第62話 魔導士ノエル
「え、えっと…、君は何を…?」
俺は視線を逸らそうとした。
「目を逸らさないで」
ノエルが右手で俺の頬を掴んだ。
ノエルは俺に鋭いまなざしを向けて来た。
「あなたはやっぱりアルエット姫なのね。」
「…だとしたら、どうするの?」
「さぁ、どうしようかしら?」
ノエルのまなざしはどこか恨みのようなものが含まれている気がする。
「やめるんだ!」
アルフレッドが割って入った。
「貴方は従者のアルフレッドね。あたなたちはこんなところで何をしているの?」
「待って、アルフレッド。」
俺はアルフレッドの肩を掴んだ。
「アスカ?」
「この子が俺に向けてくる視線の中には憎悪みたいなのを感じるんだ。」
俺はアルフレッドを下がらせ、ノエルの前に座った。
「だからこそ、俺はこの事話をしなきゃいけない。そう思うんだ。」
俺はノエルの顔を見た。
「さっきは目を逸らそうとしてごめん、謝るよ。だから話をしてくれないかな。」
「いいわ。」
ノエルは俺の隣の椅子に座った。
そしてさっきまで握っていた杖を傍らに置いた。
どうやら俺に対する敵意は収めてくれたようだ。
「私の名前はノエル・ミレー。第一王子ギュスターヴ様付きの魔導士だったの。」
「お兄様の…!?」
「ええ。ギュスターヴ様の軍は、貴女の魔力をよって放たれた魔導砲によって大半は消滅したわ。ギュスターヴ様は行方不明、生き残った私達はちりぢりになって、国を追われた…」
「・・・」
「でも私はギュスターヴ様はきっと生きてるって信じてる。だから私は冒険者になって、ギルドを介して情報を集めるために汚い仕事もやってるの!」
ノエルは俺の肩をぎゅっと掴んだ。
「貴女のせいで、多くの仲間が死んだわ。貴女は何のためにここにいるの!? 答えて!」
「・・・」
俺は一度視線を落とした。
でも俺はノエルと向かい合わなければならない。
俺は再び視線を戻し、ノエルの顔を見た。
「聞いてほしい。あの魔導砲を撃ったのは、アルエットじゃないんだ。」
「な、何を言ってるの…!?」
ノエルが俺を睨み付けた。
「あれを撃ったのは俺、アスカなんだ。今、この体を動かしてるのはアルエットじゃない。きっとアルエットはこの中にいるだろうけど…」
俺は胸元を押さえた。
「信じられないと思うけど、最後まで聞いてほしい。俺は…」
俺はノエルに自分自身の事を話した。
「・・・」
話を聞いているうちに俺の肩を掴む力が弱くなってきた。
ノエルの手は小さく震えている。
「分かってくれたかな。俺の事は恨んでくれて構わない。でも、アルエットの事は…」
俺がそう言うとノエルは手を放した。
「…戻るよ、エルネスト。」
ノエルは俺に背を向けるとそれ以上何も言わずに部屋を出て行った。
エルネストと呼ばれた男も後に続いたが出口のところで足を止めた。
「アルエット姫、いえ、アスカ・エール・フランクールでしたか。ノエルは本当は貴女を恨んでなんかいません。ただあの悲劇を目の当たりにして怒りをぶつける相手が欲しかったのです。ですから貴女も自分の事を恨んでいいとか言ってはだめです。良いですね?」
「え、あ…、はい。」
俺は頷いた。
「宜しい。では私はこれで。」
エルネストは軽く会釈をすると部屋を出て行った。
出港の日、俺は一人で船の甲板に出た。
航海中に不測の事態が起きた時に備え、周囲の状態を把握しておきたかったのだ。
「あ…」
俺はノエルと目が合った。傍らにはエルネスト。
ノエル達も同じ目的で見て回っているのだろう。
「その、こんにちは。」
俺はペコリと挨拶をした。
エルネストは会釈をしたが、ノエルはむすっとした顔で俺を見た。
参った、嫌われてるのかな。俺は苦笑いをした。
俺の表情を見たのか、ノエルが口を開いた。
「あなた、そんな不用心で良いの? 今回の任務を理解してるなら単独行動は慎むべきだわ。」
「そ、そうだね…。他のパーティーが味方か分からないもんね。」
「・・・」
「・・・」
10秒くらい、お互いに沈黙した。
「そ、それじゃ私達は部屋に戻るわ。行くわよ、エルネスト。」
ノエルは一度背を向けようとしたが、すぐ俺の方を向き直った。
「魔導砲のことは少し忘れてあげる。だから任務中、私達の足を引っ張るようなことだけはしないでよね。…アスカ!」
ノエルはそういうとくるっと後ろを向いて歩きだした。
「う、うん。お互いに頑張ろう。」
俺はびっくりしてノエルの背中に向かって答えた。
エルネストは少し笑みを浮かべながら会釈して、ノエルと共に歩いて行った。
ノエルは所謂ツンデレというやつだな。
この子達とはうまくやっていけそうだ。




