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十三番目の神将  作者: 夕風清涼
第一章夢か?
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須弥山‥そして城へ


ポチが仲間に加わった事により須弥山までの距離がかなり縮まった。


僕達は湖を抜け安心したのもあり、のんびりと歩いて須弥山を目指していた。


『えっと~‥さっきまでに淳一は三回ポチに乗ったから~‥300円だな!』


風神様は指を折ながらお金の勘定をしていた。


『ほんとにお金とるんですか!…風神様は関係ないと思うけど…』


『アンポンタンだな~!おいらはポチの通訳兼ジャーマネよ!』


(何で業界用語?)


風神様が楽しそうな雰囲気を出してくれるお陰か僕自身もかなり気分が晴れていた。


今、まだ僕は生きている!初めて修羅界に来た時にはすぐに殺されると思っていた、自分は何も出来ない人間だと勝手に決めて常に逃げる事だけを考えていた。


まだこの修羅界から抜け出せる保証なんてこれっぽっちも無いだろう‥でも僕は少しだけ学ぶ事が出来た、逃げてもそれは一瞬の安息しかなく何も解決していない事、むしろ事態は悪くなる、どんな困難な出来事が立ちはだかったとしても自分自身が諦めなければ救いは必ずある、ジッとしていても何も解決はしない!前に動くしかないんだ。


『風神様、阿修羅王を見たことがありますか?』


僕は学校で美術の時間に見た教科書のイメージしかなく、本当の阿修羅王の姿を知りたかった。


『あぁ!あるぜ‥あれは帝釈天様との闘いの時、おいら最前線の斥候部隊にいてな、そりゃあ恐ろしい姿だったぜ!全身に黄金の鎧を纏ってな、顔は憤怒の形相に変化させて修羅刀を振り回してたぜ‥』


『黄金の鎧‥憤怒の形相‥‥ですか‥』


僕は風神様の話しから三国志に出てくる猛将《呂布》のイメージがした。


『あぁ!普段は淳一らみてぇに普通の形相にしてるんだけどよ、キレたら大変なんよ!憤怒の形相に変わった瞬間に修羅刀でバッサリ斬られちまう‥ぶるるるっ‥淳一!おいらちょっと6番行ってきま~す』


『6番?‥‥』


『やぁ~ねぇ~!業界で6番はおトイレの事でしょ!では、失礼~』


(まだ業界シリーズ続けてたんだ…)


僕は阿修羅王と会った時、一体何をすべきなのかサッパリ解らなかった、もし勝負を挑まれても瞬殺されてしまうだろう…得体の知れない恐怖が僕の心をよぎった。


『グルルルルルッー!!』


ポチが僕達の進行方向の先を見つめながら唸った。


『どうした?ポチ?‥‥』


僕はポチが睨みつけている方向に目を凝らした、また新たな敵が現れたかも知れない緊張感が身体を硬直させる。


(また闘いが始まるのか‥‥)


僕の視界からは草原の遥か先に黒い点がこちらに向かってくるようにしか見えない。


(何かが来る!‥)


『グルルルルルッ!』


ポチはすでに解っているのか、それとも匂いで敵意を感じているのか、口元から鋭い牙をむき出している。


『いや~タップリ出たな~!あんまり水飲んでないのによく出るもんだ~♪あれ?おめぇらどうしたの?』


僕達の緊張感が解ったのか、用足しから戻ってきた風神様も草原の先に目を向けた。


『風神様!またポチが何かを感じているようです!』


僕達はこちらに向かってくる者を待ち構えた、まだ視界には1人しか居ないように見えるがここは修羅界だ!その後ろにはかなりの鬼達を引き連れているかも知れない。


『淳一!油断するなよ!‥須弥山まではもうすぐだ!ここで負けるわけにはいかねー!』


風神様も顔をこわばらせながら袋を握りしめている。


だんだん黒い点が大きくなり僕達にも相手の様子が伺えるようになってきた。


『風神様!黒い馬に誰か乗っているようですね!‥』


『おいらにも見えてる!騎馬に跨ってるって事は、かなりの手練れだ!気を付けろよ!淳一!』


相手は騎馬だ、ポチに乗って応戦するか散らばって応戦するか、僕は思案していた。


(散らばって闘うなら、相手は真っ先に僕を狙うはず‥ならば馬の速さに対応出来ないと無理だ‥韋駄天様の真言を使うか‥)


サファリパークの猛獣エリアの中に入れられたような緊張感が僕を包んだ。


(どうやら相手は1人のようだ、もし闘いなれば僕達が一斉に襲えば何とかなるかも知れない!)


『ポチ!左にもっと広がって!風神様は右に広がって下さい!』


僕は手を大きく扇ぐように動かし、ポチと風神様に指示をした。



『何をする気だ?淳一!‥』


『ポチは左、風神様は右、僕は後ろに下がって相手を僕達の中心点に誘い込みます!そして一斉に攻撃を仕掛けましょう!』


『おぉ~!さすがはおいらの弟子だ!よくぞ気が付いた!おいらの考えていた事を見抜くとは、淳一も成長したな~!』


その間にも次第に騎馬は僕達に近づいて来ていた。


『それじゃ、みんな準備を!!』


僕達はそれぞれの位置に移動し陣形を作った。


(きっと相手も僕達の動きは解っているはず、そう簡単には引っかかってくれないだろう‥)


緊張感の中、静かに時を刻むように僕達へと騎馬は近づいてくる、ポチは唸り声をあげながら威嚇していた。



(だんだん相手が見えてきたぞ‥)


漆黒の馬に跨り、全身も馬と同色の鎧を纏った大男が僕の視界に入ってきた。


(阿修羅王かな?‥いや、まさか‥そんな事は‥)


無意識に僕達はすぐにでも戦闘が出来るように身構えた。



♪バッカ、バッカ、バッカ、バッカ、バッカ


『お~い!淳一~!馬がおめぇを呼んでるぜ~!イヒヒヒヒ♪』


風神様が大声で僕に叫んだ。


『呼んでませんよ!』


『聞こえるだろ?馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿って~♪』


風神様はこの緊張感を解きほぐそうと思っているのだろうが、野球のピッチャーが投げたピンボールを全力で振るバッターくらいに風神様のネタは空振りした。


『……真面目にして下さい……風神様…』


『はい!…』


風神様はまた騎馬に向かい身構えたが、不思議と僕は緊張感が和らいだように感じた、これが果たして風神様の計算によるものなのか、単なる思い付きの行動なのかは定かでないにせよ、少しだけ僕は風神様に感謝した。



いよいよ僕達の陣形まで後50mくらいまで騎馬は近づいてきた、ポチは前足を曲げいつでも飛びかかる姿勢になった!


僕は韋駄天様の真言を唱える準備をした!


風神様は右手の小指を鼻に突っ込んで鼻くそをほじっていた!


(あの神様、どこまでが本気なのかサッパリ解らない…)


気を取り直し僕は視線を騎馬に向けた。


あと数歩の所で騎馬は進むのを止め、鎧の男が声をあげた。


『貴殿らと争うつもりは御座らん!ただちに戦闘態勢を解かれよ!我が主君、阿修羅王様がお待ちである、私が案内いたすので付いてきてもらいたい!』


すぐさまポチは男に殺気がない事に気付いたのか、威嚇姿勢を崩した。


(ポチが落ち着いたのなら大丈夫かな‥)


僕はゆっくりと前に歩き出し男に近寄って行った。


『貴殿が‥‥‥そうか‥‥‥阿修羅王がお待ちかねだ‥その魔獣に乗り、私についてまいれ‥その鬼神は飛行が出来るのであろう、後ろから来い!』


男はそう言うと馬を反転させ一気に須弥山へと走らせた、僕は急いでポチに飛び乗り、馬の後を追った。


(阿修羅王が僕達を待っている‥自らの手で僕を殺すつもりか‥)


この恐ろしい修羅界を治める阿修羅王、この世界で一番の脅威‥僕はこれからその脅威と会うことになる‥背中が冷たく感じていく。


『淳一!‥本気で阿修羅王に会うつもりか?‥おいらは遠慮したいぜ‥待合室か喫茶室あんのかな?‥おいらとポチ君は、そこで待ってていい?』


風神様は僕達の横を飛行しながら不安そうに聞いてきた。


『えっ!?‥僕1人で!‥‥そうですよね…風神様とポチは僕の修行には関係ないですもんね‥‥分かりました、僕1人で阿修羅王と会ってみます!』


もし阿修羅王が僕達の命を狙っているとすれば関係ない風神様やポチを巻き込むわけにはいかない、僕はヘソに力を込めた。


『強くなってきたな…淳一…おいら安心したぜ!…これで心置きなく喫茶室でプリンアラモード食べれるぜ~♪ポチ君にはビーフジャーキーを用意してもらおうね~♪』


(本当にこの神様何考えてんだろ…)


みるみるうちに須弥山が近づき、その全貌が明らかになっていった。


(これが…須弥山…山全体が…城!)


山全体が怪奇映画に出てくるドラキュラ城のようにそびえ立っていた、赤い空に黒い雲‥これでコウモリが飛んでいれば間違いなく山で出来たドラキュラ城だ!。


『おっかね~城だな‥淳一!‥おいら心配になってきたぜ‥こんな不気味な城‥見たことねぇし‥あぁ~心配だぜ!』


須弥山城を見つめながら珍しく不安気な顔をする風神様だった。


『大丈夫ですよ!風神様‥今のところは僕達、阿修羅王の客人の立場だと思いますから‥』


自信は無いけども僕は風神様にそう言うしかなかった。


僕達の目線の先には山の麓をくり抜いて作った大きな鉛色の鉄門が見えてきた、門の前には僕達の進行を阻むかのように何百‥いや、何千もの鬼達が群がっていた。


『すげぇ数の鬼だ‥どうすんだ?‥あの中を突っ切るつもりか?‥淳一!』


門の前では鬼同士が掴み合いをしている者、噛みつきあっている者、殴り合いをしている者がそこら中に居た。


『凄い光景ですね…これが修羅の鬼‥今日傷ついても、また明日には回復して争いを始める‥‥恐ろしい世界ですね…』


修羅界の恐ろしい光景に僕達はたじろいでいると、案内をしていた騎馬の男が引き返してこう言い放った。


『ここからは私のすぐ後ろを付いてきてもらいたい!隊列を崩せば、貴殿らは即鬼共の餌食となろう!では、参る!』


男は背中から斬馬刀のような大きな刀を引き抜くと門に群がっている鬼共へ目掛け馬を走らせた、僕達は男に言われたように後ろを付いて行く。


『あの男、1人で鬼共を蹴散らして門に行くつもりかよ!何匹いると思ってんだ!』


僕の後ろで風神様が声を荒げる、僕自身も半分やけくそでポチにしがみついていた。


『ポチ!しっかり付いて行ってくれよ!』


僕は必死に馬を追うポチの脚力を信じながら前の男の動きを見つめた、男は軽々と右手で刀を構え鬼の群れに突っ込んで行く。


《うぅおりゃーー!》


男は気合いと共に刀を上から斜め下に切り下げた瞬間、数百匹の鬼達が左右に吹き飛ばされた。


男はまるでオーケストラの指揮者のように刀を振り回して鬼達をなぎ倒していった。


(凄い!‥こんな凄い男が阿修羅王の部下なんて!‥)


真っ二つに鬼達の群れを切り裂きながら僕達は門へと突き進んだ。


《開門~!開門~!》


男は門に向かって叫ぶとゆっくりと門が開く、中から兵士達が飛び出しすぐさま鬼達を押さえ込んで僕達の進む道を確保してくれた。


鬼の群れを抜け、門をくぐると男は馬を降り馬番に手綱を預けた、それと同時に僕達の後方で重苦しく門が閉まる音が響いた。


(これが阿修羅王の城か…)


ポチから降りた僕は城全体を眺めていた。


♪ギッ‥ギィ~~‥ガタンッ!


不気味な音をあげながら城の中へ僕達を誘い込むかのように城の扉が開いた。


『さっ!阿修羅王がお待ちだ!こちらに‥』


男は僕達を薄暗い城内へと導いた。

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