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俺・プリンセス  作者: 風鈴P
第4章 ノワールコンティナン・黒の大陸編
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第32話 霧の中の出発

「うーん…」

俺は目を覚まし、目を擦った。

左右を見ると、アルフレッドとカールがまだ寝息を立てていた。

俺は二人を起こさない様に立ち上がると、窓のような穴から外を見た。

薄ぼんやりとした太陽がかすかに見えるが、外は霧が立ち込めていて良く見えない。

「おう、目が覚めたのか。」

ガストンが石扉を開け中に入ってきた。

「おはようございます、ガストンさん。」

「ああ、おはよう。ところで辺りが少し明るくなったから近くを見回ったんだが、霧が凄くてな。遠くまで見渡せなかった。」

「そうみたいですね。私もそこの穴から外を見たんですけど、何も見えませんでした。」

「うーむ、どうしたものかな。」

ガストンが腕組みした。

「あ、二人とも、おはよう…」

アルフレッドとカールも目を覚ましてきた。

…といっても、カールはまだ寝ぼけているようだが。

「お前らも起きて来たか。丁度いい、これからどうするか話し合いをしよう。」

ガストンは自分の荷物の傍に腰を下ろした。

「さて、アスカにはさっき言ったんだが、俺は先程また周りを見て来た。霧が濃くて遠くまでは見えなかったが、この建物から延びる道があるようだ。」

ガストンは荷物から水筒を取り出すと俺に渡してきた。

「コップは無えが、我慢して飲め。水くらい飲んでおかないと体がもたんからな。」

俺は水筒の水を飲むとアルフレッドに渡した。

そしてアルフレッドも飲んでからカールに渡した。

今は非常時である。間接キスだとかそういうのを気にしている場合ではない。

「それでだ。ここにいてもラチが明かない。俺はその道をたどり、人里を探すべきだと考えるがどうだ?」

「そうですね。食料は少しなら持ってますけどここでじっとしていたら無くなるだけですからね。」

アルフレッドも頷いた。

「ところで私達が転移してきた魔法陣は使えないんですか?」

俺はガストンを見た。

「ああ、それも調べてみた。残念ながらその魔法陣は俺達を転移させたことで力を失っているようだ。」

「そうですか…」

俺は俯いた。魔法陣が使えないという事はケヴィン達がここに転移してくるのは無理だという事だ。

俺達は当分彼らと合流できないだろう。

「つまり前に進むしかない。問題があるとすれば、俺達は子供を連れている。」

ガストンはチラッとカールを見た。

「子供を守りながらの旅になるから、より危険度を増すだろう。だが…」

「待って、ガストンおじさん。おじさん、ボクを子供だからと言って舐めているでしょ。」

カールが不満そうな顔になった。

「ボクは半獣人だよ。普通の人間の子供より力はずっと強いんだ。ボクだって戦えるよ。」

「そうか、それはすまなかったな。」

ガストンがカールの頭をぽんぽんとした。

「ふふん!」

カールは鼻を鳴らした。

「よし、30分後に出発しようと思う。各自準備をしてくれ。」

ガストンが腕に巻いた魔力時計を見ながら言った。




30分後俺達は魔法陣の建物から出発した。

霧で見通しが悪いが、森の中を道が続いている。

「見たことのない木ばかりだね。」

アルフレッドは道の周りを見渡した。

「昨日言った通り、このあたりの固有種なのだろう。霧や雲で日の力が弱いから、普通の植物は育たんのだろうな。」

ガストンが答えた。

「うーん。ここはやっぱりノワールコンティナンなのかな?」

「ノワールコンティナンってのは魔族が支配してるんでしょ? 魔族ってどういう種族なの?」

俺はアルフレッドを見た。

「魔族と言うのはかつては人魔大戦があったように人族に敵対する種族だというイメージがあるけど、実際にはそれだけじゃないんだ。確かに人族を敵視する種族・人物もいるけど、ナイザール王国近隣にも魔族は住んでるし、秩序だった支配を行う王として君臨している者もいるんだよ。」

「へぇ、見た目はどんな感じなの?」

「見た目は様々だね。人族とあまり変わらない魔族もいれば、妖魔のように角や羽、尻尾の生えたような魔族もいるよ。」

「そうなんだ。ガストンさんは魔族に会ったことはあるんですか?」

「ああ、あるぜ。冒険者ギルドに登録している奴もいるよ。」

「へー。じゃあもしここがノワールコンティナンだとして、魔族に出会ったとしても、全く話が伝わらないって思ってもいいのかな?」

「そうだと良いがね。」

ガストンがそっけなく返事をした。

「待って!」

カールが俺達を制止した。

「どうしたの? カール。」

「何か臭う。獣の臭いだ。」

「…どっちからだ。」

ガストンが剣に手を掛けた。

「道の、この先から…」

「ふむ…。アスカ、この前の仕事でやったやつ、出来るか?」

「あ、うん。」

ガストンが言っているのが風の流れを感じることを言っているのだろう。

俺は指輪に魔力を込め、目を閉じた。

風の流れの乱れが伝わってきた。

「確かに何かいる。数は5体前後、魔物の様だ。こっちに走ってきている!」

「分かった。アスカとカールは俺より後ろへ。アルフレッド、俺が前衛をするから、魔法を撃ちこむ準備をしろ。アスカはこの前の黒い短刀で良い、アルフレッドの撃ち漏らしを片付けてくれ。」

「分かった。」

アルフレッドと俺は身構えた。

霧の中を接近してくる魔物の姿が見えて来た。

オオカミのような魔物、6体が迫ってくる。

俺はネックレスに魔力を込め、短刀を具現化した。

「え…?」

その時、後ろから俺の横を通り過ぎた者がいた。カールだ。

カールは6体の魔物に向かって行った。

「馬鹿野郎! お前何を考えている!?」

ガストンが大きな声を出した。

「言ったでしょ? ボクも戦えるって。」

カールが右手を地面に付け、極端な前傾姿勢になった。

「あれくらいの魔物、ボクに任せちゃっていいよ。…グ、ガァァァ!」

カールの毛は逆立ち、尻尾もぴーんと伸びている。

爪は鋭くなり、顔は豹のように変化した。

カールは“獣化”したのだ。

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