第4話 リハビリ~バイゼル城書庫へ~
「ふぁぁっ!」
俺は大きなあくびをした。
暇だ、暇すぎる。
大抵の事はアルフレッドがやってくれるし、食事は給仕係が運んでくる。
これは至れり尽くせりのニート生活!
と、言いたいところだが…。
スマホも無い。テレビも無い。もちろんゲーム機や漫画も無い。
これは暇すぎる。
「・・・」
俺はアルフレッドを見つめた。
「・・・」
アルフレッドは何やら本を読んでいた。
「ねぇ、アルフレッド。」
アルフレッドは顔を上げ、俺を見た。
「どうしましたか? 姫様。」
「それ、何読んでるんだ?」
「ああ、これですか。」
アルフレッドが本を閉じ、表紙を見せた。
「これは火の魔法に関する魔導書です。」
「ふぅん…、つまり教科書みたいなもの?」
「教科書というのがどういうものを指すのかが分かりませんが、これは炎熱系魔法の体系や呪文の詠唱方法、扱い方が纏められています。」
…つまり教科書だな。ここじゃ教科書なんて言葉は無いのか。
言葉…?。そういや、今俺はアルフレッドと普通に話しているけど、何語を話しているんだろう?
「ナイザール王国は魔法国家ですから、書庫に行けば魔法に関する蔵書が沢山ありますよ。」
「そうなんだ? それって俺でも読む事が出来るのかな?」
「勿論です。」
「じゃあ、アルフレッド。その書庫に連れて行ってくれる?」
「構いませんが…」
アルフレッドが少し顔を赤くして俯いた。
書庫というのはきっとこの部屋からそれなりに歩くのだろう。
当然今の俺の体力では一人で行けないから、アルフレッドの肩を借りることになる。
こいつはそれが分かってるから、顔を赤くしてるんだな。
「それじゃよろしく! アルフレッド。」
俺は両手をアルフレッドの方に広げた。
「・・・」
アルフレッドは求めに応じて俺に肩を貸してくれた。
「ふぅふぅ…」
俺は少し歩いただけで、息が切れてきた。
「大丈夫ですか? 姫様。」
「う、うん。書庫って、まだ遠いの?」
「そうですね。あそこに見える階段を上った先です。」
俺は前方を見た。恐らく200m程だろう。
俺にはかなりの距離だ。
「頑張るから、きっともうちょっとだよ。」
俺は強がった。
「そうですね。きっともう少しです。」
一歩ずつ、着実に歩を進める。もうすぐ階段だ。
「姫様。ここを登れば書庫ですよ。」
「うん、そうだね…」
片足ずつ階段を上り始めた。
俺はチラリとアルフレッドを見る。
アルフレッドは俺と同い年の16歳と言っていたが、なるほど、体つきは年相応といった感じだ。
最初は線が細い印象だったが、胸板は健康的にスポーツでもこなしている印象だ。
まぁ、喧嘩しまくっていた「俺」よりは弱そうだけどな。
「ん…?」
前かがみになったことで、今まで服の中にしまわれていた首飾りが見えた。
これは俺がしているものと同じものだ。
いや、色違いか?
そんな事を考えていたが階段を上るのが大変で、すぐに頭の中から消え去った。
「はぁ…」
ようやく階段を上り終わった。
「着きましたよ、姫様。ここが書庫です。」
「ちょ、ちょっと休憩…」
俺は書庫に入ってすぐの椅子に腰を下ろした。
距離にして500m程しか歩いていない。それなのに、こんなに疲れるなんて。
何てひ弱なんだろう俺は。
「これはこれは、アルエット姫ではありませんか。」
俺は声が聞こえて来た方を向いた。
いかにも博士、といった感じの男が立っていた。
「え、えっと…」
少なくとも「俺」は知らない。
「おはようございます、ブレーズ先生。」
「アルフレッド、おはよう。」
ブレーズ先生と呼ばれた男がにっこりと笑った。
「ブレーズ先生。姫様は長き眠りの影響で記憶が曖昧になっておられます。」
「そうでしたか…」
ブレーズは俺を見て、膝をついた。
「私は王宮の魔導教師を務めております、ブレーズ・バラデュールと申します。姫様が目覚められた事、実に乗畳な事と存じます。」
「はぁ…、ありがとうございます。」
俺はぽかーんとした顔で答えた。
「時に姫様はこちらには何用でお見えになられたのかな?」
「はい。姫様はあまり動かれていませんでしたから、運動を兼ねてここに来られたのです。」
アルフレッドが代わりに答えた。
「そして城の書庫にも興味を持たれたものですから、ぜひにと。」
「なるほど、それは真に良きことですね。」
ブレーズは頷いてから俺を見た。
「それでは姫様、もし宜しければ私が書庫をご案内しましょう。ああ、もちろんもう少しお休みになってからでも構いませんので。」
ブレーズが嬉しそうに話していた。
この人は絶対に教えるのが大好きな人だ。
…俺があまり好きじゃない人種だな。
「は、はい…。よろしくお願いします。」
俺はため息をつきながら答えた。