第43話 Aランクからの誘い
今日、ガストンとアルフレッドは二人で仕事に出ていた。
アルフレッドは俺よりも戦闘のスキルは上と言うのもあり、冒険者ランクは既にCランクになっていた。
いや、実力的にはBランクになっていてもおかしくはないと思う。
俺はカールとリディを冒険者登録するために、霧の町の冒険者ギルドに来ていた。
「ここがこの町の冒険者ギルドね。」
俺達は建物に入った。
ここはノワールコンティナン唯一の冒険者ギルドと言う事もあり、多くの冒険者がいた。
酒場も併設されていた。アットホームな感じのマルゴワールのものとはかなり違う様相だ。
「あのー、冒険者登録をしたいんですけど。」
俺は受付の前に立ち、係の男に話し掛けた。
「ああ? あんたが冒険者になるのか?」
「い、いえ。私は既に冒険者なので違います。」
俺は冒険者証を提示した。
「へぇ、あんたみたいな弱そうなのが冒険者とはねえ。という事は登録したいのはそっちのガキ二人か?」
受付の男がじろりとカール達を見た。
何だこの失礼な奴は。ぶちのめしてやりたいくらいだ。
いや、我慢我慢。
「はい。登録してもらいたいのはこの子達です。手続きをお願いします。」
「ああ、こいつに名前とかを書きな。」
男が登録用紙を放り投げて来た。
俺は用紙を受け取ると、カール達に渡した。
「アスカ、これどうやって書けばいいの?」
「え、これはね…」
用紙は俺が書いたものと同じだ。二人は俺の説明を聞きながら書き上げていった。
「はい、書けました。」
二人が受付の男に用紙を渡した。
「ふん、こっちのガキは獣人か。まぁ戦闘は出来そうだな。」
男はカールをチラッと見た。
「で、そっちのガキは…。おい、お前そのフードを取りな。」
「え…?」
リディは受付の男を見上げた。
「早く取れ。」
「え、あ、はい…」
リディがフードを取った。
「ち、てめぇ、魔族か。」
受付の男がそう言うと、周りの冒険者達がリディの方を見てきた。
「え、え…?」
リディが不安そうに周りを見た。
…この町では、魔族への風当たりが良くなさそうだ。
ノワールコンティナンの大半を魔族が支配しているというのもあるのかもしれない。
ここは俺がリディを守ってやらないと。
「何ですか? あなた方は。この冒険者ギルドにいる連中は魔族だからって子供一人に奇異の目を向けるんですか? ノワールコンティナンの冒険者は勇猛な人ばかりだと思っていましたが、大したこと無いんですかね?」
俺はわざと大声で言った。
周りの冒険者たちは俺よりランクが上だろうが、そんな事は関係ない。
「何だと!? てめぇ!」
如何にもと言ったような感じの冒険者がずいっと前に出てきた。
「生意気言いやがって。てめぇランクは何だ?」
「私はまだDランクのひよっこです。でも力ずくで、って言うならお相手しますよ?」
俺はその男を睨みつけた。
霧の町にたどり着くまでの数日間、俺達は多くの魔物を倒してきた。
Bランクのガストンの動きも見て来たし、カールも戦闘力ではガストンに一歩一歩近づいてきていた。
はっきり言ってこんなやつが突っ掛かってきてもビビらない。
「ハ! Dランクごときが何を言ってやがる。」
こいつはちょっとビビらせないとダメなタイプだな。
「では戦いますか? いつでもかかってきてください。」
俺は風の宝玉に魔力を込めた。
俺と近くにいるカール達二人を中心に風が吹き始めた。
「私はこの風を刃に変えることが出来ます。切り刻まれたかったら、いつでもどうぞ。」
この言葉は嘘ではない。俺も色々と風の使い道を研究してきたのだ。
ド○クエで言う、バ○のような使い方が出来る様になっていた。
「く、くそ…」
冒険者の男が怯んだ。
「はっはっは! お嬢ちゃん、中々面白いな。」
酒場のカウンターで酒を飲んでいた男が立ち上がって近づいてきた。
「テ、テオドール…」
俺に突っ掛かって来た男が言った。
「ここはオレに免じて収めてくれ。てめぇはあっちに行ってな。」
テオドールと呼ばれた男がさっきの冒険者を追い払った。
「冒険者登録をしてしまえば、人間だろうが獣人だろうが、魔族だろうが関係ない。そっちの君も気分を悪くしたならオレが代わりに謝るよ。」
「い、いえ。大丈夫…」
リディが首を振った。
「…とりあえずお詫びにあっちで飲もう。オレが奢るよ。」
「私達、まだ未成年なのでジュースで結構です。」
「ははは、じゃあジュースを奢ってやるよ。」
「ありがとうございます。」
俺達はこの男に付いていきカウンターに座った。
「さて自己紹介をしよう。オレの名はテオドール・クザンと言う。冒険者ランクはAランクだ。」
Aランクだって? ケヴィン(=ローラン)と同じランクなのか。
「これは失礼しました。先程の言葉は貴方のような方に対して言ったものではありません。」
俺はペコリと頭を下げた。
「いや、いい。さっきのはあんたは悪くないよ。さて、名乗ったのだから、あんたの名前も教えてくれるかな?」
「はい。私の名前はアスカ・エール・フランクールと言います。冒険者ランクはまだDランクです。」
「ふむ…」
テオドールが俺の顔を見た。
「アスカと言ったな。さっきのあんたの…あれは風の魔法か、見た感じではDランクのそれではないな。」
「いえ、私のはこの、風の魔導具を使っただけです。」
俺は指輪を見せた。
「あんたがどう思ってるか知らんが、確かに魔力を込めることが出来れば誰でも魔法を使うことが出来る。だがな、並の奴ならただ風を起こすだけさ。だがそれをどう変化させることが出来るかが重要でな。」
テオドールが俺を指さした。
「さっきあんたが言った通り風を刃に変えることが出来るとすれば、それはかなりの使い手である証拠なのさ。それに見たところ、あんたの魔力総量は計り知れないものを感じる。…あんた一体何者なんだ?」
この男、Aランクという実力だけではなく、観察眼も一流の様だ。
んーでも、何者って言われてもなぁ。
「何者かと問われても、答えられることは何もありません。」
「ははは、そうか。ならそれ以上は聞かないことにするよ。ところで、アスカ。あんたはその二人以外に仲間はいるのか?」
「はい。BランクとCランクの仲間がいます。」
「なるほど。では今度オレと組んで仕事をしないか? そこの子供二人と、今言った仲間も一緒で良い。」
「仕事…ですか? それは危険なものですか?」
「冒険者の仕事だ。野暮なことは聞くなよ。」
…つまり、危険な訳だな。
「でも。この子たちはまだ冒険者になり立てです。いきなり危険すぎる仕事に付かせるわけには…」
「はは、その獣人の子はかなり戦えるだろ? それに、そっちの魔族の子も何か力を隠しているはずだ。」
リディはその言葉に少しビクッとした。
「…分かりました。ここにいない仲間は他の仕事に出ています。5日後に戻る予定です。戻ったら仲間に相談してみます。」
「なら1週間後に返事を聞かせてくれ。1週間後、オレはギルドにいるからな。」
「分かりました。」
Aランク冒険者からの仕事の誘い。
一体どんな仕事なのだろう?




