第69話 闇
「うまくやったもんだな、ノエル。」
巨漢の男がノエルを見下ろしながら話し掛けた。
「何の事かな?」
ノエルは視線を合わすことなく答えた。
巨漢の男はイアサントだ。
「ロベールを殺ったのはあんただろ?」
「何を馬鹿な事を…。何で私がロベールを殺さなければならない? その前に…」
ノエルはこの時点でイアサントを睨み付けた。
「奴の死因は剣で斬殺されたものだ。剣を扱えない私がどうやってロベールを殺せると言うんだ?」
「俺はあんたが各パーティーを探っていたのを知ってるんだよ。それにあんたはBランクだが、それはあんたが『そのままの状態』での評価だ。」
「…何が言いたい?」
「誰もお前の獣化を見たことがない。獣人なのにな。」
「それが私がロベールを殺したという証拠になるのか?」
「ならん。全くな。」
「話にならないな。お前は…」
「その通りだ。」
イアサントがノエルの言葉を遮った。
「ロベールの死因が剣で斬られたものだと考えると一番怪しいのはアスカだろうな。だがあいつは犯人じゃねえよ。」
「・・・」
「お前は魔導士で剣の素養がない。そしてロベールパーティとのやっかみも無い。怪しすぎない所を、俺は疑ってるのさ。」
「ふん。下らない話だな。」
ノエルがそう言うと身を翻し歩ぎ始めた。
イアサントはその後姿を腕を組みながら見つめていた。
「視線を感じるって?」
「うん。」
その頃、非番だった俺達はコーヒーを飲みながら寛いでいた。
「それってどういうことなんだい?」
アルフレッドがコーヒーカップを置いてリディに問いかけた。
「さすがにこの部屋の中では無いんだけどね。外に出ると感じるんだ。」
「アスカは何か気付いてた?」
「うーん…」
俺が使える『風の探知能力』は風の乱れによって何者かの接近を察知する。
「俺の方ではちょっと分からなかったな。」
「そう…。リディ、もうちょっと詳しく教えてもらえるかい?」
「あ、ごめんね。隠してるわけじゃなかったんだけど、実は俺…」
リディは人差し指を空に向けた。
するとその指先からユラユラと黒い煙のようなものが立ち上り…。
少しだけ透き通った黒い魔物のようなものが形作られた。
「そ、それ何なの?」
カールが目を丸くした。
「あのね、これ、友達のスペクトル君。魔族って自らの眷属として魔物を使役する者が多いんだけど、この子は俺が使役できる唯一の魔物がスペクトル君なんだ。」
「へぇ…」
リディの言葉に、俺は感嘆の声を声を上げた。
「この子は戦う力は全く無いんだけど、自らに向けられた『呪い』を感じることが出来るの。探知できる『呪い』というのは直接的にダメージを受ける以外のもの、かな。」
「つまり、何かの能力によって僕達を探っている『呪い』を感じたってことなんだね。」
「そ~なの~、アタシってさ敏感だから、ついついそういうの感じちゃうのよね~。」
スペクトル君がいきなり話し始めた。まるでオネエのような口調だ。
「ん、んぐ! あなた、話せるの?」
俺は吹き出しそうになるのを堪えながら言った。
「何言ってるの~、当たり前じゃない。」
「うーん、それであなたが感じた視線っていうのは?」
「ああ、それね~。この船に乗った時からずっと感じてたわよ。あ、少なくともアタシがリディに召喚されている間はね。」
「召喚している間は魔力を使っちゃうから、ずっとするのは無理なんだ。」
リディが補足した。
「なるほど…。ちなみにあなた自身の存在は監視してきている何者かにばれていると思う?」
「アタシは実体のある魔物じゃないのよ。それにアタシの隠蔽はそんなヤワじゃないわ。」
スペクトル君は(おそらくドヤ顔で)答えた。
なるほど、『安全地帯である自らの部屋』以外においては何者かの能力によって、すべての行動が監視されている。
「でもそれだけじゃ誰が監視してきているのか分からないね。」
その通りだ。他のパーティーの誰かなのか分からない。雇い主であるバルデレミー商会の可能性もある。
一つだけ可能性が高いのは、ロベールを殺害したのはその人物だという事だろう。
俺達は冒険者としての経験値は低い。
こんな時ケヴィンならどうするだろう。
「うーん、ちょっとこちらから探りを入れてみようかな。」
少し考えてから、俺はそう言って仲間の顔を見た。




