第71話 “再会”
「見て! 港が見えたよ!」
カールが嬉しそうな顔で指さした。
「ああ、やっとついたね。」
視線の先には大きな港が見えて来た。
グヴェナエル港はこの大陸における海洋貿易の玄関口だ。
俺達はついにノワールコンティナンから帰って来たんだ。
十数分後には久しぶりの陸に上がれることだろう。
「ここにいたか、アスカ。バルデレミーの奴が入港したらバルデレミー商会の施設があるから、その会議室に来てくれってよ。」
後ろからフェルディナンが声を掛けて来た。
「バルデレミーさんが? 何だろう?」
「さあな。俺に聞くなよ。」
フェルディナンがぶっきらぼうに答えた。
「それよりお前達も下船する準備はやっとくんだな。周りを見なよ、忙しくなるぜ。」
フェルディナンの言う通り、船員達が慌ただしく入港の準備を始めていた。
この船は大型で交易船でもあるから荷物の積み下ろしなどやることが多いのだろう。
「そうだね。降りる準備をしよう。」
俺達は仲間を促し、下船する準備をする為に自分の船室に向かった。
俺達はついにエレオノール大陸の地を踏んだ。
お姫様の故郷がある、エレオノール大陸だ。
「ねえ、アルフレッド。俺はバルデレミーさんに呼ばれてるから、ちょっと行ってくる。皆は指定の宿屋で待っててくれる?」
「うん、分かった。気を付けて。」
「え…?」
俺はアルフレッドの顔を見た。
「いや、何となくね。」
「うん、分かった。」
俺は自分の剣を手に取った。
最初は置いていくつもりだったが、念の為持っていこう。
俺は腰ひもに剣の鞘を括り付け、バルデレミー商会の施設に入って行った。
「アスカ・エール・フランクール、入ります。」
俺は会議室の扉を開いた。
「来たか。」
部屋の中にはバルデレミー、フェルディナン、ノエルがいた。
そして、見慣れない人間が一人。
「あ・・・」
いや、“見慣れない”訳では無い。
俺としては面識は無い。だがお姫様の記憶がそう言っている。
ノワールコンティナン、リディの一族の族長の能力で精神世界に行ってから、お姫様の記憶と繋がるようになっていた。
お姫様はこの人を知っている。
「久しぶりだな、アルエット。」
「貴方は、ギュスターヴお兄様ですか…?」
「そうだ。」
やはりそうだ。この人は長兄・第一王子ギュスターヴだ。
「バルデレミーからの魔法通信でお前がノワールコンティナンに現れたと聞いて心配したが、元気そうでなによりだ。」
「はい…」
俺は片膝をついた。
「…お兄様も。」
「堅苦しくしなくてよい。顔を上げろ。」
俺は顔を上げられなかった。
俺の魔力で、兄の軍は壊滅したのだ。
「…どうしたのだ?」
「お兄様は…、私を恨んでいないのですか?」
「恨む…? 何故だ。」
俺は少し震えながら、ようやく顔を上げた。
「お兄様が率いた軍は、私の力で壊滅しました。貴方の部下、ノエルの友人達は私が殺したのです。」
「…そうだな。」
俺はノエルの顔をチラッと見た。その表情は強張っていた。
「貴方達にとって私は罪人の筈です。それなのにどうして…?」
「・・・」
ギュスターヴが俺に近づいてきた。
「お前のことについては先程報告を受けた。確かに俺の軍はお前の魔力を用いた魔導砲にやられたが、それについてお前が悔いているという事も聞いている。」
ギュスターヴは俺の肩に手を置いた。
「それにあれはお前の本意ではない。全てレオポルドが計画した事。ならば俺はお前を罰しない。」
「お兄様…」
「だからもうそういう顔はしないことだ。いいな?」
「はい…」
そう言うと、ギュスターヴは元いたところに戻った。
「バルデレミー、よく妹を連れて来てくれた。」
「はっはっは、私はたまたま冒険者を雇っただけです。ゆめゆめ忘れなされるな。」
バルデレミーは豪快に言った。
「うむ、そうだな。ノエルも苦労を掛けたな。」
「はっ、勿体ないお言葉…!殿下もご無事で、私は感激しております。」
ノエルは感極まった表情で答えた。
「お兄様、私はいまいち状況が掴めていないのですが…」
「ああ、そうだな。説明してやろう。」
ギュスターヴの説明をかいつまむとこうだ。
1年前のレオポルドのクーデターで、ギュスターヴの軍は壊滅した。
何とかギュスターヴとその部下は散り散りになり、各地に身を潜めた。
ノエルは主君のギュスターヴの生死も分からぬままノワールコンティナンに逃れた。
ギュスターヴは再起を図る為、散り散りなった部下や協力者を纏める為、グヴェナエル共和国に移った。
バルデレミーは商売柄各地の有力者との繋がりがあり、そのためギュスターヴに協力しているらしい。
フェルディナンは、
「俺は金を払ってくれる限り仲間だぜ! はっはっは。」
との事である。
大体事態が掴めてきた。
「レオポルドはラストーチカ王国を蹂躙しただけでは飽き足らず周辺諸国をも征服し、自らの帝国を築き上げようとしている。中立を保っていたこのグヴェナエル共和国も不可侵条約で影響下に置き、エレオノール大陸の半分を支配下に置いたようだな。」
「半分…!」
俺は顔を強張らせた。
「ひでぇもんだな。ギュスターヴ殿下はそんな状態でどうやって再起を図ろうと言うんですかい?」
フェルディナンが地図を眺めながら言った。
「俺がこの数ヶ月で糾合出来た兵はまだ数千ってところだ。弟の軍には遠く及ばない状況だな。」
「そんなんじゃ無理じゃないですか…」
「ふむ…」
ギュスターヴは腕を組んだ。
「俺はまずは父上をお助けしようと考えている。」
「お父様を…?」
俺はギュスターヴを見た。
「うむ。情報によれば父上はマルゴワール領からほど近い古城に幽閉されている。父上をお助けすれば今は臣従している諸侯も我らに組みしてくれるかもしれぬ。」
なるほど。レオポルドがここまで迅速に支配地を広げた要因としては魔導砲の一撃と、ラストーチカ王国を瞬く間に蹂躙したことにある。周辺国はこれを恐れたのだ。
父・ヘンドリクセン王を救出すれば反攻へのきっかけになる可能性も無くはない。
しかしヘンドリクセン王が幽閉されている城はナイザール王国領内にあり、ここよりかなり遠方にある。
そんなところまでどうやって行こうというのか?
「バルデレミーにはもう一つ骨を折ってほしい。お前はマルゴワールにも顔が利くだろう。」
「そりゃまぁ、私の船に乗るくらいの人数ならマルゴワール伯爵領に潜入させることは出来ますな。」
「逆に少人数の方が、弟の目に付かないだろう。精鋭を送り込み、父上をお助けする。無論、俺も行くつもりだ。」
「しかし、さすがに殿下が行ったらバレやしませんか?」
フェルディナンが口を挟んだ。
「そこでだ、アルエット。」
「はい…?」
「お前、ベルクールと繋がっておろう。」
「え、あ、はい…」
ベルクール、ケヴィンの事だ。
「ベルクールの能力は知っている。だが俺はベルクールと連絡を取る術を持たぬ。が、お前はそれがあると聞いた。奴と連絡を取ってほしい。」
確かに、俺にはある。ケヴィンとの別れ際渡された呪文書。
これは念話を行うものだ。
「しかし…」
ギュスターヴの依頼に応えると言うことは、ケヴィン達がこのギュスターヴの戦いに巻き込まれるという事だ。
「お兄様、一つお聞きしたいことがあります。」
ひとつ、確かめておきたいことがある。
俺は立ち上がってギュスターヴの顔を見た。




