第13話 姫の正体~アルフレッドとの別れ~
「姫様、どういうことですか!?」
レオポルド達が去った後、アルフレッドは凄い剣幕で詰め寄ってきた。
「・・・」
「アルフレッド君、やめなさい。」
ブレーズが割って入ろうとした。
「ブレーズ先生、私はアルフレッドと大事な話をしなければなりません。二人きりにしてくれませんか?」
俺はブレーズを制して言った。
「姫様…、分かりました。それでは私はこれで。」
ブレーズは礼をし、部屋を出て行った。
「アルフレッド、ごめんなさい。でも俺は…」
「僕は姫様の従者です。僕は姫様をお守りする役目があります。」
「そう、あなたはアルエットの従者。暇を出さなければ、死ぬまでアルエットを守ろうとするでしょう。」
俺はアルフレッドの頬に触れた。
「でも俺は…、アルフレッドの知るアルエットじゃないんだ。」
「姫様…、何を?」
「アルフレッドは不思議に思わなかったかい? 目覚めてみたら長年の従者も覚えてない、喋り方も違う…」
「それは…」
アルフレッドは俯いた。俺はアルフレッドから手を放した。
「ううん、この体はアルエットだよ。でも心は別人なんだ。」
俺は自分の胸の真ん中を押さえた。
「信じられないかもしれないけど、聞いてほしい。俺の名前はフジムラアスカ、この世界の人間じゃないんだ。俺は別の世界に生き、そして、多分死んだ。目覚めたら、俺はここにいたんだ。」
「・・・」
「だから俺には事故の前の記憶も無い。当然アルフレッドとの思い出も、何も無いんだよ。」
俺は拳をぎゅっと握りしめた。
「アルフレッドはこんな俺を守る義務なんか無いんだ。俺はアルエットの体を乗っ取っているどうしようも無い奴なんだよ。それにここにいたら、君はあの兄上に殺される。でも俺は大丈夫だよ、きっとあの男は俺に何かの利用価値があると思ってるんだ。だから…」
俺は精一杯の笑顔を見せた。大粒の涙を流しながら。
「だから、早く俺の前からいなくなってくれよ!」
俺はガクッと両膝をついた。
「…姫様の心はあなたの中にはいない、という事ですか?」
「ああ。」
「フジムラアスカは、僕にここから出ていけ、というのですか?」
「ああ…」
「分かりました。」
アルフレッドは俺に背を向けた。
「でも、これだけは覚えておいてください。姫様が、いえ、アスカが何と言おうと、僕は貴女の従者なんだと。」
俺は涙を流しながら俯いた。
いつの間にか俺はソファで眠っていた。
翌朝目が覚めると、アルフレッドはいなくなっていた。
俺の首にはネックレスが二つ。
俺がしていたものと、アルフレッドがしていた色違いのもの。
俺はその色違いのネックレスを握りしめ、アルフレッドの無事を祈った。




