番外編 “腰抜け”の意地
~ケヴィン視点~
ガチャ。
俺はマルゴワール伯の居城の応接間に入った。
「来て頂けましたか、義兄上。」
「ああ。俺を呼び出すなんて何の用だ?」
俺は義理の弟であるマルゴワール伯ジョルジュを見た。
「単刀直入に言いましょう。義兄上が保護しているヘンドリクセン王家第3王女、アルエットの引き渡しをお願いしたい。」
「ふん、何の事かな?」
「昨日、第2王子レオポルドの使いが来ました。アルエット姫が我が領内に潜伏していると。」
ジョルジュが窓の外を見た。
「義兄上、私はレオポルドの魔導兵器の破壊は依頼しましたが、アルエットを連れ出す事までは依頼しておりません。義兄上は一体何を考えておられるのか?」
「・・・」
俺は腕を組んだ。
「物見からの報告では、レオポルドの軍勢は街道を我が領地に向けて進軍中、数は1万。我らの軍は2900です。到底勝てるものでは無い。我らが永らえるには最早、アルエットを彼らに引き渡すしか無いのです。」
「…アルエットは俺の血縁だ。俺があいつの居場所を言うとでも思っているのか?」
「既に我が手のものが隈なく捜索しております。義兄上が何も言わずとも、そう遠くない内に発見することでしょう。」
「ちっ…」
俺はジョルジュを睨み付けた。
「悪いが俺はアルエットをお前等に渡すつもりは無え。もちろんレオポルドにもな。」
「…私は領主です。常に領地・領民の事を考えていなければならない。貴方のような自由な冒険者では無いのですよ。」
ジョルジュが手を上げた。
すると衛兵の一人が笛を吹いた。
恐らく待機していたのだろう。10名ほどの兵が応接間に入ってきた。
「義兄上にはアルエット捕縛までじっとしてて頂きます…。者ども、義兄上を捕らえよ!」
衛兵が迫ってきた。
俺は右手で剣を抜き、左手で袋から呪文書を取り出した。
パァァァァ!
これは閃光を放つ魔法が込められているものだ。
突然の光に、兵達は足を止めた。
俺はその隙に兵達の間を潜り抜けた。当て身で数名の兵を倒しながら。
「ジョルジュ、お前の考えは分かる。だが俺にも意地があってな。お前の好きにはさせねえよ。」
俺は部屋を出る前に、義弟に言った。
「く…、義兄上!お、追え!」
しかし兵達はまだ動けない。
とりあえず俺はこの場の脱出に成功した。
応接間から抜け、俺は迅速にかつ目立たず城を脱出した。
俺の仲間達はアスカ達を逃がす為に今頃行動しているだろう。
それに関しては打ち合わせしているから、心配はしていない。
問題はその後だ。俺達も脱出しなくてはならない。
俺には変装の魔法がある。仲間と合流してしまえば、何とでもなる。
まずは自分の姿をローランへ変えた。
この姿はケヴィンとは別のAランク冒険者として認知されているから、行動はしやすい。
俺はもう1枚呪文書を取り出した。
これは仲間の現在の居場所を知ることが出来るものだ。
これには探したい者の血を一滴呪文書に垂らしていく必要があるが、仲間達の血は既に呪文書に登録済みだ。
魔法が発動し、読み取れた仲間の居場所が頭の中に入ってきた。
ロイは…宿屋から市場の間で戦闘中。
カサンドラとラカンは市場外側、それとこれはノーラか…。懐かしいな。
この場所の配置という事はアスカ達はそれより遠く、転移魔法陣のある神殿には到着しているだろう。
さすがは仲間達だ。
「さて、それじゃ俺も行くかね。まずは一番近いロイからだ。」
俺は使用済みで効果の消えた呪文書を破り捨て、その場を離れた。




