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俺・プリンセス  作者: 風鈴P
第2章 王国騒乱編
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第15話 極大魔導兵器

「姫様、失礼します。」

従者が入ってきた。

従者と言ってもアルフレッドではない。兄レオポルドの従者だ。

しかも今日来たのは、あのマユリスだ。

「レオポルド殿下がお呼びです。至急準備して頂きます様…」

「・・・」

俺は視線を合わせない。

「…ふん、お守がいなくなって呆けておられるのですか?」

マユリスが嫌味ったらしく言った。

「あんたこそ、兄上の使い走りに忙しそうだね? マユリス。」

俺は視線を合わせず言った。

「ああ、そうさ!」

マユリスが俺の胸倉を掴んだ。

「お前のせいで俺は殿下に見放されたんだ。」

「…アルフレッドを痛めつけてたのはあんたよ。逆恨みもいいとこだね。」

「お前が王族じゃなければ、今ここでお前を凌辱してやりたいところだ!」

「やりたいのならやればいい。私は舌を噛んで死ぬよ。そうなったら今度はあんたの命が無くなるだろうね!」

「ちっ…!」

マユリスは手を放した。

俺は乱れた服を直して、マユリスを睨み付けた。

「準備なら出来ています。早く兄上のところに案内しなさい。」




マユリスに連れられ、俺は城の階段を上った。

玉座の間の広いバルコニーにレオポルドはいた。

バルコニーには魔法陣が描かれている。

「来たか、妹よ。」

「・・・」

「ふむ、何かあったのか?」

「いえ、何もありませんよ。兄上。」

俺は無表情で答えた。

「まぁよい。マユリス、お前は下がれ。」

「はっ…」

マユリスは礼をして、ここから去っていった。

「さて、あの山の麓。旗が立っているのが見えるか?」

レオポルドが指さした方角には赤い旗がいくつも立っているのが見える。

「あれは兄ギュスターヴの陣だ。俺が父王を幽閉し、王位を簒奪したのを聞きつけ引き返してきたのだろう。」

レオポルドはまったく悪びれずに言った。

「おそらく明日には城に到達するだろう。」

長兄ギュスターヴは王国軍の7割を率いている。隣国との戦いで消耗したとしても、今ここにいるレオポルド軍よりも多いだろう。

レオポルドはどうするつもりなのだろうか?

「だが、兄にはこの地は踏まさん。」

「…一体何をするつもりなのです?」

「その魔法陣を見ろ。」

俺は言われるまま、魔法陣を見た。

俺にはさっぱり分からないが、血のような赤で描かれたそれは、何だか不気味だ。

「その魔法陣は魔導兵器の発動体だ。魔法陣に魔力を込めるとあの魔導砲が放たれる。」

バルコニーよりも高いところにある踊り場のようなところに、大砲のようなものが見える。

「あれは初代ヘンドリクセンが押し寄せる魔族を薙ぎ払ったと言われる、極大魔法・神の雷を再現できる兵器だ。しかしあれの起動には膨大な魔力が要る。」

「神の雷…」

「俺には無理だ。俺の魔力総量はそれほど多くない。そこで、お前だ。」

「わ、私ですか…?」

俺はレオポルドを見た。

「お前の魔力総量は実は初代ヘンドリクセンより少し劣るくらいなのだよ。そして3年間眠っている間に増幅したせいもあるがな。」

「どういうことですか…?」

「ククク、お前に魔法詠唱不可になる呪いを掛けたのは俺の手の呪術者だ。そして、お前をアルエットの意識体として召喚したのもな。」

「召喚…!?」

俺はビクッとした。

こいつはアルエットの中に「俺」がいるのを知っている!?

それどころかこいつのせいで「俺」はこの世界に…?

「古代より伝わる秘法だ。異世界人をこの世に召喚すると魔力総量が高い者が生まれる、もしくは憑依させた者の魔力総量を引き上げるものだ。」

「あんたは…、俺にこれ(・・)の引き金を引けと言うのか…?」

俺はレオポルドを睨み付けた。

「その通りだよ。だが断るとは言わさんぞ。」

レオポルドは剣を俺に突き付けた。

「お前の意識は異世界人のそれ(・・)だが、少し妹も混ざっているようだ。お前のアルフレッドへ対する扱いを見れば分かる。」

「くっ…」

その通りだ。確かにそうだ。

俺はアルフレッドを死なせたくない、その気持ちで俺のそばから追い払った。

アルエットの意識が全面的に俺なら、そうはしなかったかもしれない。

「お前はアルフレッドを死なせたくは無いだろう? 俺はあいつを無事に城から出すと約束したが、それはお前次第なんだよ。今でも俺の手のものが奴の居場所を把握しているのでな。」

「き、汚い…」

「利用できるものは利用しないと、成せるものも成せなくなるのだよ。」

レオポルドはニヤリと笑った。

「さぁ、行け。その魔法陣の中にな。」

レオポルドは俺の背中を突き飛ばした。

「っ…」

俺は前に転んだ。

行きたくない。行けば大勢の人が死ぬだろう。

でも行かなくてはアルフレッドが殺されてしまうかもしれない。

俺は手を伸ばし、前に進んだ。

そして右手が魔法陣に掛かった。

ポゥ…!

魔法陣が発光し始める。

俺は更に前に進み、体が全部魔法陣の中に入った。




レオポルドは何やら詠唱をし始めた。

「!!」

すると魔法陣の輝きが増し始めた。

「くっ…」

魔力を吸い取られるような感覚。風の短刀に魔力を込める時に感じるものと同じだ。

でも、その規模は全く違う。

立ち上がれない。体に全く力が入らない。

「ククク、我が敵に裁きに鉄槌を落とせ! 神の雷!」

魔導兵器が発光し、砲身から輝くものが放たれた。

それが一気に兄ギュスターヴの陣へと進み、頭上まで達した。

ゴゴゴゴゴゴ…!

ガシャァァァァァァ!

発光体は爆発したような音を上げた。

発光体から無数の雷が数万の人の上に降り注ぐ。

俺はその光景に呆然とした。あの光の下では無数の人が死んでいるのだろう。

「フハハ、素晴らしい威力だ。あの壮健な兄の軍が、あそこまで簡単に。まぁ全滅はしていないだろうが…」

レオポルドが喜々とした表情を浮かべた。

「妹よ、お前は素晴らしい働きをしたのだぞ。少しは喜んだらどうだ?」

俺は輝き続ける雷から目を離せないでいた。

素晴らしい働き? どこがだ。

あの下では数多くの命が消えているというのに。

目覚める前、俺は暴力で多くの人を痛めつけて来た。

でも、命まで取るものでは無かった。こんなのに比べれば優しいものだ。




俺は今まで人の命を奪ったことは無かった。

でも今日、数万の命を奪ったんだ。

 

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