エピローグ08 戦乱の後(3)
「ば、馬鹿な…!?」
賊達がたじろいだ。
「お前達のボスは倒したよ。さて、どうする?」
リディは剣を賊の方に向けた。
「ク…。まだ俺達の数の優位は変わらねえ! まずはそのガキからやっちまえ!」
賊達は武器を手に迫って来た。
最早致し方なし、か。
「ちょっと数が多いから、悪いけど殺さない自信は無いからね?」
リディは身を低くした。
ダン!
リディは足に力を込め、一気に前に跳躍した。
そして一気に賊達に接近し、間をすり抜けていく。
瞬く間に5名を倒した。
それを見た残りの賊は戦意を喪失したようだ。
「ひ、引け! 逃げろ!」
賊達が武器を捨て逃げ出した。
敢えて追う必要は無いだろう。
逃げていく賊の姿を見送ると、再び馬車の方をみた。
護衛兵達は呆然としたような表情だ。
いくらリディが魔族とはいえ、一人で6名もの賊を倒したのを目の当たりにしたのだから無理も無いだろう。
「んーっと、護衛兵さん? そこの賊達を捕まえておいてくれるとありがたいんだけど?」
リディが少し呆れたような顔で話しかけた。
「あ、ああ! 捕縛しろ…!」
我に返った護衛隊長の号令で、護衛兵が動いた。。
賊の内1名は絶命していたが、残り5名は捕縛された。
それを見届け、リディは剣を鞘に納めた。
「お、お前…。凄い手練れだったんだな。」
“例の”兵が少し震えるような声で話しかけて来た。
「…そうかな?」
リディは気のない返事を返した。
別に馴れ合うつもりはないからだ。
その後、一行は近くの町に立ち寄った。
拘束されているとはいえ、賊と旅を続ける訳にはいかない。
この馬車の護衛兵はナイザール王国の兵であり防衛の為の戦闘は認められ敵を拘束することはて認められているが、警察権は無い。
その為賊をこの国の、ラストーチカ王国の官憲に引き渡す必要があった。
馬車は町のはずれにある宿の傍に停留した。
護衛隊長と数名の兵は賊を官憲に引き渡しに行ったようだ。
またその日の行程はここで打ち切りとった為、乗客たちは近くの宿に部屋を取る事にしたようだ。
リディも馬車を降りようとしたが、その時あの親子が動こうとしないのが見えた。
「・・・」
女の子はちらちらとこちらを見ていたが、すっと視線を落とした。
そうか…。この子達は宿を取るお金が無いんだな。
「君達も来るんだ。ボクがお金を出そう。」
「え、でも…」
母親は躊躇した。
「ボクが良いと言ってるんだ。さぁ一緒に行こう。」
「はい…! ありがとうございます!」
「ありがとう! おねえちゃん!」
母親は涙ぐんでいたが、子供の方はパァーっと明るい表情を浮かべてしがみ付いてきた。
お金の方は心配ない。
アスカと一緒に冒険者として活動してきた稼ぎが結構あるからだ。
宿の部屋に入ると、安心したのか、親子はすやすやと寝入ってしまった。
リディは部屋からロビーに出た。
ロビーには数名の警護兵がいた。
彼等もこの宿に泊まるようだ。
「ああ、あなたか。賊に襲われた際の力添え、隊を代表して感謝致す。」
警護隊長が頭を下げて来た。
「い、いや。あのままだと乗客にも被害が出ていたし…」
突然礼を言われてむず痒う気分になり、頭をポリポリと掻いた。
「俺からも礼を言わせてくれ。それと、出発地の町での非礼を詫びさせてほしい。」
あの兵士も頭を下げて来た。
リディはふーっと息を吐いてからフードを脱いだ。
ここまで礼や詫びの気持ちを表明されて拒絶し続けるのも失礼だ。
「貴方がたにも被害が及ぶにも忍びなかったからな。ボクが目的地に着くまで、にはなるが、何かあった時には協力させてもらうよ。」
リディはそう言って少しだけ笑みを浮かべた。
「そう言って頂けると助かる。」
「俺達もよォ。こっちだと肩身が狭くてな。何しろ最近まで俺らの国は侵略者だったからな…」
あの兵士は相も変わらず馴れ馴れしい。
「ところでよ。お前さんのさっきのあれだがすげえな。賊の連中が金縛りみたいになっちまってたようだが…」
「経験してみるかい?」
そういうとリディは麻痺凝視の魔眼を展開させた。
「グ…、こいつぁ…」
兵士の体が麻痺で動けなくなった。
その様子を見てニヤっと笑うと、リディは魔眼を解いた。
「これはボクの魔族としての能力だ。他にもあるけど、あとは秘密だよ。ボクを怒らせると、身動き一つできずに死んでいくから注意してね。じゃ、ボクはちょっと散歩してくるよ。」
「お、おう。気を付けるぜ…」
兵士は顔を青ざめさせながら小さく言葉を振り絞った。
その顔を見て再び笑みを浮かべると、リディはフードを被って町へ出ていった。




