第66話 オオダコ祭り!(3)
「へっーくし!」
俺はタオルに包まりながらクシャミを連発した。
目の前のランタンで暖を取っているとは言っても冷たい海に落ちたのだ。
「全く…、自信満々で海の方に飛んで行ったから大丈夫かと思ってたんだけど、まさか泳げないなんてね。」
ノエルが嫌味ったらしく話し掛けて来た。
「う~~~。剣に魔力を込めたら“足場”が消えるなんて思わなかったんだよ。」
「…あなた、結構行き当たりばったりなのね。」
「でも、あのオオダコは細切れに出来たでしょ。」
「そ、そうね…」
俺はあの時かなりの魔力を剣に込め抜刀した。
その瞬間オオダコに向かって無数の、それも強力な風の刃が生み出され、オオダコを切り裂いたのだ。
「あの大きさの魔物を一撃で倒すなんて大した威力だわ。私が全魔力を込めた最大魔法でもああはできないでしょう。」
「でしょでしょ!」
「おう、さっきのは凄かったな!」
向こうからフェルディナンが近づいてきた。
「ちょ…!今はこっち来ないでよ。」
俺はタオルにぎゅっと包まった。
海水に濡れ、服の一部が透けてしまっているのだ。
「ああ…。でもな、お前みたいなガキの体見てもなんとも思わねえよ。どこもでっぱってねえしな。」
「な、なな、ガキですって!」
俺は顔を赤くしてフェルディナンを睨み付けた。
その様子を見たノエルがふーっと息を吐いて立ち上がった。
「フェルディナン、あまりからかっちゃだめよ。これ以上つっかかるなら、私が相手になるわよ。」
「カカカ、そりゃ悪かったな。そんなつもりは無かったんだけどよ。」
フェルディナンは肩を竦めた。
…なんか今日のノエルは優しい。
「アスカ、さっきのお前の技は凄かったよ。俺のパーティだけじゃ、あそこまでうまくタコの化け物を処理できなかったはずさ。」
「え、あ、うん…」
「これでこの前の貸しは無しだ。…じゃあ俺は任務に戻るぜ。」
フェルディナンはそう言うとその場を離れて行った。
その晩、俺達はノエルのパーティと食事を共にすることにした。
フェルディナン達も呼びたかったが、護衛当番の任務は丸一日課されているので断念した。
「おーい、バルデレミーから食材の提供があったぜ!」
ノエルパーティの一人が木箱を持ってきた。
「食材だって! 何だろう!?」
俺はアルフレッドと共に木箱を覗き込んだ。
「・・・」
「・・・」
「ねえ、アルフレッド。これって…」
「さっきのオオダコだよね…」
「これって食べられるのかな?」
「さあ…」
箱に入っていたのはさっきのタコの魔物の切り身だった。
俺が細切れにしたもの、そのものだ。
…まぁ確かにボアの魔物を食べるくらいだから、毒でもなければ食べられるのだろうが。
「あら、美味しそうじゃない。」
ノエルが俺の横から木箱を覗き込んだ。
「…ノエル。これってさっきのタコだよ? 食べられるの?」
「私のような亜人種は食べられないものの方が少ないの。あなたのパーティの子も、そういう目で見てるじゃない。」
そう言われたので、俺はカールのほうを見た。
カールは人差し指を口元に当てながら、キラキラした目でタコを見ていた。
「ま、これはウチに任せておきなさい。エルネスト!」
ノエルに呼ばれ、エルネストが前に出て来た。
そのいで立ちは冒険者と言うより、まさに料理人だ。
「ご安心ください。このタコは食べられる種類で…」
聞くとエルナストはノエルパーティの料理番だそうだ。
かつてはとあるレストランで料理長としていたそうだがノエルが引き抜き料理番にしたそうだ。
俺が倒したオオダコはエルネストによって手際よく料理に変わっていったのである。




