツが楽しめるから良いけどな。」
ロイがそう良いながら冷蔵庫から新しいビールを取り出した。
この人は酒さえ飲めていれば幸せなのだろう。
「ねぇ、ロイ。俺ちょっと出掛けて来たいんだけど、大丈夫かな?」
「ん? どこに行くんだ?」
「市街地だよ。せっかくマルゴワールに戻って来たんだし、カールをお家に連れて行ってあげたいんだ。」
カールは1年ぶりに故郷に帰って来たんだから、家族のもとに連れて行ってあげるべきだろう。
「ああ、そうだな。それくらいならいいんじゃないか?」
「だよね。あと、久々にここの冒険者ギルドに顔を出して来ようとも思ってる。」
「分かった。ケヴィンやバルデレミーには俺から伝えておいてやるよ。」
「うん、お願い。ありがとう。」
俺はロイにペコッと頭を下げた。
「本当! お家に帰れるの!」
カールはぱぁーっと顔を輝かせた。
この1年でカールは背も伸びたし、かなり逞しくなった。
でもまだまだ子供なのだ。家族に会えるのが嬉しいのだろう。
「・・・」
リディが複雑な表情でカールの姿を見つめていた。
リディは肉親がいないのだ。心中は複雑だろう。
「あ…」
カールがそんなリディに気が付いた。
「リディ! お父さんとお母さんに君の事紹介するよ!」
カールがリディの手を握った。
「え、えっ!?」
リディが少し困惑したような顔をした。
リディは魔族で元々青白い顔色だから分かりにくいが、少し顔を赤らめている気がした。
背中の羽はへたっとしおれているし、尻尾もふにゃっとしていた。
何か可愛い。
うーん、カールにその気はないのかも知れないけど、しれっと凄いこと言っているような気がするんだけど、まぁそれはそれでいいか。
「さて、出発するから準備は良い?」
「うん!」
カールはリディの手を引いて歩いて行った。
「僕の方も準備OKだよ。」
アルフレッドが荷物を肩に掛けながら言った。
「よし、じゃあ行こうか。」
俺は剣を腰に下げた。
「武器も持っていくのかい?」
「まぁ、一応ね。」
「ところでアスカ、何か気になる事でもあるのかい?」
俺はアルフレッドを見た。
「どうしてそう思うの?」
「何となく…というか、アスカは分かりやすいからね。作戦が終わってから、何か引っかかる事があるような顔してたからさ。」
うーん、俺って表情に出やすいのかな?
「気になるっていうか…、ギュスターヴお兄様がね…」
「ギュスターヴ殿下がどうかしたのかい?」
「お父様を助け出した後の、お兄様。何か変な気がするんだ。」
「…変なって?」
アルフレッドはきょとんとした顔になった。
変な気がする、とは非常に漠然としすぎている。
「何となく違和感というか…、うまく説明できないんだけど。」
「…そっか、そうかもしれないね。」
アルフレッドが軽く頷いた。
「え、アルフレッドも何か気になることがあるの?」
「ギュスターヴ殿下が取られている対応には少し違和感を感じるよ。折角国王陛下をお助けできたというのに、実際にお会いできたのは殿下とその配下の人だけだ。」
父王は相変わらず面会謝絶である。
兄ギュスターヴ曰く、父王の健康上の問題との事だ。
「いくら陛下の健康状態が良くないと言っても、陛下の息女であるアスカが面会も出来ないのはちょっとおかしくないかな?」
それもそうである。
面会が許可されないのは俺の方が積極的に求めていないのもあると思っていたが…。
「アルフレッドの言う通りだけど、でも今は確かめようも無いよね…」
「そうだね。とりあえず僕達は普通に過ごしていくしかないんじゃないかな。」
アルフレッドの言う通りだ。
今は俺達に打てる手はないのだから、俺達はこのまま過ごしていくだけだ。
「カール達がどんどん先に行っちゃうよ。僕達も早く行こう。」
「う、うん!」
俺はアルフレッドともに小走りでバルレデミー商会の施設を出発した。




