第40話 リディの旅立ち
旅立ちの日、俺達は村の出口でリディを待った。
リディは旅立ちの準備と村人への挨拶をして回っているのだ。
「お任せー!」
リディが元気な声を出しながら走ってきた。
「もう村の人たちへの挨拶は済んだの?」
俺はリディに問いかけた。
「うん、あまり長くいると、別れるの辛くなっちゃうから…」
リディは笑いながらも、少し寂しそうな顔をした。
リディのいで立ちだが、ネコミミのついた黒いフードがあるローブを着ていた。
その下は丈夫そうなシャツとハーフパンツくらいの長さのズボンだ。
背中にはリュックみたいな袋を背負っている。
「リディ、そのローブ可愛いね。俺のにネコミミ付いてたら、色違いのお揃いローブみたいだね。」
「えへへ、ありがとう。これはね、俺の母さんからもらったものなんだ。遠いご先祖様から代々女の子に受け継いできたものなんだって。」
リディが嬉しそうに話した。
うーん、俺っ子が二人になったから、会話が分かりにくそうだ。
「よし、そろそろ出発だ。リディ、まずはお前の知り合いが住んでいたところに案内してくれ。」
ガストンが自分の荷物を背負いながら言った。
「うん。ここからそんなに遠くないからすぐ着くよ。」
俺達はリディを先頭に村を出て歩き始めた。
「あれだよ!」
30分くらい歩いただろうか、俺達は第一目的地にたどり着いた。
リディが指さした場所には古びた小屋が立っていた。
寂れ具合からは、もう1年くらいは人の手が入っていない様に思われた。
「ここにはヘリオスっていう人が住んでいたんだ。自分の事冒険者って言ってた。」
冒険者か。もしかしたら家の中に何かの手がかりを残しているかもしれない。
家のドアはさび付いて開きにくかったが、ガストンがこじ開けた。
家の中はかび臭かった。
「俺、ここで初めて人間に会ったんだ。でもヘリオスは俺の事を嫌がらないばかりか、人間の言葉も教えてくれたんだよ。」
リディは少し懐かしそうに部屋の中を見渡した。
「そのヘリオスって人は何でいなくなったんだ?」
アルフレッドが言った。
「分からない。でも最後に会った日に俺の村より奥の森を探索してみるって言ってたんだ。俺は止めたんだけど。」
「ふむ、ひょっとしたら、その森の奥で何かあったのかもしれんな。」
ガストンは部屋の中を調べながら言った。
「だが今の俺達にはそこは重要な所ではない。ん、これは…」
ガストンが机の中から本を取り出した。
「よし、あったぞ。そのヘリオスっていう人物はどうやらAクラス冒険者の様だ。ここに来るまでの記録がこの日記に残されているようだな。」
「へー、よくそんなの残ってたね。」
カールがその日記を覗き込んだ。
「冒険者はある程度のクラスになると、活動記録を残すものが多い。なぜならランクの高い冒険者はそれに応じて危険な仕事を引き受けるようになる。万が一自分に何かあったときは、その記録があれば人の役に立つし、名前を後世に残せるからな。」
ガストンは日記を読み進めた。
「ふむ。この記録によると、海側に古代人もしくは魔族の遺した道が存在しているらしい。ヘリオスはその道を探索しながらここまで来たようだ。」
「じゃあその道を見つけて逆に行けば、町にたどり着けるかも知れないね!」
「そうだな。ヘリオスはここまで来て、リディ達の一族に出会ったと書いてある。記録はそこまでだ。」
ガストンは日記を閉じて自分の荷物袋に入れた。
「この記録は町にたどり着けたら冒険者ギルドに届けるとしよう。少し休んだら出発だ。」
俺達は10分ほどここで休憩し出発した。まずは記録にあった古い道探しだ。
記録の通り向かうと、道らしきものは難なく発見できた。
途中魔物に遭遇することもあったが、鼻が利くカール、耳が良いリディ、そして風読みの出来る俺がいるせいか、大きく危険な局面に出会うことは無かった。
戦闘に関してはガストンとカールが前面に立ち、俺とアルフレッドが後衛援護で非常にバランスよく戦うことが出来た。
リディは直接戦闘は全くしなかった。
何かの能力は持っていそうなのだが本当に危険な場面に遭わない限り、能力を使うなと族長に言われているようだった。一体どんな能力を持っているのだろう?
「ねえ、アルフレッド。向こうに町が見えるよ!」
廃道を進む事一週間、遠くの方に町が見えて来た。
俺達は久しぶりに人が住む町にやって来たのだった。




