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十三番目の神将  作者: 夕風清涼
第一章夢か?
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夜叉姉妹との謁見

『なぁ…淳一…あの綺麗な姉ちゃんが夜叉だって信じられるか?…』


狐につままれた表情で風神様は僕に聞いてきた、でも僕だって風神様と同じ気持ちだ。


『それよりも、夜叉様と会ってどうなるんでしょうか?…』


『おいら達をもてなしてくれるのかもよ~♪酒に美味い料理~お土産も出るのかもな♪』


『だったら、いいのですが……』


僕は何だか不安が消えなかった。


虚空夜叉に案内され僕達は屋敷の中に招かれた、広い玄関を抜け応接の間に通される。


『さぁ、席に着きなさい、間もなく妹達も現れます』


屋敷の造りも中国の宮廷のようだった、僕と風神様は豪華な一枚板で作られたテーブルに備え付けてある椅子に座り、ポチは僕達の横で身体を休めた。


虚空夜叉はジッと目を瞑り妹達が現れるのを待っていた、静かな応接の間に白檀のお香の香りが漂っている。


《遅くなりました、姉上様…》


虚空夜叉と同じ着物を着ているが長い髪をポニーテールにした女性が応接の間に入ってきた。


(この人も綺麗だな…)


『妹の地夜叉です…』


虚空夜叉が僕達に地夜叉を紹介した。


『姉上様、あの少年が阿修羅王の叔父様が言っていた者ですか?…』


『そうみたいね…』


『この子が……修羅刀を…信じらんないわ…』


冷めた目で僕の顔を見つめながら、虚空夜叉の横に地夜叉は座った。


『地夜叉、天夜叉はどうしたの?…』


『もうすぐ来るとは思いますが…』


♪ガシャッ!ガシャッ!ガシャッ…


応接の間に鎧が擦れる音が響き、武将のような姿の女性が入ってきた。


『姉さんごめん!ちょっと鬼の千人斬りしてたら、遅れちゃった!』


武将姿の女性は顔立ちは虚空夜叉らと似てはいたが、髪はショートカットにしていて性格はそのまま夜叉の言葉に一番合ってそうな感じだった。


『何て姿で現れるの?天夜叉、無闇に甲冑を装備する事はダメだと言っているでしょ!』


虚空夜叉はキツく天夜叉を叱りつけた。


『普段の鍛錬がいざって時に役に立つのよ!ほんっとに姉さんは戦場以外ではお嬢様気取りなんだから…』


ふてぶてしく地夜叉の横に天夜叉が席に着いた。


(何だか凄い姉妹だ……)


『改めて紹介するわ、最後に現れたのが末っ子の天夜叉です』


『あっ、はい…僕は生駒淳一と言います…よろしくお願いします…そして見守り役の風神様…そして一緒に旅をしてくれる狼のポチです…』


緊張しながら僕は挨拶をした。


『ふ~~ん…風神が付き添ってんだ~!さぞかし逃げ足は上達したんだろうね~!キャハハハハ♪』


天夜叉が肩肘をテーブルに付いて僕と風神様をからかった。


『やめなさい!天夜叉、この者達は阿修羅王の指示でここに来たのです!無礼は許しませんよ!』


『ぐっ…!…はいはい解ったわよ!…』


天夜叉はふてくされ、顔をそむけたまま椅子に座り直した。


『そうでい!そうでい!それに風神様は戦場では一度たりとも逃げたりしてねぇ!おとといきやがれ!』


腕組みをしながらどっしりと椅子に座っていた風神様が天夜叉に恫喝した。


『何よ!この緑風船デブ!何なら今すぐ勝負してやろうか!』


天夜叉は席から立ち上がって腰の刀に手を添えた。


『天!いい加減におし!今は風神殿も客人よ!礼をわきまえよ!』


静かに成り行きを見守っていた地夜叉が、天夜叉を諫める。


『解ったわよ…ふんっ!』


刀から手を離し、さっきと同じようにふてくされながら顔を横に向けてまた席に着いた。


『それでいいのよ、それじゃ姉さんお願いね…』


首筋に回ったポニーテールの長い髪を後ろに振り戻してまた静かに地夜叉は目を閉じた。


『ありがとう、それじゃ始めるわね、生駒殿‥概ねの事は修羅界の使い者から聞きました、阿修羅王から修羅刀を授かった事も聞いています、あなたは力を手に入れ何をやりたいのですか?‥』


涼しげな眼差しで僕の顔を見つめながらも、眼光から沸き立つ威圧感はその綺麗な容姿からは想像出来ないほど強かった。


『本当の僕はもう死んでいました、学校でのいじめが嫌になり、僕自身もいじめに立ち向かう勇気も無く毎日が苦しくてついに鉄道の橋桁から身投げた時に風神様と出会ったのです』


『あなたは今勇気が無いと言いましたね、自ら命を絶つ行為にも勇気が必要です、あなたは自分では知らない勇気を出した事になります』


虚空夜叉の話し方はまるで優しい先生と懇談をしているような、そんな暖かい安心感が緊張した僕の心を和らいでくれているようだった。


『は‥はぁ‥‥』


『自ら命を絶つ行為は愚かな事です、よく考えてみなさい!あなたの世界でどれだけの人がもっと生きていたいと願っている人が居るかを!もっと何かをやり遂げたいと願いつつも志し半ばで命を落とした者が居る事を!』


虚空夜叉の言葉に僕の目から自然と涙が流れてきた。


『僕はあの時、いつも孤独な気持ちでいっぱいでした、何も集中する事も出来ないやりたくない、自分だけがなぜこんな目に‥そんな事ばかり考えていました。』


不思議と素直に僕は虚空夜叉にこれまでの事をすらすらと話しをしていた、話しの途中に2人の使用人らしい女性が僕達の前に現れお茶を出してくれたが、その1人が気を使ってくれたのか僕の前にはお茶と一緒にお手拭きを添えてくれていた。


『生駒殿、あなたが孤独感に苛まれていた時、本当にあなたは1人でしたか?よく周りを見ましたか?』


少し目線を下げ、お茶をすすりながら何かを見透かすように虚空夜叉は僕に聞いた。


『あの時は何も見る事が出来ませんでした、ただこの現実から逃避したかった思いでいっぱいでした、それでも解決策が無くて僕は自ら命を絶とうとして橋桁から飛び降りたところに風神様と出会いました』


僕はお手拭きで顔を拭いお茶を口に含むと、爽やかなジャスミンの香りが口の中に広がった。


『そして生駒殿は風神殿の助力により、ようやく周りを見る事が出来たわけですね、その時にあなたは気が付きましたか?決して自分は1人ではなかった事に?』


下げていた虚空夜叉の目線がもう一度僕に向けられた。


『はい‥両親や‥加藤‥広川‥確かに僕は1人じゃなかった‥』


また目から涙が溢れてくる。


『そうです、人間は1人では生きていけない種族、あなたは自分で1人だと決め付けていただけ!周りに視野を広げれば必ずあなたの力になってくれる誰かは居るのです、風神殿との出逢いもまたしかり』


『はい‥心の底からそう思います、もっと自分に強くなりたい、本当に苦しんでいる人々を少しでも助けたい、こんな僕でも何かの手助けになる力を持ちたいのです‥』


今まで静かにしていた天夜叉が声を荒げた。


『生駒!あなた馬鹿じゃない!それだけの事でこの試練を受けたの!‥仮に力を付けても第一あなた1人だけで何人の人間を救えると思ってるのよ!ほんっとに馬鹿!』


『おい!天夜叉!おめぇ口がすぎるんじゃねぇか!淳一は覚悟の上でこの修行を始めたんでぃ!少しは認めろい!』


風神様は天夜叉に指差し怒鳴った。



『何よ!!この緑風船!やる気?馬鹿に馬鹿って言って何が悪いのよ!』


天夜叉は怒りを露わにし風神様を睨みつけた。


『そのぐらいにしなさい!天夜叉、風神殿もお怒りを鎮めてください』


虚空夜叉が2人を宥め、話しを続ける。


『生駒殿の気持ちよく解りました、私達は阿修羅王よりの伝言を頂いています、《我が修羅刀を持つにふさわしい男かを見極めよ》と‥それは即ち生駒殿が修羅刀を扱える事が出来なければ、貴殿を地獄に墜とせ!と言う事‥解りますね?生駒殿‥』


虚空夜叉はまるで矢を射抜くような視線で僕を睨んだ、背中に冷水をかけられたような悪寒が全身に走る。


『ただ、今すぐとは言いません!あなたにはまだ90日以上、この世界に居る猶予があります!それまでに剣術を学び、修羅刀を自在に操られるようにここで修行をしなさい!』


『!!‥ここで?‥』


一瞬、僕は身が縮んだ。


『そうです、あなたの成長を私達が見届けます!そしてあなたの稽古は私が相手をしましょう!』


『えっ!?‥あっ‥はい!』


僕の身体がみるみるうちに硬直していく。


『そして風神殿と狼、あなた達も生駒同様に修行をしてもらいます!あなた達は生駒殿と一蓮托生、生駒殿が失敗すればあなた達も生駒殿と一緒に地獄に行ってもらいます!』


とんでもない事になって来た、これじゃ風神様もポチも僕の修行の人質みたいなものだ。


『風神殿も狼もこの先、生駒殿を守りたいならあなた達も更に強くならなくてはなりません!ただし、あなた達は見守り役ですから拒否権は与えましょう!』


風神様はポチに目を向け即答した。


『面白そうだ!退屈しのぎにおいらもポチも受けてやるよ!なっ、ポチ!』


風神様はそう答えるとポチの頭を撫でる。


『ウォォォ~ン!』


勇ましくポチの遠吠えが部屋中に響いた。


(風神様…ポチ…ありがとう…)


『解りました、では地夜叉!あなたは狼の相手を!天夜叉は風神殿の相手をしなさい!』


冷静に虚空夜叉は僕達の相手を決めていった。


『ちょっと姉さん!どうして私が緑フグの相手なのよ!私だって銀氷の白狼がいいわよ!!』


天夜叉は机を両手で叩いて虚空夜叉に抗議をした。


『わはははっ!淳一!おめぇ緑フグだって言われてるぞ~!しょうがねぇ女だな、天夜叉ってヤツは!』


高笑いしながら風神様は僕を指差した。


『お前だ!風神!お前が緑フグなんだよ!アホ風船!』


いきなり天夜叉は席を立つと刀を抜いて剣先を風神様に向けた。


『にゃにを~!!風神様に向かって緑フグだと~‥‥小娘が~!』


風神様も席を立ち、手にしていた袋を天夜叉に向け応戦体勢になる。


『お止めなさい!2人共、天も大人げないよ!虚空姉さんの言葉を最後まで聞きな!』


地夜叉が中に割って入り、虚空夜叉に目線を送り頷いた。


『では、理由を言いましょう‥まずは地夜叉、あなたには飛行能力がありません、ですので白狼が適任です!互いに良い刺激となるでしょう、そして天夜叉!あなたは私と同じく飛行能力があります、風神殿も飛行能力があり、うってつけの相手となるでしょう』


虚空夜叉は物静かにお茶を飲み、穏やかな表情を見せながらも、まるで僕達を全て飲み込むような威圧感を漂わせ理由を述べた。


虚空夜叉の威圧感に天夜叉は素直に刀を鞘に収めると、地夜叉と共にまた席に着いた。


『地夜叉も天夜叉も文句は言わせません、あなた達も必ず良い修行となるはず‥但し!決まり事を伝えておきます、修行中は相手に重傷を負わしたらその日は終了!次の日に相手が回復したら再開する事!いいわね?』


『ちょっと姉さん!そしたら、コイツらをいつまで生かしておくつもり?私はすぐにでも緑フグを殺したいんだけど!』


天夜叉は刀を持ちウズウズと風神様を睨み付けていた。


『それは生駒殿が修行を投げ出すか、私の出す最終試練に敗れた時です!それまでは決して殺生は許しません!天夜叉、覚えておくのですよ』


『‥‥わかりました‥‥姉上‥‥』


虚空夜叉の説得に渋々と天夜叉は了承したようだった、地夜叉は何も言わずに頷いている様子に見えたけども、その鋭い目線はポチから離さなかった。


(地夜叉さんVSポチか…凄い組み合わせだな…僕の相手の虚空夜叉さんってどんなに強いのかな…)


重傷になればその日は終了…いったい何回重傷にされるか考えただけでも背中の筋が痛くなってきた。

『さぁ、修行は明日から始めますので今宵はゆっくりと身体をお休め下さい、後ほど食事も準備させますので…』


そう言い残して3人の姉妹は席を離れた。


明日から剣術修行とは…いったいどんな身体にされるのかと思うだけで身震いがした。


(初めてこの世界で食事が出来るというのに…食欲なんて全然わかない…)


ため息だけが何度もわいてきた。

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