第33話 獣化カール
「ガァァァ!」
獣化したカールが咆哮した。
魔物達が一瞬たじろいだ。
その隙をついてカールは四足で走り一気に接近する。
「ウォォォ!」
カールは前足の爪で戦闘の魔物を切り裂いた。
バシィ!
魔物の鮮血が飛び散った。
魔物は二歩三歩後退した。
カールが追い打ちを掛けて体当たりをすると、魔物が数メートルは吹き飛んだだろうか、木に当たり動かなくなった。
他の魔物達がカールを攻撃してきた。
だがカールは身軽にも魔物達の間を縫うように躱していき、最後尾の魔物に噛みついた。
「グワァァァァ!」
魔物が断末魔の悲鳴を上げた。カールは構わず首筋を食いちぎり、魔物が絶命した。
残りの3体の魔物は戦意を失いかけていた。
辛うじて1体が威嚇をしているが、それはカールには通じない。
カールが3体にじりじりと近付いていった。
「カール、凄い…」
俺はカールの動きの速さ、圧倒的な強さに他に言葉が出なかった。
「・・・」
ガストンは腕を組んでカールの戦いを見ていた。
そしてガストンはアルフレッドをちらりっと見た。
「アルフレッド、どう考える?」
「…あれは危険です。」
アルフレッドが答えた。
危険? 何が危険なんだろう?
俺は二人が何を考えているのか分からなかった。
「魔法の詠唱は済んでいるか?」
「はい、2発分の詠唱と術式固定をしています。いつでも撃つことが出来ます。」
「よし、カールがとびかかる前に3体の内、2体を攻撃してくれ。もう1体は逃がして構わん。」
「分かりました。」
アルフレッドは両手を前に出した。
カールが3体の魔物ににじり寄っているが、カールの攻撃を待たず魔法を放った。
「アスカ、お前はカールが残る1体に攻撃しようとしたら、その短刀をカールの目の前に投げろ。」
「え? どういうこと?」
「良いから言われたとおりにやれ。」
「は、はい!」
俺は具現化してあった黒い短刀を構えた。
直後、アルフレッドが放った魔法が2体の魔物に命中した。
魔物は炎に包まれ、そして動かなくなった。
カールはその様子を見ていたが、すぐにもう1体への攻撃態勢に入った。
俺はその目の前の地面に短刀を投げた。
数秒後短刀が地面に突き刺さり、爆発した。
土煙が立ち込めた。
その瞬間、ガストンが一気にカールへの距離を詰めていった。
「捕縛呪文書発動!」
ガストンが取り出した呪文書が発行し、蔦のようなものがカールに絡みついた。
「グォォォォ!」
カールが絡みついた蔦を引きちぎろうともがいた。
「アルフレッド、手伝ってくれ!」
「はい!」
アルフレッドとガストンは二人がかりでカールを抑えこんだ。
ドス!
ガストンはカールの腹に拳を撃ち込んだ。
「グッ…」
ガストンの拳はうまくカールの急所を突いたらしい。
カールは気絶して動かなくなった。
俺はその光景をただ茫然として見ているだけだった。
カールを気絶させた後、俺達は道から少し森に入った所で休息を取ることにした。
あたりも暗くなってきてこれ以上の移動は危険だし、何しろカールは気絶したままだ。
ガストンは蔦で縛りつけたままのカールを茣蓙の上に寝かせた。
気絶したカールは獣化が解け、元に戻っていた。
「アルフレッド、この蝋燭を付けてくれ。」
「はい。」
アルフレッドが火の魔法で蝋燭を付けた。
「この蝋燭は魔物除けのまじないがされた材料で作られた蝋燭だ。灯っている間は弱い魔物は近寄れない。まぁ、とりあえずは安全だろう。」
「ガストンさん。さっきどうしてカールを気絶させたの? 危険ってなに?」
俺はガストンに問いかけた。
「ああ…。実戦経験の浅いお前には分からなかったか。アルフレッド、お前はどう思ってた?」
「はい。あの状態のカールの目は“正気”なものに見えませんでした。」
「そういうことだ。分かるか? アスカ。」
「え…と? どういうこと?」
俺は首を傾げた。
「獣人族はな、己を鍛え、実戦経験を積んでいくと“獣化”という状態になることが出来る。さっきのカールがそうだ。俺はまさかカールが獣化できるとは思ってなかったが、カールの獣化は恐らく母親譲りの獣人族の戦士としての才能がなせる業なのだろう。」
ガストンが俺を見た。
「お前の今の状態ともしているかもしれない。アスカ、お前は膨大な魔力を持っているから、黒い短刀などの武器具現化を使いこなしている。だがな、お前は実戦経験が浅いから一歩使い方を間違えると諸刃の剣になるかもしれない。」
ガストンはそう言ってからカールを見た。
「さっきのあいつはまともな意識を保っていたとは思えない。ただ敵を倒す、という意識で一杯だったはずだ。もしあいつが俺達を敵だと誤認したら、俺達も攻撃しただろう。」
そうか、確かにガストンの言う通りだ。
獣化したカールは圧倒的な強さだった。
ただカールの意識が保たれていなければ、ただの魔物と同じだ。
俺はカールに近づいて眠っているカールの横に座った。
「でもガストンさん。カールはきっと私達を守るために戦おうとしたんです。この子はまだ子供です。これから色々な事を経験して、色々なことを知っていくでしょう。それだけは分かってあげなくちゃ…」
俺はカールの頭を撫でながら言った。
カールは子供だ。さっきのカールの姿を見ただけでカールを「拒絶」してしまったとしたら…。
カールはきっと、目覚める前の「俺」のようになってしまうかもしれない。




