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十三番目の神将  作者: 夕風清涼
第一章夢か?
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恨怒の湖(暗闇)

『♪ふんふ~ん♪ペロンペロンの~淳一のた~めに~♪風神ちゃんは~♪内職だ~♪お供え物も~♪もらえない~♪』


『何気に要求してますよね!!ねぇ?…』


袋を持つ僕の手が筋肉の硬直で震えていた。

僕の感じだとかれこれ30分くらいは経っているはずだ、一体風神様は僕の為に何を作ってくれているのだろうか…唯一解っているのは僕の股間を隠す物だという事だ…。


(腰巻きかな…ふんどしだったら、ちょっと嫌だな…でも風神様はふんどしだし…)


『いよ~し!喜べ淳一!出来たぜ!!ほら、風神様ハンドメイドだ~』


風神様が両手で僕の前に作品を差し出した。


『……これって…』


僕の額から流れていた汗が引いた…。


『おう!おめぇら人間界のふんどし!パンツゥ~だ!この股の部分を編むのは苦労したぜぃ~』


『ちゃ…茶色の…雑草パンツ…』


『オシャレだろ~?特にオシャレポイントは、前と後ろの下の辺りを更に濃い茶色の雑草でアクセントを表現してみた!』


『……表現しなくても……』


(最近解った事がある…風神様は自分のやる事に全く悪意が無い事を…でも時々それが凄~く迷惑な時もある…今がそうだ…)


『おいらデザイナーの才能もあるな~!何ならついでに上着も作ってやろうか?』


『い!いえ、これ以上風神様のお手をわずらわすわけには…パンツだけで結構です!』


『そうか?じゃ、ほれ履いてみな!』


風神様は僕に雑草パンツを投げ渡した。

僕はパンツを確かめた、確かに上手に編み込まれている、あの大きな手で器用に編める風神様は凄いなと思った。


『何か‥チクチクしそうですね‥雑草の成分で被れたりしないかな‥‥』


不安な気持ちが僕の脳裏を横切り、少し履くのを躊躇した。


『淳一!心配するな!おめぇの大きさじゃ、絶対被れない!安心するがよい!』


(悪気がないのも困ったもんだ…)


渋々、僕はパンツを履いた、ひんやりとした清涼感が伝わってくる、僕はもっと雑草が固いのかと思っていたけど、まるでビニール紐のような柔らかさで股間に違和感はさほどなかった。


『どうでぃ?おいらのお手製パンツゥ~の履き心地は?』


『想像してたよりもいいですよ、ありがとうございます!風神様!』


ようやく堂々と前に進める!早くこの湖から抜け出さないとまた風神様が暴れ出したら大変だ!。


『あの須弥山に向かって急ぎましょう!風神様!』


『おっしゃ!行こうぜ!!』


他人が見れば大笑いされる格好で僕達は歩き始めた。

風神様は僕達の進行方向に袋を向けて、風を出しながら湖からの香りを飛ばしてくれていた。

歩けど歩けど僕達の右側の視界から湖は遠退いてくれない、数年前に家族で京都方面に車まで旅行をした時に途中で琵琶湖に立ち寄った、僕はあまりの広さに海だと勘違いした事があった。この湖も琵琶湖くらいの広さに僕は見えた。

『風神様、この湖本当に広いですね!以前、僕は琵琶湖を見た事がありますが、その位の広さでしょうか?』


岩山で鍛えられたお陰か、湖畔沿いを歩く僕達にはあまり疲労が出ないで歩ける事が出来た。


『そうだな~‥琵琶湖よりも数倍でかいんじゃねぇか?‥それよりもこの先何が起こるか解らねーから気を引き締めていかないとな!』


気が付くと辺りは次第に夕闇が迫り、視界も悪く僕達の歩みの速さも遅くなってきた。


『この世界にも夜があるんですね…何だか不気味ですね…』


『そうだな…おっかねぇ雰囲気だぜ‥淳一!今日はここで夜営をしようぜ‥暗闇を歩く程危険な事はねぇからな!』


『そうですね…』


『とりあえず、交代で袋の風を送るようにして匂いを防ごうぜ!じゃ、淳一!よろしくな!』


風神様は袋を僕に渡してさっさと寝てしまった。


『あっ、ズルい!‥まったく‥風神様は』


完全に日も暮れて辺りは漆黒の闇に包まれた、僕は視覚を失ったと思うほど何も見えなかった、暗闇の中で風神様のいびきだけが聞こえていた。


(無間地獄に墜ちるとこんな状態が二千年も続くのか…)


僕は恐怖で身が縮こまった…。


(頼むから何も出ませんように…)


こんな何も見えない場所で襲われたらひとたまりもない…もし風神様にでもぶつかってしまったら、アンポンタンでは済まされないだろう…袋から吹き出す風の音だけが、ざわめく僕の心を落ち着かせてくれていた。


一体、今は何時くらいだろう?後どれくらい辛抱すれば夜が明けるのかさっぱり解らない、袋を持つ手もかなり疲れてきた。

僕はそろそろ風神様と交代してもらおうと思い、声をかけようとした…


♪カサッ…カサッカサッ…カサッ♪


(な…なんだ?…風神様の向こうから、何か音がする…)


♪カサッカサッ…カサッ…カサッ…♪


(何も起こらないで!って、祈ったのに~‥なんなんだよ!)


確かに雑草を踏みしめている音がする、風神様は音に気が付がずにまだ眠っている。


(どうする?‥風神様をすぐに起こすか?‥音の正体を確かめてから風神様を起こすか?‥)


♪カサッ‥カサッカサッ‥カサッ‥カサッ‥♪


足音は早くなったり遅くなったりしている、風神様の近くをウロウロしているのか、それとも少し進んではまた後退して威嚇しているのか、この暗闇では全く解らなかった。


(くそっ!見えないんじゃ、どうしようもない!)


考えるんだ!考えるんだ!


(どうする?ヘタに風神様に近づいて僕の足が寝ている風神様に当たったら?‥)


確かに足音はしている、いつ足音の主が僕達に襲ってくるか‥すぐ近くの風神様の事も心配だった‥。

(風神様に声をかけるか?…しかし…)


よく動物番組で獲物が気が付いた瞬間に襲われるシーンがある、僕は風神様が襲われたシーンを想像してしまった。


(風神様‥食べたら美味しいのかな‥?いや、その逆かも…)


緊迫すると人間は色々な事を考えてしまうのだろうか?その行為の中で何か解決策を生み出そうとしているのだろうか?もし、自分がもっと沢山の経験をしていたらこの状況の解決策も導き出していたかも知れない…。

勉強も大切だけど、それ以上に色々な経験を積んでおく事も大事だと僕は思った。


(これも僕にとって新しい経験…)


経験と言ってもかなり過酷だ…冷静に状況を整理しても風神様は人質にとられているようなものだった…。


(やはり僕が何とかしないといけない…)


僕は風神様の向こうからする足音に耳を澄ました。

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