番外編 “腰抜け”と第2王子
~ケヴィン視点~
無事に脱出しろよ。
心の中で祈りながら、俺はお姫様達を見送った。
「さてカサンドラ。人払いの魔法の残り時間は?」
「ロイが使用したものが13分。予備がもう1枚あるわよ。」
「よし、時間ぎりぎりでもう1枚を使用して良い。術式対象に俺は含めなくても大丈夫だ。途中で出会った城兵には催眠の呪文書を遠慮しないで使ってくれ。」
「了解。」
「魔導兵器の場所は頭に入ってるな?」
「勿論。」
「よし、行け。破壊後、すぐに脱出しろ。俺を待つ必要は無い。」
「分かったわ。」
カサンドラは頷くと、もう1名の仲間と魔導兵器の方に向かった。
「さて…と、俺は俺の仕事をするかね。」
仲間を見送り、俺は自分が目指す場所に向かった。
ドガ! バキ!
俺は道中の兵士達をなぎ倒しながら進んだ。
勿論殺してなんかいない。気絶させただけだ。
「ここは随分久しぶりだな。」
俺は重い扉を開けた。玉座の間へと通じる扉だ。
「だ、誰だ!?」
玉座の人物が立ち上がった。
「第二王子レオポルド殿下、ご機嫌はいかがかな?」
俺は恭しく膝をついて挨拶をした。
「貴様は…、何者だ?」
レオポルドが睨み付けて来た。
「ふむ、あんたに対して正体を隠すつもりはないんだがね。」
そう言って俺は自分の顔に手を当てた。そして変身の魔法を解いた。
「お、お前は…、ベルクールか…?」
「覚えて貰えてるとは光栄だな、従兄弟殿。」
「馬鹿な、今までどこにいたのだ?」
レオポルドの表情が変わった。
「別に隠れていたわけではないさ。もう俺は王族の身分は捨てたんでな。気ままな冒険者家業さ。」
俺はレオポルドの顔を見た。
「…一緒に遊んだ頃のお前はもういないんだな、従兄弟殿よ。」
「何だと…?」
「今のお前は野心に満たされているだけの野獣だよ。」
「貴様、言わせておけば…」
レオポルドが怒りの形相になった。
「そうだろう? お前は己の野心の為に父王を玉座から引きずり下ろし、魔導兵器で実の兄を撃ったのだ。その鍵として妹をも利用した。俺はお前の所業を許すわけにはいかない。」
「貴様ぁ!」
レオポルドが衝撃波を繰り出した。
バシィッ!
俺は片手を上げ、魔法障壁で攻撃を防いだ。
「だがそれもこれ以上は無理だ。既にアルエットは救出した。」
ズン!
頭上で鈍い音が響いた。
「それに魔導兵器は今、俺の仲間が破壊した。」
「ベルクール…、俺の計画を邪魔しおって…。許さぬ。誰か! 誰かいないか? 侵入者だ!」
「無駄だよ、従兄弟殿。見張りの兵は倒してきたし、人払いの魔法で、近くに別の兵はおらん。」
「ぐ…、ならば俺が直々に貴様を殺してやる。」
レオポルドは衝撃波を連続で繰り出した。
「ふん、俺の役目は従兄弟殿、お前の足止めだ。正面から戦う気は無いんだよ。」
俺は衝撃波を防ぎながら、呪文書を発動させた。
魔法陣から蔦のようなものがレオポルドに向かい、腕に絡まった。
この蔦はしばらくの間対象の動きを奪い、魔法の威力も軽減させることが出来る。
もっとも、レオポルドほどの実力者相手では数分持てば良いだろう。
「じゃあな、従兄弟殿。また会うことはしばらく無かろうが、達者でな。」
俺は背を向け、玉座の間から出た。
「ベルクール、待て…!」
俺はレオポルドの声を無視し、部屋を後にした。
「く…。」
俺は一瞬足がガクッとなった。魔力を思った以上に消費してしまった為だ。
レオポルドの衝撃波魔法を防ぐために、全力で魔法障壁を展開していたのだ。
俺は奴に弱みを見せることは無かったが、俺とレオポルドの実力には開きがある。
正面戦闘で勝つことは出来ないだろう。
だが俺には俺のやり方がある。目的を達成すれば良いのだ。
何しろ俺は“腰抜け”だからな。
俺は姿勢を持ち直すと、城を脱出すべくその場を後にした。




