第76話 マルゴワール領再潜入(2)
「いいかい? 今度の作戦だけど…。」
バルデレミー商会の船の船室にて、俺は仲間達に向かって口を開いた。
「マルゴワール領に潜入するにあたって、俺達はケヴィンの魔法で変装することになった。」
「ふむふむ。確かにそれならアスカのお兄さん? にはバレずに忍び込めるかもね。」
リディが真面目な顔で答えた。
「そうだね、だけど一つ問題があってね。ケヴィンの変装の魔法というのは、魔力で姿の上書をするものなんだ。だから内側から魔力を発してしまうとそれが消えてしまうんだよ。」
「へー。じゃあ、何か魔法を使ったりすると変装が解けちゃうんだ?」
「んー、それだとボク達のパーティって厳しくない?」
カールが不安そうな顔で口を挟んだ。
「うん。ケヴィンの魔法が掛かった状態でまともな戦闘能力があるのはカールだけになるね。俺は風の魔力の強化が無いと何もできないし、アルフレッドは魔法使いだ。リディのクロスボウは俺の魔力で矢が装填される。カールは戦えるけど、獣化は使えないね。」
「うーむ、僕達はお荷物じゃないか。ギュスターヴ殿下の部下は戦士系を揃えてるみたいだけど…。」
「アルフレッドの言う通り、変装が必要な間の戦闘は彼等に任せることになるだろう。でも俺達が何もできないかというと、そうでも無いんだ。」
「え、どういうことだい?」
「これを見て。」
俺は荷物袋から呪文書を取り出して机に置いた。
「これはさっきバルデレミーから仕入れて来た呪文書だ。」
アルフレッドが呪文書を一つ手に取った。
「あれ、でもこれは何も書いてないね。」
「そう。普通の呪文書は既に魔法が書き込まれてるんだけど、これは何もない真っ白なやつなんだ。」
俺がバルデレミー商会から仕入れることが出来た呪文書は12枚だ。
そんなに多い数では無いから、慎重に使わないといけないだろう。
「そこでアルフレッドに相談なんだけど…。」
俺はアルフレッドを見た。
「これに魔法の効果を付与するのはどうすればいい…の?」
「は…!?」
俺の問いに、アルフレッドは目を丸くした。
「し、知ってるからこれ買ってきたんじゃ…?」
「俺がそんなの知ってると思う?」
「そうだよね…(期待するだけ無駄だった…)。」
アルフレッドがやれやれという表情になった。
「分かった、調べておくよ…」
こういう時頼りになるのはアルフレッドなのだ(断言)。
さてグヴェナエル共和国からマルゴワール領までは大陸の沿岸航路を進む。
前にも述べたが、兄の軍は海軍が無い。
勿論所々に灯台があるから、小さい船を保有する程度の監視部隊くらいはあるのだろう。
だが俺達は変装できるわけだし、バルデレミー商会は国際的に活動が認められている商船なのだ。
俺達は特に危険なことに巻き込まれることなく、3日程でマルゴワール領の港に到着した。
上陸を前に一行は準備、つまりケヴィンの魔法による変装を終えた。
俺達は地味に商隊付きの子供に変装した。
まぁ、実際に俺達は他のもの達から見たら子供であるわけだが。
準備を終え船は錨を下ろした。
すぐさまマルゴワール領に入港する船を検査する人員が数名乗り込んできた。
船の船倉などを検査する者、甲板を見回るもの者など様々だったが、その隊長のような者はバルデレミーと何やら会話していた。
バルデレミーのみは変装していない。
彼が変装してしまうと逆に怪しまれてしまうかもしれないという配慮からだ。
約1時間ほどの一連の検査が終了し、検査部隊が船から引き揚げていった。
バルレデミーも3名ほどの秘書と共に付き従っていく。
バルデレミーはこれからマルゴワール領主であるジョルジュ伯爵との会食に行くそうだ。
会食後もバルデレミーはマルゴワール領の監視の目を俺達から逸らす行動をする。
その間に俺達はヘンドリクセン王が幽閉されている城へ向かう手筈を整え出来次第行動を開始する、そういう作戦なのだ。
本格的な行動開始は明日だ。
まずは準備万端整えよう。
俺は気持ちを新たに、嘗て魔法陣で脱出した町に足を踏み入れた。




