番外編 “腰抜けPT”の活動報告2
~ケヴィン視点~
「ただいま。」
「おう、カサンドラ。どうだった?」
アジトにしている廃倉庫にカサンドラが帰って来た。
俺達はグヴェナエル共和国ではいくつかのアジトを作り上げていた。
一か所に留まり続けるのは危険なのだ。
「やっぱりだめね。小さい漁村の港さえ、レオポルドの勢力の許可なしに出港出来ないみたい。」
「そうか…」
俺はカサンドラの報告を聞き溜息をついた。
俺達はノワールコンティナンに向かう船を雇うべく行動していたのだが…。
この状況ではそんな許可が出るわけがない。
アルエットの兄であるレオポルドがクーデターを起して数か月、レオポルド率いるナイザール王国軍の動きは目ざましいものがあった。
隣国ラストーチカ王国を滅ぼした後、周辺諸国を瞬く間に併合。エレオノール大陸の半分にも渡る大帝国を打ち立てた。
残る国々や諸侯は雪崩を打つように不可侵条約を締結しようとした。その国々には不平等な中身であったが、それを拒むことは出来なかった。拒めば滅ぼされるだけだ。
そして、最後までその流れに抗っていたこのグヴェナエル共和国もついに屈したわけだ。
「船を雇う為にクエストをやって金貯めたけど無駄になっちまったようだな。」
ロイが酒を飲みながらぼやいた。
「そうだな…」
「あ、でもケヴィン。この大陸からノワールコンティナンに向けて船を出すのは厳しそうだけど、ノワールコンティナンからこっちに向かっている船がひとつあるみたいよ。」
「ん、そうなのか…?」
「うん。」
カサンドラが頷いた。
「バルデレミー商会の船が1か月前に向こうを出たらしいわ。順調なら、数日後にはグヴェナエルの港に着くはずよ。」
「ああ…、バルデレミー商会か。」
バルデレミー商会は俺達の、冒険者の筋では名が知れていた。
軍船を除いて、ノワールコンティナンから他の地との航路を結ぶ船はバルデレミー商会のものだけだ。
それ以外で渡る為には自ら船を雇う必要があった。
だがそれはレオポルドの件がなかったとしても、かなり難しい。魔物が闊歩する海域を渡る物好きは少ない。
「バルデレミーの奴ら、またノワールコンティナンに戻るのかねぇ?」
ロイが呟いた。
なるほど、確かにそうだ。バルデレミー商会はノワールコンティナンとの航路の商売を独占している。
ナイザール王国は辺境地域にマルゴワール領のような臨海部を持つが本来の直轄領は海に面しておらず、基本的には内陸国である。
服属した国家から航海技術を吸収しようとするだろうが、外洋航海にすぐ行くのは難しいだろう。
ノワールコンティナンへの航路は猶更そうである。
よってバルデレミー商会を無下には扱えないはずだ。
「ふむ、明日港の方へ向かおう。向こうのアジトはまだ使えるな?」
「ああ、ラカンが確保している。」
「よし、早朝に出れば昼頃には着くはずだ。各自準備をしておけ。」
仲間に指示を出すと俺は椅子に深く座って煙草に火を付けた。
翌日、俺達はアジトを出発した。
グヴェナエル共和国は商業都市であるから街道には多くの商隊が行き来している。
勿論、道中では魔法で変装済みだから、簡単に見つかることは無い。
「ロイ、あの子達今どうしてるのかしらね?」
「あいつらの事だから、うまくやってるんじゃねえか? ケヴィン、どう思う?」
「ああ、そうだな…」
不思議と、心配していない。いや、心配はしているが、死んではいないと思う。
何とも妙な表現ではあるが、俺はそう思うのだ。
1年前、アルエットは目を覚ました。
それ以前はずっと寝たきりだったから、その時はかなりひ弱だった。
だがそれからはどうだ?
俺達といたころでさえ、急激な成長を遂げた。
(ちっこいのと、ある部分の成長は無かったが…)
以前聞いた情報ではBランクの冒険者を軽く凌駕したそうだ。
普通に考えれば、寝たきりだった人間がここまで成長するはずはない。
アスカはきっとかなりの努力をしたのだろう。
それならあいつはアルフレッドと、仲間と共に、今も努力しているはずだ。
ひょっとしたら、バルデレミー商会の船で魔物が生息する危険な航路を、こちらに向かっているかもしれない。
そう思えてしまう。
「ロイの言う通り、あいつ等ならきっとうまくやってるさ。」
俺は頷きながら答え、馬車を引く馬の手綱を握りしめた。




