綺麗な人、モンスターとエンカウント
転移させられた場所は開けた場所で、学校の体育館と同じくらいの広さだ。
天井もそれくらい。
入り口辺りよりも水晶が壁に大量にあり、昼間のように明るい。
「…………一言くらい何か言えや、あの悪魔」
自分の体などに異変が無いのを確認した後、ぼそりと呟く。
転移魔法は無属性であり、魔力コントロールが難しい。
下手したら変な場所に着いたり、内臓含む体の一部が無くなったり、存在が消えちゃったりと意外と危ない。
レインだったからまだ良かったものの、知らない場所に転移だと危険度がかなり高い。
レインがいないから直接文句を言えないが、愚痴るくらいはいいよね。
「知らない場所にいきなり転移なんて危ないこと、普通はしないでしょ。なのにあの悪魔は、本当に………でも、理由は分かるんだよね」
はっきりとした、殺気。
数少ないフィアンマータ王国での記憶でも、何度か感じたもの。
だから私は、子供のままではいられなくなった。
十二歳で、この世界でもまだ子供の範囲の年齢だけど。
私もあの子も勝手にここに来させられ、日常を壊された。
元の世界に戻ることは出来ない、その方法も記録も無いのだから。
私は巫女の紛い物、彼女は神に選ばれた巫女。
あの子は泣いていた。
帰して、と。
私も泣きたかったけど、先にあの子を宥めなくちゃいけなかったから泣けなかった。
「あの子は、元気かな……」
三週間も会ってないあの子。
元気なのか気になる。
「誰のことだ?」
聞こえた声に反応し、警戒する。
袖に隠し持つナイフを持つ。
声のした方を見ると、綺麗なお兄さんがいた。
腰までの長い銀髪を括っていて、瞳は水色。
綺麗な顔立ちでモデルと同じくらいスタイルがいい。
着ているのは茶色のズボンに白いシャツ。
身長と年齢は……レインと同じくらいかな?
優しそうな笑みを浮かべているが、怪しい。
私が警戒してることに気づいたのか笑みを苦笑に変えた。
「すまない、いきなり声をかけて。子供が一人でここにいるのが気になってな」
「……大人の連れがいるので大丈夫ですよ。その連れとはぐれただけなので」
「その連れが現れるまで、一緒にいるか?」
……あ、私負けそう。
お兄さん、年上だからか?
とっとと負けた方がいいのかな…?
だが怪しいし。
「そんな警戒されると悲しいんだが」
嘘つけ、楽しそうだぞ。
けど目がめっちゃ冷たいぞ。
お兄さんは私の中で不審者になりつつある。
見つめあいのような睨みあいが続いていたが、不意に咆哮が聞こえた。
そちらを見ると水晶みたいなものがあちこちに埋め込まれた、狼のようなモンスター。
セフィリア洞窟にだけ現れるクリスタルウルフで、この洞窟の中にある水晶を好物とする。
そのおかげで魔力量は絶大。
しかも凶暴で群れでの行動を好む。
それが五匹。
「最悪だ…」
私が持ってる武器になりそうなものは、袖に隠し持ったナイフと中級魔法くらいだ。
クリスタルウルフは上級魔法を使えるとレインが教えてくれた。
魔法は同じ属性でも、下の魔法が上の魔法に打ち消されることがある。
お兄さんを横目でちらりと見る。
いくら不審者っぽくても、会話をした人が死なれるのは寝覚めが悪い。
それにお兄さんを見るに武器を持っていない。
なら子供であまり戦ったことが無くても、武器を持っている私がクリスタルウルフどもを引き付けて彼を逃がした方がいい。そこまで考え、お兄さんの前に立ってナイフを出し、クリスタルウルフどもへと構える。
「おい…」
驚いたような声をかけられるが、振り向かない。
クリスタルウルフどもをお兄さんに向けていた時よりも警戒し、言う。
「逃げてください」
ぐるると唸るクリスタルウルフどものうち、一匹へと向けて魔力を練り上げる。
レインから聞いたが私の魔力量もかなり多いが、経験が無いために魔法が上手く発動しない。
けれど、準備しないより準備した方がいい。
クリスタルウルフどもが襲いかかってきた時。
「娘、お前は面白い人間だな」
お兄さんの声が響いた。
次の話はお兄さん視点です。
彼がいた理由が判明するかもです。