わるい子、おしおき
※この話には虐待表現があります。苦手な方は閲覧をお控えください。そんなにすごいものではないですが(笑)
ねぇ、みゆはママの一番なんだよね?
ママ、大好きだよ。
今日は雨です。
困りました。洗濯物が乾きません。
ママが帰ってくるまでにちゃんと畳んで仕舞いたいのに。
「美優、いるの?」
ママの声。
あ、今日は早いなぁ。
残業なかったんですね。
「おかえりなさい」
「ただいま…なんで服を干してあるの?」
雨だから、乾かなかったんです。
そう言ったら、ママはみゆをぶちました。
耳の側で音がして、ほっぺたがじんじんします。
「雨の日は乾燥機を使いなさいって言ったでしょ?!やり方もこの前教えたじゃない!」
「ごめんなさい…忘れちゃって…」
「言い訳なんかして…!
アンタどうしてそうなの?あぁ、もう!この役立たず!!」
また、ママはみゆをぶちます。
何度も、何度も。
みゆはずっと謝ってたけど、ママは許してくれない。
暫くして、ママはぶつのを止めました。
そして、台所に行くと手にやかんを持って帰ってきました。
「悪い子…悪い子はお仕置きしなきゃだめよね。」
ママはみゆの手を掴むと、やかんの中のお湯をみゆにかけました。
「う゛あぁっ!あづ、あづいよぉおぉぉっ!!!」
やめて、と何回も叫びました。
ママは、怖い顔でみゆを見るだけで止めてくれません。
「いい?次はちゃんとママの言うこと守るのよ?…わかったら返事!」
「あぅ…わか、りました。ごめ、なさ…」
泣きながらそう言ったらママはみゆにお湯をかけるのを止めてくれました。
みゆの腕は真っ赤になってて、ひりひり、じんじんと痛みます。
「…わかればいいのよ。
熱かったでしょ?今冷やしてあげるからね」
笑うママ。
お仕置きは痛いけど、それの後のママは優しい。だから、大好き。
みゆの腕を濡れたタオルと氷水の入った袋で冷やしながら、ママは優しく笑ってくれます。
「美優…大好きよ。ママには美優しかいないの。大事なの。一番なのよ。」
みゆを抱きしめてくれるママの腕は温かくて、気持ちいい。
ママ、みゆもママが大好きだよ。ママが一番だよ。
パパがお家を出て行ってから、ママはみゆに痛くします。
あの日のママはずっと泣いてて、みゆも悲しくて泣きました。
ママは、パパは違う女の人と『うわき』してたんだって言いました。
ママとみゆを捨てたんだって、繰り返し、泣きながら言っていました。
かわいそうなママ。
でも安心して。
みゆは、ずっとママの側にいるよ。
ママを泣かせたりしないよ。
かわいそうな、優しいママ。
大好きだよ。
今日はママはお仕事がないそうです。
一緒にいられて、みゆはとっても嬉しいです。
ピンポン、とチャイムの音がしました。
誰か来たみたいです。
お家にはあんまり人が来ないので、ちょっとどきどきしました。
ママがドアを開けると、そこには黒い服を着たおじさんとおばさんがいました。
おばさんがカバンの中から『めいし』を出して、ママに渡しました。
おばさんはなんだかママに色々言っていて、みゆはママが怒られているみたいに見えました。
心配になって、みゆはママの隣まで歩きました。
そしたら、おばさんはみゆを見て
「あなたが美優ちゃんね?
ねぇ、美優ちゃん、ママに酷いことされてない?殴られたり、ぶたれたり痛いことされてるでしょ?」
「おじさん達はね、美優ちゃんが心配でここに来たんだよ。
さぁ、言ってごらん。
もう大丈夫だからね」
変なことを言う人だと思いました。
だって、知らない人がみゆのことが心配だって言うんだから。
そもそも、なんで心配してるんだろう?
だから、みゆは言ったんです。
「ママは、みゆに優しいです。ひどいことなんか、されてないです」
それを聞いた二人は、悲しそうな顔をしました。そして、ママに一言言うと、帰っていきました。
二人が帰った後、ママはみゆの目を見て言いました。
「美優、あの人達は悪い人なのよ。美優からママを離れさせようとしてるの。」
そうだったんだ。
だからあの人達はママを怒ったり、みゆに変なこと言ったんだ。
みゆは怒りました。だって、ママは何にも悪いことしてないのに!
「あの人達に会っても何も話しちゃだめよ。
美優、ママは美優がいなくなるなんて嫌よ」
みゆも、ママがいなくなるの嫌。
だから、ママの言うことちゃんと聞きます。
ずっと、一緒だよ。
久しぶりに小学校に行きました。
でも、ママのいない学校はつまらなくて、みゆは休み時間にそっと抜け出しました。
お家に向かって歩いていると、この前のおばさんに会いました。
「美優ちゃん?学校はどうしたの?」
みゆは何も喋りません。ママの言いつけを守らなきゃいけないし、この人は悪い人だから嫌いです。
「…久しぶりに学校に行けて楽しくなかった?
ママに行かせてもらえないんでしょう?」
おばさんの言うとおりでした。
でも、それはみゆが決めたことです。
ママと一緒にいたいから。
お仕事が大変なママの役に立ちたいから。みゆはずっと下を向いてました。
早く、このおばさんがいなくならないかと、そればかり思ってました。
暫く、おばさんはみゆに話しかけてたけど、みゆが黙ってると溜め息をつきました。
「……何か辛いことがあったら、いつでもおばさんに言ってね。
おばさんは、美優ちゃんの味方だから」
うそつき。
みゆの味方はママだけです。
背中を向けたおばさんに、心の中で言いました。
ようやく、家に着きました。
ポケットから鍵を取り出して、ドアを開けようとしました。
でも、ドアは開きませんでした。
あれ、と思ってもう一度鍵を入れて回しました。もしかして、開いてたのかな?
ママ、帰ってきてるのかな?
みゆはそう思うと嬉しくなりました。
そぉっとドアを開けると静かに閉めました。
ママ、どこ?
廊下を歩いていると、声が聞こえてきました。
それは、リビングからのようです。みゆは、ゆっくりと歩いてリビングを覗いてみました。
みゆとママのソファ。
そこにいたのはママと、ママの上に乗っている男の人でした。
何をしてるのかよくわからなかったけど、なんで知らない人がいるのかな。
「ん…あぁ、好き…」
ママは男の人に言いました。
変な声を出しながら言いました。
「私、あなたがいなきゃ、だめ、なの。愛して、る…あなただけ…好き」
―――ママ?
なに言ってるのですか?
なんで知らない人にそんなこと言うんですか?
ママの一番は、みゆじゃないんですか??
みゆはお家を出ました。近くの公園に行って、ブランコに座りました。
ママはいつもみゆが一番って言ってたのに。
みゆだけに優しくしてくれてたのに。
空がオレンジ色になるころ、みゆはまたお家に帰ることにしました。
ドアを開けて、まるで今帰ってきたみたいに
「ただいま」
「おかえり、美優」
にっこりと笑顔のママ。機嫌がいいんですね。
あの男の人はもういないみたいですけど。
その日のママはとても優しかった。
コップを倒しちゃった時も、ママは怒らなかった。
夜は一緒に寝てくれた。
ちら、と隣を見た。
よく寝ているようだ。
ベッドから抜け出しても起きる様子はない。
なるべく足音をたてないように気をつけながら、台所まで行く。
手にしたのは、月明かりに鈍く光る、包丁。これはしょうがないことなんだ。
だって、ママはウソついたから。
うそつきは悪い子です。だから、『おしおき』しなきゃいけないんです。
ママの寝ている部屋のドアをそっと開ける。
それから、ベッドの上のママに跨って、みゆは包丁を下ろしました。
ママ、わるいこ、おしおき。
「あら、何してるの?美優」
後ろから響いた声にみゆは驚きました。
振り向けばママがいた。え?と思ってみゆはシーツを捲りました。
そこには、枕が二つ羽をまき散らしていました。
「そんな危ないもの持って…いけない子ねぇ」
ママは
ママは笑っていました。
悪い子にはお仕置きしなきゃ、ね?




