第67話 事件
「それ」は商船がノワールコンティナンの港を出港して2週間目に起こった。
ロベールが護衛任務に現れなかったのである。
ロベールパーティの仲間達が船内を捜索、結果―――。
ロベールは船の最下層にある船倉で、遺体となって発見された。
死因は心臓を鋭利な刃物で一突きされたことによるものだった。
事件を受け、各パーティのリーダーとその補佐が船の会議室に集められた。
ロベールパーティは補佐のアルバンの1名のみだ。
「詳細は今話した通りだ。そこにいるアルバンによれば昨日の夕食後に部屋を出て行ったのは確認されているから、その後に殺されたと思われる。」
バルデレミーがそう言ってから葉巻をふかした。
「その後は誰も見ていないんですか?」
俺はアルバンに質問した。
「ああ。ロべールは夕食後は一人で過ごす習慣を持っていた。だから俺達はロベールを探しもしなかったし、何の疑問も持たなかったんだ。」
アルバンがそう説明した。
「へ、ロベールの奴も腕が鈍ったんじゃねえか? 大した抵抗もせずに心臓を一突きなんてよ…」
フェルディナンが皮肉っぽい口調で言った。
「な、何だと!? 貴様…!」
アルバンがフェルディナンに詰め寄ろうとした。
ドン!
バルデレミーが自分の机の上に大きな音を立てて足を置いた。
「そういうのは他でやってくれ。俺達としては今回の犯人探しとかするつもりも無いしな。さて、ロベールの遺体だが、明日までに必要なものは引き取ってくれ。火葬の後、遺灰を海に流すことになる。」
「馬鹿な! 我々のリーダーを海に捨てるというのですか!!」
アルバンがバルデレミーを見た。
「死体を船に置いたままには出来ん。腐ってしまうだけだし、この辺りは魔の力も濃い。魔物になってしまう可能性もある。」
「くっ…」
「お前達は傭兵で分からんかもしれないが、海で生きる俺達はそうしてきたんだ。俺に雇われている以上、従ってもらう。」
アルバンが下を向いた。
「さて今日は解散だ。護衛任務は繰り上がってイアサントパーティにやってもらう。アルバン、お前達は次の順番までに、任務を継続するか決めてくれ。」
バルデレミーの言葉の後、俺達は会議室を後にした。
「ねぇ、フェルディナン。」
俺はフェルディナンを廊下で呼び止めた。
「あん? 何だ?」
「さっきのあなたの言葉、あれは酷いんじゃないの?」
フェルディナンがニヤッとした。
「俺は事実を言っただけだぜ。最も…」
フェルディナンが一呼吸置いた。
「Aランクである奴の心臓を一突きなんて、そうそう出来るものじゃない。実力が拮抗していれば、致命傷以外の傷があっても良いものだが…」
確かにその通りである。この船に乗っている冒険者の中で、Aランクなのはロベールだけだ。
「そうすると、いったい誰が…」
俺は腕を組んだ。
「なあ、アスカ。」
「なに?」
俺はフェルディナンを見た。
フェルディナンの顔はいつもの嫌味ったらしい顔では無かった。
「確認だが、おめえ、犯人じゃねえよな?」
「え、お、俺…?」
俺は目を丸くした。
「この船に乗っている冒険者で、俺が見てかなりの剣の『遣い手』なのはお前だけだ。剣の腕で言うと他のパーティを見ても、ロベール以外だとお前が一番の遣い手であるのは間違いない。」
フェルディナンの言う事にも一理ある。他の冒険者達が自分の本当の腕前を隠しているのかもしれないが、分かっている中では俺が一番かもしれない。
決して己惚れているわけではない。
「どうだ? お前は犯人なんかじゃねえよな?」
「うん、俺は決して…。信じられないかもしれないけど…」
「なら、俺はこれ以上何も聞かねえさ。だがな、他のパーティは別だ。ノエルは信じられるだろうが、他はどうかな。」
そうだ。確かに俺に疑いの目が向けられるかもしれない。
まさか、フェルディナンは一時的にでもその目を逸らさせるためにあんなことを?
「フェルディナン。」
「ん?」
「その、ありがとう。」
俺はフェルディナンに礼を言った。
「フン、柄じゃねえって…」
フェルディナンは少し照れくさそうな表情になった。
しかしロベールが殺害されたこの事件…。
まだまだ航路が続く中、火種になっていきそうだな。
フェルディナンの背中を見送りながら、俺はそう思った。




