第31話 ノワールコンティナン~黒の大陸~
眩い光が収まると、俺達は暗い建物の中にいた。
ガストンが蝋燭を二つ灯した。その内の一つはアルフレッドに渡した。
明かりが部屋の中を照らすと、ここは転移してくる前と同じような建物であることが分かった。
「よし、俺が辺りの様子を調べて来よう。お前たちはここを動くな。」
ガストンが慎重に石扉を開け、外に出て行った。
「ねえ、アルフレッド。ここはどこなのかな?」
俺は小さい窓の様になっている穴から外を見た。
暗い。外は漆黒の闇に覆われ、何も見えない。
カールは少し震えながら、俺にぴったりとくっついて離れない。
「カール、大丈夫?」
俺はカールの頭を撫でた。
「う、うん。大丈夫…。ボク、怖くないよ?」
カールは俺の腕をぎゅっと握った。
「カール、無理して付いてこなくても良かったのに。」
アルフレッドがカールを見た。
「ぅ…、でもボク、勇敢な獣人族の女戦士・ノーラの息子なんだ。お母さんはボクに強くなりなさいって言ってた。ボクは強くなって、立派な戦士になりたいんだ。」
「そうか、そうだな。」
アルフレッドもカールの頭を撫でた。
ギイ…。
石扉を開け、ガストンが戻ってきた。
「ガストンさん、どうでした?」
俺はガストンを見た。
「うーむ、俺にもここがどこなのかまだ分からねえ。外は暗い森でな、空を見たが星すら出ていなかった。」
ガストンは腕を組んだ。
「ここはもしかしたら、ノワールコンティナン、黒の大陸かもしれねえ。」
「え、黒の大陸?」
アルフレッドは不安げな表情を浮かべた。
「ああ。俺達がいたナイザール王国はエレオノール大陸にある。そこから西方に海を隔てて船でひと月行ったところに、一年の殆どを霧や雲で覆われた大陸がある。それがノワールコンティナン・黒の大陸ってわけさ。」
「ふ、船でひと月!? そんなに遠いの?」
俺は目を丸くした。
「ああ。ノワールコンティナンは夜は真っ暗闇、昼間でも霞んだ太陽しか出ないとても暗いところなんだ。」
「人とかは住んでいるんですか?」
「沿岸部には一応町はあるようだ。だが大陸固有種以外の植物が育たないし、内陸には強力な魔物がいる。あまり文明が開けたところではねえな。そして、大陸の大半は魔族が支配している地という話だ。」
「何かあまり確かな情報がないところなんですね。」
「そうだな。黒の大陸の探索の仕事は冒険者ギルドではAランク以上なんだよ。だから俺にも詳しいことは分からねえんだ。」
「そうですか…」
「とにかくだ。ここがノワールコンティナンだとしたら、夜に動くのは危険だ。お前達も疲れているだろう。今日はここで休むぞ。」
ガストンが蝋燭を壁際に置き、リュックのような袋を背もたれにして腰を下ろした。
俺達も荷物を置いた。俺はひざ掛けを持っていたので、カールに掛けてあげた。
「ありがとう、お姉ちゃん。」
この小部屋の中での配置は俺の左右にカールとアルフレッド、そして反対側の壁際にガストンという感じだ。
「ふーむ、こりゃ何だか俺だけ仲間はずれって感じだな。」
ガストンは腕を組んだ。
「ひょっとしてガストンさんも私にくっ付きたいんですか? 私は嫌ですよ。」
「ははは、生意気な小娘だな。お前は。」
ガストンが笑った。
「…だがそういうのも悪くない。お前を見てると娘の事を思い出すよ。」
「娘さん、いるんですか?」
「ああ。正確にはいた、だな。俺の娘は5年前にな…」
「あ…、ごめんなさい。」
俺は頭を下げた。
「謝る事じゃねえよ。娘が死んだのは俺のせいだからな。」
「…どういうことですか?」
「5年前、俺が住んでいた地方で内乱があったんだ。俺は政権側の兵として、反乱軍と戦っていた。その日も作戦に出ていた。だが…」
ガストンは遠くを見るような目になった。
「その日、反乱軍が俺達の防衛網を掻い潜り、首都に到達したんだ。首都は大混乱に陥り、政権は倒れた。反乱軍は町からあらゆるものを略奪し、そして、女を犯したんだ。娘も…な。」
「・・・」
「娘は、舌を噛み切って死んでいたよ。俺は自分の国も、家族も失っちまった。俺は娘を守れなかったんだ。だから俺は故郷から逃げ出し、冒険者になったんだ。」
俺は何も言えなかった。アルフレッドもそうだろう。
カールはいつの間にかすやすやと寝息を立てていた。
子供に暗い話を聞かれなかったのだけは良かったかもしれない。
「おっと、すまんな。暗い話をしちまったな。」
「いえ…、私の方こそごめんなさい。」
「だから何でお前が謝るんだよ。…まぁ、お前達は俺からしたら娘や息子のような年齢だ。お前達のことは責任持って守ってやるよ。」
ガストンは頭をボリボリと掻いた。
「だから、お前はもう寝ろ。良いな?」
「はい…、おやすみなさい。ガストンさん。」
俺はそう言って目を閉じた。
こんな話を聞いたからだろうか?
俺はガストンを嫌だと思う気持ちが消えていた。
転生する前の俺は母子家庭で父親がいなかった。
お姫様になってからも、父親であるヘンドリクセン王に会ったことすらなかった。
だから父親と言うものがどういうものなのか、俺には分からなかった。
ブレーズにも父親のような感情を持ったが、ブレーズは俺の敵になってしまった。
しかし今日のガストンを見て、子の事を想う父親ってこういうものなのかなって感じた。




