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十三番目の神将  作者: 夕風清涼
第一章夢か?
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修羅界、恨怒の湖


どれくらいの時間が経ったのだろう…そういえば僕は体育祭の前日から一睡もしていなかったはずだ、地面で眠っていたせいか背中と腰が固く張ったような痛みがあった。

僕はゆっくりと身体を起こした。


『う…う~ん……』


辺りを見渡すと、すでに鬼達の姿はなく風神様が大の字でまだ眠っていた。

僕は噛まれた右肩が気になり、傷口を確認した。


(あれ?…傷が治っている!)


傷があった場所を触ってみても痛みを感じなかった。


(おかしいな…確かに噛まれて、かなりの傷だったのに…)


僕は眠っている風神様の顔を覗き込みに行った。


(やはり、風神様の顔の傷も消えている…これが修羅界の魔力かな…だから鬼達も何度も復活してきたのかな?…)


眠っていた風神様がいきなり目を覚ました。


『うわーっ!淳一!おいらに何しようとしてたんでぃ!…おめぇがおいらに触れると、おいらも地獄に堕ちるんだぜ!』


風神様は飛び起きて慌てて僕から離れた。


『いえ!そうじゃなくて…』


『おめぇ!いくらおいらが魅力的だからって、そんな趣味あったのか!?』


『だから、そうじゃなくて…』


『地獄堕ち覚悟でおいらの唇を狙うなんて…つくづく魅力的なおいらは罪な男だぜ…だがな!淳一!おめぇは修行の身だ!魅力に負けちゃいけねぇ!…それに男同士だ!…おめぇにはつれぇかも知れねえが、諦めてくんな…』


風神様は両手を組んで1人で頷いていた。


『…なに1人で盛り上がってるんですか?……僕は傷を確認してたんです、ほら!僕の肩…』


僕は鬼に噛まれた所を風神様に見せた。


『あら!?傷がねぇぞ…じゃ、おいらの顔も…』


風神様は自分の顔を触り始めた。


『おっ!おぉ~、治ってる!…なんでだ?…』


洗顔するように風神様は顔を両手で撫でていた。


『たぶん、これが修羅界の魔力ではないでしょうか?…瀕死の重傷を負ってもしばらくすると治癒してまた戦い始める…』


『それの繰り返しが修羅界ってわけか…怖えぇとこだぜ…そうと解れば早いとこ修羅界を抜け出しちまおうぜ!…』


『はい、行きましょう!須弥山へ…』


僕達は北へと歩き始めた、間違いなく修羅界の試練はこれだけでは済まないはず、阿修羅王も簡単に僕達を須弥山には入れないだろう。

僕は氷水を背中にかけられたようにゾクッとした…。



~阿修羅王居城~



『陛下!申し上げます!…先ほど小僧と風神が鬼共を打ち負かしたとの報告がありました!…』


玉座に座っている阿修羅王に親衛隊長が報告を入れた、親衛隊長は呼吸を荒くしながら阿修羅王の怒りを覚悟していた。


『何だと!…人間が鬼共を打ち負かしたと…あの鬼共の習性を見切ったのか…小僧には怒りや差別心が無いのか!?…面白い、ならば風神と小僧自身に怒りと恨みを植え付けてやるわ~!…親衛隊長!やつらはどうしておる?』


『はっ!現在この須弥山に向かい北上中であります…』


『そうか!北上中か…わざわざ自分達で引っかかりに来るとはな…親衛隊長!やつらは相討ちで終わるだろう~!』


不適に笑みを浮かべて阿修羅王は言い放った。



『恨怒の湖ですか‥なるほど、そこならばやつらも鬼になりましょうぞ!』


『親衛隊長よ、湖の出口で密偵を張らせておけ、人間の足であの湖を抜けるのに3日はかかる!5日経過したら引き上げさせよ!間違いなくやつらは自滅しておるからな!』


『御意!ではさっそくに!』


急ぎ親衛隊長は王の間から出て行った、阿修羅王は玉座に座り思案していた。


(人間が鬼を駆逐しただと!‥我欲しか持たぬ下等な生き物が‥我らに一番近い生き物だと思っていたが、風神の差し金か‥何にせよあの2人を引き離せねばならぬ‥)


阿修羅王はずっと目を閉じていた。

『はぁ、はぁ‥おい、淳一~!いつになったらこの岩山抜けられるんだ~‥かなり歩いてるぜ~‥はぁ、はぁ』


どれだけの時間を歩いているのかは僕自身も解らなかった、ただ北に向かってゴツゴツした岩山を抜けるしか考えていなかった。


『はぁ、はぁ、さっきより傾斜が緩くなってきてるから、もうすぐ抜けられると思います‥たぶん‥』


『はぁ、はぁ、はぁ‥《たぶん》‥か‥はぁ、はぁ‥やれやれ‥天部が懐かしい‥』


『頑張りましょう!‥はぁ、はぁ‥』


『ん!ちょい待ち!淳一‥なんか花のいい香りがしねぇか?‥クンクン‥』


風神様が鼻を突き立て臭いのする場所を嗅ぎ分けている。


『あっちじゃねぇ!‥こっちでもねぇ‥クンクン‥やはりこの先だ!‥淳一!、もうすぐ岩山とおさらば出きるぜ!』


『僕には何も感じませんが‥』


『そりゃ、神様と人間では嗅覚も違うぜ!間違いねぇ!この先にお花畑があるのかも~?キャッホ~!』


『お花畑…この修羅界に??…イメージ湧いてこない…』


とりあえず風神様の嗅覚を頼って僕達は岩山を進んだ、しばらく歩き続けるとようやく岩山が開けて麓が視界に入ってきた。

『ほらみろ!ようやく抜けられたじゃねぇか!…マスター風神様はさすがだぜ!今度から風神師匠と呼んでくれ!!』


『風神様…お花畑はどこでしょう?…』


岩山から見下ろした風景は、辺り一面お花ではなく…茶色い雑草が生え渡り、真ん中には不気味なピンク色の湖が視界に飛び込んできた。


『しかしよ…確かにいい香りがまだしてるぜ…あの雑草からかも知れねえ…それと、とりあえず湖の向こうを見てみな!あの槍の先のような山を!あれが須弥山だ!おいらの巻物にも同じ絵が書いてるから間違いねぇ!』


僕達は湖の先に微かに見える須弥山を見つめた。


『じゃ、風神様!このピンク色の湖と茶色い雑草の事は巻物に書いてませんか?』


『いや、今も見たんだが何も書いてねぇ…おめぇらの世界でいう企業秘密って事で公表してねぇんだろ…特にこの修羅界ではな…』


僕は少し落胆した、ほんの僅かでも情報があれば欲しかった、鬼達との戦いでの閃きなんか何度も起こるはずがないと僕は思っていたからだ。


『あの湖…きっと何かありますね…』


ピンク色の湖を見つめながら、僕の身体から汗が流れ続けていた。


『とんでもねぇ化け物が現れるかもな…その時は《触らぬ神に祟り無し》作戦だ!』


『その作戦とは?…風神様…』


『猛烈に逃げる!』


『……作戦とは言えませんが…』


結局、色々考えても相手の出方が解らない以上どうする事も出来ないので、行き当たりばったりしか僕達の進む道は無かった…。

険しい岩山を登ったと思えば今度は下り…足場が悪い上に坂の傾斜が急で登りよりも身体全体を使う、登りの時は体力を使い、下りの時は転倒を防ぐ為に精神と頭を使う‥疲れの為か頭痛と耳なりがして何度も途中に吐き気が襲ってくる、こんなに苦しいのに僕は次の苦しみに向かって歩いている。

前へ…前へ…前に進む事が自分の道をつないでいくんだ…。

ゴロゴロした岩を踏みしめ、何度もバランスを崩して転けそうになりながらも僕達は麓まで下りてきた。

ようやく僕の鼻にも花のような香りが漂ってきた。


『確かに、花の香りがしてきますね…風神様!』


花の香りは湖から漂ってきていた。


『……そうだな…』


僕達は花の香りに誘われるように湖の畔に足を向けた。


『やはり、この湖から香りが出ていますよ!!ほら、風神様!』


まるで高温の温泉が噴出するように湖面から無数の泡が浮き出しては破裂している、破裂した泡から白い煙が湖面に漂っていてた。


『風神様!あれが風に乗って辺りに花の香りを撒いていたんですね…』


『…………』


僕は花のような香りにしばらく身体を休めながら、アロマテラピーを受けているかのような気分に浸っていた。


『風神様、いい香りに落ち着きますね~』


『…どこが!…』


ムッ!?さっきからの風神様の態度に僕は少しイラついた。


『いい香りじゃないですか!嗅覚が優れている風神様には近くではキツい臭いなんですか~?』


『なんだ淳一!その言い方は!だいたいよく考えたら、おめぇが修行したいと言わなかったら、おいらはこんな修羅界に来なくて済んだんだ!!』


風神様の口振りがいちいち僕の勘にさわった。


『だいたいよ~!おめぇみたいな人間が修行なんか無理だったんだよ!泣き虫だし、ビビりだし、甘ったれだしよ!!』


だんだん僕は風神様の態度に怒りがこみ上げてきた。


『そこまで言わなくてもいいんじゃないですか!付き添い役なのに、逃げ腰で泣き言ばかりの風神様~!』


『なんだと!!チンケな人間風情が神様に向かって!!』

『本当の事を言っただけなのに、何ムキになってるんですかね~!それは図星だからでしょ!!』


(何を言ってるんだ僕は!…勝手に口からひどい言葉が出ている!)


『淳一~!!てめぇ~!!!!許さねー!!そんな事をおめぇは思っていたのか!!』


(違う!僕の意思じゃない!風神様、違うんだ!)


一瞬、僕自身が嫌な気持ちになっただけで勝手に口から攻撃的な言葉が飛び出していた。


『どうせおめぇは修行を終わらす事は出来ねー!だったら、おいらが八つ裂きにして地獄に送ってやる!!風神様の力を舐めるな!!殺してやる!』


(違う!違う!風神様!一体何が起こったんだ~!)


『だったらやってみろよ!下級の神様が偉そうに!!』


(何を言ってるんだ!僕は---!!)


『ウォォォォォ!!八つ裂きにしてやる--!!』


風神様はいつも持っている白い袋を僕に向けた!


『ふっ飛べや!淳一!』


ビューーーッ!!


白い袋から強烈な突風が僕の身体を叩きつけた。


『グハッ!!‥』


僕の身体は飛ばされ湖の中にダイブした。

水の中で僕はもがきながら目を開けた、湖底から沢山の煙を含んだ泡が湧き出ていた。


(これは…)


僕は、水の中で次第に風神様へのイラつきが消えていくのが解った、そして冷静になって、いま風神様が立っている場所、そして僕が水面から浮上する辺りを頭の中で予想した。


(これで風神様が冷静になってくれればいいんだけど…)


僕は風神様から貸してもらった腰巻きを外し、マスクの代わりにして水面に浮上した。


『何だ!淳一!死ぬ前に、おいらにそんなショボい物を見せたいのか?笑わすな!!次は遥か彼方へ吹き飛ばしてやるぜ!おりゃ--!』


(来た!!)


僕はまず右に走った!


『チョロチョロすんじゃね-よ!おりゃ---!』


ビューーーッ!

ビューーーッ!


凄まじい風が僕の背中を通り過ぎた!


『大人しく飛ばされやがれ!おりゃ!おりゃ!おりゃ!おりゃ!』


次は連射で撃ってきた、今度は左側に僕は走った。


『しつこいぜ!淳一!おめぇは逃げられねぇ~!今度は一気に吹き飛ばしてやるわ~!はぁぁぁぁ!』


風神様の袋がアドバルーンのように大きく膨れていく!


(あれに当たればひとたまりもない…撃つ瞬間に水の中に潜る!)


『くたばれや~!淳一!!いくぞ!』


(風神様の風でかなり花の香りが飛散しているはずだ‥早く元の風神様に戻って下さい‥)


『おりゃ---!爆裂突風殺!!!!』


ブォォォォォォ-!!


僕はすぐに湖の中に潜った、そして水中から水面を見上げた、台風直撃のような波がうねりをあげていた。


(これでしばらくはあの香りも飛散しているはず、早く気が付いて下さい!風神様…)


数分間、呼吸を止めていた僕は限界になり水面に顔を出した。


『ぶはっ…はぁ、はぁ、風神様!風神様~!』


僕の目線の先に風神様が倒れていた。

僕は慌てて風神様に近寄り、マスク代わりにしていた腰巻きを風神様に触れないように顔に乗せた。

そして近くの雑草を引き抜き鼻の穴に差し込んだ。

後は風神様を起こすだけだったが、まだあの香りの作用が残っていたらと思うと冷や汗が出てきた。

僕は両手で湖の水をすくい風神様の股間に水をかけた。


『ひょ~!冷てぇ~!何すんだ!淳一!おいらのデリケートゾーンに!お婿に行けなくなるだろが!』


(いつもの風神様だ‥)


『風神様、すぐにそれで鼻を塞いで下さい!この香りは怒りと恨みを駆り立てる香りなんです!』


『えっ!そうなの?…うわっ!!』


風神様はすぐに腰巻きを顔に当てた。


『良かった…本当に…風神様が元に戻って…』


僕は安堵感からか涙が出てきた。


『あの…淳一よ…おいらの為に泣いてるのは解るけどな…鼻の穴に草差して…前をプランプランさせてる姿は…お馬鹿さんに見える…年末の忘年会にしたらウケるぜ…』


『はい!はい!…本当に良かった…風神様が元に戻って…』


僕達は顔を塞いで急いで湖から離れた、風神様は岩山を下る途中から水を股間にかけられるまでの記憶は無かったそうだ。

僕はキレた風神様の力に恐怖したけども、やはり神様の力は偉大だとも思っていた。

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