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十三番目の神将  作者: 夕風清涼
第一章夢か?
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夜叉に会う

阿修羅王から修羅刀を授かり、僕達は休む間もなく須弥山から北東にある夜叉の国へと向かった。


ポチの背中に乗り、僕はブラックホールのような暗黒に包まれた夜叉の国を見つめていた。


『ねぇ、風神様?夜叉とは一体どんな神様なんですか?』


僕達の横をふわふわと浮遊している風神様がしばらく考えてからこう言った。


『う~ん‥よく解らねーんだ‥ただ、夜叉とは1人じゃなくて3人居てるらしいぜ‥』


『3人ですか?‥』


一瞬、僕の心に阿修羅王が3人居るような恐怖感が支配した。


『あぁ!おいらも正体は知らねーんだ、なんせ前の帝釈天様の戦役の時はよ、全身甲冑姿で顔も見れなかったからな‥』


『全身が甲冑姿ですか‥いかにも強そうですね…』


阿修羅王の盟友なんだから当然凄いはずである、僕達の住む人間界でも修羅・夜叉が出てくる言葉は有名だ、ただあまりいい意味では使われていないが‥。


『あぁ!とてつもなくすげぇぜ、おいらは3人の夜叉のうち1人しか見てなかったけどよ、一瞬で帝釈天様の精鋭部隊100人を斬っちまったくらいよ!すげぇ~だろ?』


風神様は自分の事のように意気揚々と話しをしていた。


『100人を‥一瞬で‥‥ですか‥』


暗黒界の魔神、そのネーミングが恐ろしく当てはまるくらいに僕の空想が広がっていった。


『まぁ、淳一!そう思い込むな、いざとなったらまた風神様が応援してやる!ビニール傘を突き立てやる!風船を飛ばしてやる!』


『野球の応援でしょ!!それは‥』


阿修羅王の指示で夜叉の国に向かっている事もあるのか、道中は何も僕達の行くてを邪魔する者はなく、荒れた大地をさ迷うようにゆっくりと僕達は進んだ。


『それにしてもよ、淳一!‥阿修羅王から修羅刀を授かった人間なんて、おいら初めて見たぜ‥もしかして淳一はすげぇヤツなのかな~‥』


ふわふわと浮きながら風神様は僕の顔を覗き込んだ。


『えっ!?何ですか?‥急に‥僕は人間の中でも、凄い弱いですよ!自分に負けるくらい情けないんですよ‥風神様が一番解ってるでしょ?』


いじめられても、自分からは何も出来ない、いや…何もしなかった‥ただこの状況から逃げる事だけしか考えていなかった、たとえその場は上手くかわしたとしても、また同じ事がすぐに起こる!逃げ出しても事態は好転する事はまず有り得ない、いずれは向かい合わなければならいんだ!立ち向かう勇気を少しだけ出せば道は出来る。


『そうだな~、でもよ!あの時よりは淳一の顔変わったぜ!おいらの献身な指導の賜物だな!師匠としては嬉しい限りだ!』


『は、はぁ……ありがとうございます』


僕は本当に風神様には感謝をしていた。


約2日かけてようやく夜叉の国の門にたどり着く、すでに阿修羅王からの通知が届いているのか僕達が門の前に立つと衛兵が門を開いてくれた。


『なんか、すんなり過ぎて気味悪いな~…淳一よ!』


僕達は夜叉の国の雰囲気を見渡す、空には星すら無く陽がさす事はまず有り得ない、24時間ではなく永久に夜の世界…今が午前なのか午後なのかも気にする事はない世界…この門の先には何があるのか解らない緊張感が僕達を包んだ。


『とにかく門をくぐりましょう!後は何とかなるでしょうから…』


僕達は衛兵に招かれながら門をくぐった。


『!!!!!!』


『な!なんだ!ここは!!どうなってんだ~?』


門をくぐった僕達の目の前にはまるで植物園の中に居るような風景が広がり、周りの山々からは野球場のナイター照明かと思うような大きな松明の灯りがこの国を照らしていた。


『門の外からじゃ、暗闇しか見えなかったのに…中はこんなに明るいなんて…』


《驚かれたようですな、外から見る我が国の様子は夜叉様のお力で暗黒にしているのです》


『どうして暗黒にしているのですか?』


僕は外と中のギャップが理解出来ず、衛兵に質問をしてみた。


《外敵の防御の意味もありますが、物事には本音と建て前があるものです》


『はぁ、そうなんですか‥‥』


いまいち僕は衛兵の言葉を飲み込めずにいた。


《さぁ、この道を真っ直ぐ行って下さい!そこに夜叉様の屋敷があります》


僕達は衛兵にお礼を言い、夜叉の屋敷へと歩を早めた。



『いや~たまげたな!淳一!おいらてっきり夜叉の国も修羅界風景のナイトバージョンかと思ってたけどよ、自然がいっぱいで空気も全然違うぜ~』


風神様の言う事も間違いではなかった、修羅界の血の臭いを忘れるほどに空気が澄んでいる。


植物園見学をしているような気分で僕達は久しぶりの新鮮な空気を満喫しながら屋敷を目指した。


『そういえば風神様、修羅界にせよ夜叉の国にせよ、身分がありますよね?鬼だったり、兵士だったり衛兵だったり‥それって誰が決めるんですか?』


僕は何気に風神様へ質問をしてみた。


『まずは、閻魔様が死者を裁く時に生前の行いを吟味して行く場所と身分を決められるのよ、後は転生によるものだな』


『へぇ~~‥なるほど‥』


しばらく歩き続けると森林が開け、まるで映画に出てくる昔の中国のような街並みが見えてきた。


『街が見えますよ!何だか中国に来たみたいですね…!』


鬼か兵士しか居ない修羅界とは全く異なり、夜叉の国は正に国家として機能しているようだった。


『街があるって事は国民も居るんでしょうね…どんな人達が住んでいるのか、緊張しますね…』


僕は転校して初めて学校に行くような気分だった。


『まぁ、人間界とは違うんだから、用心に越した事はねぇな!気を付けていくぜ!』


僕達は緊張感を保ちながら街の中へと入って行く、街の入り口にはまるで中華街で見かけるような彫刻が施された立派な門があり、通りを挟むように色々な商店が連なっていた。


『何だか本当に中華街に来たみたいですね…夜叉って感じがしないような気がしますね…それに男の人や女の人も居てますし!』


『あぁ!でもよ…淳一、よく観察してみろ、女はともかく男はみんな兵士の格好をしているぜ!…それに、さっきから子供の姿が見えねー…』


『そういえば…そうですね…それに僕達の姿を見ても、みんな全然騒がないし…』


人間と鬼神、それに巨大な狼の一行を目の当たりにしたら、かなりの視線を集めると思っていたが、周りはいたって平常なのに驚いた。


僕は勇気を出して通り過ぎる男性に声をかけた。


『あの…すみません…ちょっといいですか?』


《なんだ?私に用か?》


『僕達、旅の者なんですが、何とも思わないのですか?怪しいとか‥』


《夜叉の門をくぐった者は我らの敵ではない、ただそれだけだ‥》


顔色も変えずに男はそう言うとその場を立ち去っていった。


『へんっ!愛想のねぇヤツだぜ!おいらは《お兄ちゃんらどっから来たん?飴ちゃん食べるか?》みたいなのりのほうが好きだぜ!』


まぁとりあえず国民は僕達を敵視してないだけでも助かった、あの無数の鬼達に囲まれた恐怖は今も鮮明に頭から離れない、もしこの国民が僕達に襲いかかって来る事を想像するだけで身が縮む気分だ。



『風神様、この国の人達は僕達を敵とは思ってないだけ良かったじゃないですか!』


『まぁそうだけどよ‥なんか、面白みに欠けるんだよな~‥』


拍子抜けのような表情で風神様はノコノコと僕達の横を歩く。


『風神様のように、面白いか面白くないかで判断して生きている人って少ないでしょ?』


『あっ!最近の淳一可愛くねぇ!プランプランはちっちゃくて可愛いのに、性格は可愛くねぇぞ!せっかくおいらの新曲アルバムをプレゼントしてやろうと思ってたけど、やめだ!』


『いつ歌手になったんですか!それにプランプランは関係ないでしょ?』


僕達は街を通り過ぎると、少し小高い丘の上に建造された大きな中華風の屋敷が見えてきた。


『あれが夜叉の屋敷ですかね?…』


朱色の屋根の建物に丘全体を囲むように作られた広大な塀…さらに豪華な門の中には凄い庭園がありそうな雰囲気を出していた。


『夜叉様って…大金持ちなんでしょうか?……』


あまりの規模の屋敷に僕達は呆気にとられていた。


『わかんねー…一つ言える事は、淳一が雑草パンツゥ~ルックでなくて良かった事だ…』


『そう…ですよね…あの格好じゃ…入れてくれないでしょうし…』


だんだん僕達は本当にあの屋敷に迎えてもらえるのかと不安に思いながら丘を登って行った。


丘を登りきると後ろの風景には森とさっきの街並みが眺望出来た。


『結構、いい景色ですね!あっ、森の右側には河が見えますよ!それに水は赤じゃなくて青ですね!…凄いや、太陽も無いのに山の松明だけで光を作ってるだけなのに…』


『まったくだぜ!こんな事が出来るんだ!かなり夜叉は大物だぜ…覚悟しておいたほうがいいな…』


ブルブルっと風神様は武者震いをして両手で顔を叩いた。


『はい!それじゃ、屋敷の門に向かいましょう…』


門の前にはすでに僕達の到着を待っていたように老婆が立っていた。


《さぁさぁ、ようお越しになられた‥中の屋敷にどうぞ‥》


門の前で出迎えてくれた老婆は腰を曲げた姿で、顔を伏せながら中へと通してくれた。


《この庭園を進むと屋敷です、どうぞお行きなされ‥》


老婆はその場で僕達を見送り、門の脇にある守衛室のような建物に入っていった。


『何か気持ち悪いババァだったな‥三途の川に居るあのババァを思い出したぜ~‥』


僕達は屋敷へと続く庭園を歩く、右側には大きな池とそこに繋がる小川が流れていた、池には所々に大きな岩が置かれており、見る者の風情を楽しませてくれるようだった。


『やっぱり凄い御屋敷ですね…』


ある意味憧れのような眼差しで僕は美しい庭園の風景を眺めながら屋敷へと歩いた。


『なぁ、あの先の花壇で誰か花をいじっていねぇか?』


風神様は石畳の回廊を歩きながら左側にある花壇を指差した。


『そう言えば誰か居ますね‥造園業者の人ですかね?‥でも女性に見えますけど‥』


僕達は花いじりをしている女性に近づいて行く、その女性はまるで浦島太郎に出てくる乙姫様ような衣装を纏い、上品な顔立ちはかぐや姫を思わせるような綺麗な人だった。


(夜叉の国にこんな綺麗な人が居るんだ…)


僕はかなり緊張した口調で女性に声をかけた。


『あの…すみません…お聞きしたいのですが…夜叉様は…奥の屋敷に御在宅でしょうか?…』


僕が声をかけると女性はゆっくりと優雅に立ち上がり、僕達を見つめた、静かに風が女性を通り過ぎほんのりと女性の甘い香りが僕達の鼻孔をくすぐった。


(…まるで天女みたいだ…それにいい香りがする…夜叉様の奥様かな…)


風神様も横でぼう然とその女性を見つめていた。


《ようこそ、生駒淳一!私は虚空夜叉、屋敷には妹の天夜叉と地夜叉が待っております、どうぞこちらに…》


(!!!えっ!?!!)


僕と風神様は顔を見合わせた!


『夜叉が……お…女ーー!!!』

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