第60話 商船の護衛
「ガ、ガキじゃねえか…」
目の前にいるサングラスを掛けたおっさんが言った。
どうもこの人物が商船の持ち主らしい。
「バルテレミーさん。こいつらは確かにガキだが、立派な冒険者なんだぜ。特にこの娘はすげえぜ。俺なんか一対一の決闘で負けちまったくらいだ。」
「本当かよ…? おい、あんたら、ライセンスを見せてみろ。」
「あ、はい。」
俺達は冒険者ライセンスを提示した。
「B+、B、あとCランクか。確かにガキの割には大したもんだな。」
「ちょっと、さっきからガキ、ガキって失礼じゃないですか?」
俺はむっとして言い返してしまった。
「ア、アスカ…」
アルフレッドがなだめる様に声を掛けて来た。
「はっはっは、中々大きな口を利くじゃないか。」
サングラスのおっさん、バルデレミーと呼ばれた男が立ち上がって近づいてきた。
そして俺の顔を覗き込むと、再び椅子に座りふんぞり返った。
「よし、あんたらをこの船の護衛に雇ってやる。おい、説明してやれ。」
「はっ…」
バルデレミーに言われ、部下のような男が立ち上がった。
「ご説明します。この船は3日後港を出港し、グヴェナエル共和国に向かいます。一般的な商船航路を通りますが…」
男が海図を指さした。
「この辺りからは海賊が出没する海域です。皆さんの任務はこれらの家族から船を守るというものです。報酬は総額1000グラハム金貨です。」
1000! あんなに危険な北方洞窟探索の5倍以上の報酬だなんて…。
でも総額ってどういう事なんだろう? 聞いてみるか。
「総額ってどういう事なんですか?」
「良い質問です。まずこの船には皆さんとイアサントさんのパーティ以外に3組の冒険者パーティが乗り込んでいます。総額というのは任務を終えた暁には、皆さんで報酬を分け合って頂くことになります。報酬を貰える権利が発生する条件はグヴェナエル共和国到着時に生き残っている事です。」
「なるほど…」
俺は頷いた。
「理解したか? 俺にとっちゃ、最終的に誰に報酬を渡すかなんて興味は無えんだ。この船が運んでいるモノ、それが守れさえすればいい。」
バルデレミーが葉巻をふかした。
要約するとこうだ。報酬をより多く貰いたいのなら、最後に生き残っているパーティが少ないほど良い。
つまり敵は海賊など外からくるものだけではなく、中にいるかもしれない、という事だ。
「お前達の部屋は2階船室だ。船内は好きに使ってくれていい。だが倉庫だけは近づくんじゃないぞ。…分かったら早くこの部屋を出て行ってくれ。」
俺達は追い立てられるように部屋を出た。
「イアサントさん。あなた、何か狙いがあって私達をバルデレミーさんに斡旋したの?」
俺は一緒に部屋を出たイアサントを見上げた。
「そうだな、狙いが無いわけでは無い。あんたも理解しただろうが、敵は海賊だけじゃねえんだ。この船内にいる護衛ははっきり言って敵なのさ。だが…」
「私達を味方に引き込めば身を守りやすくなるとでも…? 私達があなたに牙を向かないという確信でもあるのかしら?」
「ククク、あんたはこの前の決闘でも俺を殺そうとしなかった。あんたらは味方でもないが、敵にはならなそうなんでな。」
確かに俺達はグヴェナエル共和国に向かうのが目的で、別に報酬の増額が目的ではない。
イアサントはその辺も考えたのだろう。
「ま…、私達からあなた達にどうこうするってことは無いと思うけどね。でもあなた達が私達に仕掛けて来たら、それなりの対応は取るよ。」
「それで構わねえ。さて、これ以上一緒にいると他の連中に何思われるか分からないからな。それじゃあな。」
イアサントはそういうと通路を別の方向に歩いて行った。
「とりあえず俺達は割り当てられた部屋に向かおうか。」
「そうだね。」
俺達は割り当てられた2階船室に向かった。
3日後、この船は出港する。順調に行けば3週間ほどの行程との事。
まずは状況を整理して、みんなの安全を守る方法を考えなくちゃ。
俺は歩きながらそう考えた。




