第7話 久しぶりの外出(2)
「うわぁ…」
俺はキラキラと輝く水面を見て、感嘆の声を上げた。
「この湖はナイザール王国に恵みをもたらしてくれています。我々は湖で獲れる魚などはもちろん、灌漑用水や生活用水など様々な恩恵を得ています。」
アルフレッドに最後に案内された場所。
本当に美しい湖だ。水面に映る夕日がユラユラとしていて、とても幻想的だと思う。
ドォン!
突然大きな音が鳴り響いた。森の方角だ。
俺は音のした方角を見た。
土煙とともに、何か大きいものが走ってくる。
その前には逃げ惑う人が3人、いや、4人見える。
「アルフレッド、誰か追いかけられてる!」
「あれは、ボアだ。けど、あんなに大きいものは初めて見る…」
アルフレッドが緊張した顔になった。
追いかけられているのは冒険者だろうか?
湖の方へ必死に逃げてくる。
「あいつ! 町で因縁つけてきたやつ!」
最後尾で逃げる男は俺の腕を掴んできたやつだ。
必死に逃げながらも魔物に魔法で攻撃をしているが、あまりダメージを与えられて無いようだ。
その時、男より先に逃げていた女性が転倒した。
男が必死に起こそうとしているが、女性は中々立ち上がれない。
恐怖で足がすくんでいるようだ。
「アルフレッド! 助けないと…、やられちゃうよ」
俺はアルフレッドの服の裾を掴んだ。
「…よろしいのですか?」
「な、何がっ!?」
「あの男は姫様に危害を加えようとしていた男です。それでも助けに入る、とおっしゃいますか?」
アルフレッドが俺を見た。
「・・・」
確かにそうだ。あいつは俺を連れ去ろうとした。
アルフレッドがいなければ俺は今頃エロいことをされていただろう。
「で、でも…」
俺は唇と噛んだ。
俺も良く分からなかった。
俺として目覚めるまでの「俺」は、誰かを助けるとか、そういうのとは無縁だった。
寧ろ脅し、痛めつける側だったはずだ。「俺」はあいつと同類…。
「でも、俺は…」
俺は言葉を出せずに目を瞑った。涙が出そうだった。
アルフレッドはそんな俺を見て、頷いた。
「…分かりました。あいつを助けましょう。」
俺はハッと目を開いて、アルフレッドを見た。
「姫様は僕の後ろへ。ちょっと大きい魔法を使います。」
アルフレッドは杖を手にして、ブツブツと何かを呟いている。
恐らく、魔法を詠唱しているのだろう。
アルフレッドの右手が紅く輝いた。
背筋がゾクッとした。魔法を知らない俺ですら、大規模な魔法だというのが分かる。
「ち、ちょっと。あいつらを巻き込んだりはしないよね?」
「…努力はしますよ。」
アルフレッドが腕を伸ばした。
「呻れ、光焔劫火!」
かなり大きな炎の波が飛んでいく。
逃げていた冒険者たちの横を通り、炎が魔物を捉えた。
ボォォォォォッ!
魔物が唸り声を上げた。
暫くは必死にのたうち回っていたが、やがて動かなくなった。
おそらく仕留めたのだろう。
「・・・」
冒険者たちはあっけにとられた表情でその様を見ていた。
俺たちは彼らに近づいた。
「あ、あんたらは…!」
あの男が俺たちを見た。
「助けてやったんだから、礼くらい言ったらどうだ。」
アルフレッドはじろっと男を睨んだ。
俺はアルフレッドの後ろからチラチラっと男を見た。
「あ、ああ。すまねぇ…」
男は素直に頭を下げた。
「俺はケヴィン・ジェルマンだ。こいつらは俺のパーティの仲間だ。」
ケヴィンと名乗った男が仲間たちを見た。
「改めて礼を言いたい。名前を聞かせちゃくれないか?」
「僕はアルフレッド。こちらはさる名家のお方だが、名前は明かせない。」
アルフレッドは俺をちらっと見た。
「そうか、じゃあそれ以上は聞かねえよ。アルフレッド、俺たちを助けてくれてありがとう。」
その後、ケヴィンは俺を見た。
「それとお嬢さん、さっきはすまなかった。この通りだ。」
ケヴィンは俺にも頭を下げた。
「い、いや。もう気にしてないから」
「しかし、アルフレッド。あんたは凄いな。俺たちはこれでもB級の冒険者なんだ。だがあのでけぇ魔物は…」
ケヴィンが真っ黒に燃えた魔物の死体を見た。
「B級上位と言ってもいいだろう。普通のボアなら、C級が良いとこなんだが…」
「倒せたのは全力で魔法を撃てたからさ。貴方だって、詠唱する時間さえ取れればやれたんじゃないか?」
「そりゃそうだけどよ…」
ケヴィンが肩を竦めた。
「俺たちは遭遇のタイミングが悪かった。仲間がケガしちまってな、連携が取れなかったんだ。」
ケヴィンはアルフレッドの肩を叩いた。
「ともあれ、あんたの魔法は凄かったよ。火属性中級上位だろ、あれは。あんたがいなかったら俺たちはあいつの胃袋の中さ。」
本当に凄かった。
それに…、あんなに大きな魔物を一撃で倒したアルフレッドは、凄く格好良かった。
今回は、魔法の凄さを知った、そんな外出であった。