番外編 “腰抜けPT”の旅路
~ケヴィン視点~
「ロイ、どうだった?」
俺は仮宿に戻って来たロイに尋ねた。
「ああ、ここの冒険者ギルドに入ってきている情報によるとだが、酷いものだそうだよ。」
ロイはため息をついた。
俺達はマルゴワール伯爵領を脱出し、隣国のワトー公国に逃れていた。
この町にも冒険者ギルドの建物が存在する。
情報を集めるのなら冒険者ギルドが一番だ。
各国の冒険者ギルド間は特殊な魔法のネットワークで繋がれており、その通信網を通して、遠隔地の情報も素早く手に入れることが出来るのだ。
「第一王子ギュスターヴが率いる軍との衝突で、ラーストチカ王国軍はかなりの痛手を受けていた。レオポルドの魔導兵器攻撃でギュスターヴ軍の大半が消滅した後ラストーチカ王国軍は態勢の立て直しを図っていたそうだが、今度はレオポルドが率いるナイザール王国軍の攻撃で敗走。レオポルドがこれを追撃し、わずか5日でラストーチカ王国は落ちたそうだ。」
「ふむ…」
俺は腕を組んだ。
「悔しいが、レオポルドの立ち回りは良く出来たものだと言わざるを得ないな。」
「そうだな。不幸なのはこれに巻き込まれた民衆だよ。レオポルドのラストーチカ侵攻では、民間人もお構いなしの戦闘が行われたようだ。」
「なるほど。そこまで電撃的に一つの国が落とされては、その他の周辺諸国もナイザール王国と不可侵を結びたがるだろうな。そしてその見返りに、ギュスターヴ派の敗残兵や反対派が逃げ込むのを防ぐ様に要求されるだろう。」
ギイ…
仮宿の扉が開いた。
「ただいま!」
カサンドラとラカンが帰って来た。
「戻ったか。」
「食料の調達は出来た。これで1週間は持つだろう。」
「おお、すまんな。」
俺達はカサンドラ達が調達してきた食料を食べ久々の休息を得た。
「ああ、そうだ。これは皆そろってから言おうと思ったんだがな。」
ロイが干し肉を飲み込んでから話し始めた。
「どうした? ロイ。」
「冒険者ギルドで仕入れた話なんだがな。ケヴィン、イアサントって奴を覚えているか?」
「イアサント? ああ、あの斧を振り回すでかい奴だな。Bランク中位で、上位も伺う奴だった気がするが、それがどうかしたのか?」
「そう、そのイアサントだ。奴は最近ノワールコンティナンに渡りパーティを結成して一稼ぎしようとしていたそうだが、最近一対一の決闘に負けたそうだ。」
「ほう。奴の戦斧の技は力任せだが、中々のものだという噂だが…。相手はどんなやつだったんだ?」
「それがな…、信じがたい話なんだが…」
ロイがニヤリとした。
「もったいぶってないで教えろよ。」
「…実はな、その相手はDランクだそうだ。しかも白いフード付きのローブを羽織った小娘で、装備していた真っ黒な刀身の剣でイアサントの戦斧の攻撃を受け流し、一瞬で首筋に剣を突き付けたんだと。」
「ロイ、その白いフードの女の子って…」
「ああ。その娘の名前はアスカ・エール・フランクール、だそうだよ。」
「それは本当か?」
…やはりアスカは無事生きていた。暗黒の大陸であるノワールコンティナンで、しかもBランク冒険者を圧倒する実力を身に着けていたとは…。
「あの子凄いわね。もしかしたら私達にも勝るかも…」
カサンドラは嬉しそうな顔になった。
俺も嬉しい。恐らく誰か良い師に巡り合ったのだろうが、俺達と離れてからかなり努力をしたのだろう。
「おそらくアスカが無事でいるなら、アルフレッドやカールも一緒にいるはずだろう。よし、俺達の今後の方針は決まったな。」
俺は飲んでいた水のコップを地面に置いた。
「俺達はノワールコンティナンを目指す。それにはここから北方のグヴェナエルを目指さなければならないが…」
グヴェナエル共和国は今俺達がいる大陸の北端にある、この大陸唯一の共和制国家だ。
ここには他の大陸に渡ることの出来る船が出る、大きな港がある。
まずはそこに行かなくてはならないだろう。陸路で1か月ほど掛かるだろう。
「アスカ達もノワールコンティナンで努力をしているはずだ。俺達も負けていられんぞ。」
「そうだな。」
ロイ達も頷いた。
「よし、明日朝出発する。それまで各自準備していてくれ。」
「おう!」
俺達ケヴィンパーティの方針が決まった。




