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十三番目の神将  作者: 夕風清涼
第一章夢か?
13/29

闘いの後に‥

『淳一!諦めんな!まだ旅は始まったばかりじゃねえか!』


風神様は意識が遠のいていく僕を必死に呼びかけてくれている、しかし僕は圧倒的な白狼の攻撃力と押し潰されそうな殺気に何も出来なかった。


生まれて初めて体験した焼けるような右腕の激痛、全身を萎縮させるほどの恐怖、逃げる事も出来ない現状…《絶望》の言葉がジグソーパズルのピースのようにピッタリと当てはまった。


(身体さえ動いてくれたら…でも、もう無理かも…)


口元から僕の血を滴らせながら、まるで次はどこを狙うか迷っているように白狼は右へ左へと大きな身体を移動させている。


(早くトドメをさして…)


風神様と出逢ってからまだそんなに月日は経ってないけど、僕の人生の中で本当に楽しかった。


『風神様…こんな情けない僕を助けてくれてありがとう…天部の神様にすみませんとお伝え下さい…』


僕は全ての力を抜き、白狼が襲ってくるのを待つ。


『アンポンタン!諦めてどうすんだ!どんな事でもその世界で起こった出来事はその世界で解決できるんだ!一番のアホは何もしないで諦めるヤツなんだ!』


(何もしないで諦めるヤツ…)


『淳一!おめぇにはまだ韋駄天様の両足と健在な左腕、大暗黒天様の目があるじゃねえか!…右腕を無くしたってな~…あれ?…世界?…腕?…傷?…えっ!?…』


『風神様…どうしました?まさか…湖の香りに…』


僕はまた風神様が湖から放つ香りに取り憑かれてきたと思った。


『おおおう~!そうだ~っ!!!淳一~、後もう少しの時間!絶対諦めんじゃね~!!力振り絞って死んだ気で白狼から逃げまくれ!』


風神様は水面をバシャバシャ叩きながら叫んだ。


『……どうしてですか?…』


『アンポンタン!まだわかんねーのか!!ここは人間界じゃねー!!修羅界だ!たぶんもうすぐ日がかわる!』


何とか僕が倒れないようにする為と、さらに白狼を威嚇するかのような大きな声で風神様は怒鳴った。


『…そうか!!ここは修羅界!傷ついても次の日には元に戻る世界…僕の無くした右腕も…』


少しだけ希望の光が見えてきた、もう少し…もう少しだけ身体が持ってくれれば、後は何とかなる。


僕は目で白狼を威嚇しながら、左手で風神様が作ってくれたパンツを脱ぎ右腕の傷口にパンツを強く縛り付け出血を抑えるようにした。


『うっ!…ぐっ…ぐぁ…』


縛り付けた右腕から痛みが走る、かなりの出血で体力は消耗しきっている、大きい動作は出来ない!出来るだけ白狼の攻撃をギリギリで交わさなければならない。


(左腕は失ってもいい…頭と足は絶対に守らないと…)


僕は痛みを忘れるかのように白狼にだけ集中する、湖からの香りを防ぐ為、鼻の穴に入れている雑草のせいで口からしか呼吸が出来ない、極力疲労を出さないようにしなければならなかった。


グルルルルルッ!


白狼は舌を出して血の付いた口周りを舐めた。


『風神様!例の作戦、いきますよ…』


僕は足の裏をしっかり地面に密着させてすぐに動ける体勢にはいった。


『いつでも準備いいぜ~!《下手な鉄砲、数打ちゃ当たる》作戦発動~!』


僕は周りの気と同化するように呼吸を整え、心と身体が煙りになるイメージを描きながら、白狼の内面を透視した、白狼の前足の筋肉が圧縮された。


(飛びかかってくる!両方の筋肉の圧縮が同じだ、真っ直ぐに飛ぶ!!)


『グゥォォォッ~!!』


やはり白狼は僕の正面に飛びかかってきた!僕は交わす寸前に風神様に合図を叫ぶ!


『はい!!』


『おっしゃ--!』


♪バシューーー!


勢い良く風神様の袋から水鉄砲のように水が放出された。


♪バシャ!!


『ギャン!!!』


見事に水が白狼にヒットし、白狼は奇声をあげた。


『おりゃおりゃおりゃ~!必殺!《乙女の投げキッスビームッ》 おりゃ~!』


♪バシューーー

♪バシューーー

♪バシューーー


いきなり水をかけられた白狼は動きが少し鈍くなった。


『ギャン!!』

『ギャン!!』

『ギャン!!』


次々と風神様の放つ水が白狼にヒットしていく。

(ん?…あれは…)


透視をしていた僕の目に白狼の血管の中にある凍りついた血が流れ始めているのが見えた。


僕は左手を白狼にかざし気を探った、少しずつ白狼の冷気が弱まってきている。


『おりゃおりゃおりゃ~!必殺!《キャー♪風神様~素敵~バズーカ!!》おっりゃ~!』


♪バッシューー-


大量に放出された水が白狼めがけて飛び出し、その水圧で白狼は弾き飛ばされた。


『ギャ--ン!…』


(…………)


僕は弾き飛ばされた白狼を透視し続けた、塩分の含んだ水を浴び一気に体温が下がり更に身体の氷が溶けていくスピードも加速されて白狼は徐々に弱ってきた。


(…白狼の体内の血液の流れが早まってきている…)


風神様の一撃をくらった白狼は雑草の上で呼吸を乱しながら横たわっていた。

(まだ起き上がってくるかな…)


『淳一~!白狼はどうなってる?おいらにゃ見えねーから、解説してくれたまえ!まぁ当たってたのは白狼の悲鳴で解ってるけどな~』


『草むらの上で倒れてますけど…まだ安心は出来ません…』


ハッハッハッ…と白狼は早い呼吸をしながら倒れている。


『お~し!そしたら必殺《風神キューピットの矢》!迫撃砲攻撃だ!えっと…角度30度に修正して…』


『……待って…』


僕は風神様の次の攻撃を止めた。


『えっ!?なんで~!チャンスだろうが-!ヤツが起き上がったら今度こそ淳一食われちまうぞ~!』


風神様はまるで子供がお風呂で遊ぶようにバチャバチャと水面を叩いて抗議している。


『僕に…任して下さい…』


(ここは修羅界…どうせ明日には僕の身体は元に戻る…)


僕は地面に転がっていた右腕を拾い、白狼に近づいていく、白狼から発していた冷気は影を潜めていた。


(もう戦える気力と殺気が感じられない…)


ハッハッハッハッ白狼の乱れた呼吸が聞こえてくる、僕はゆっくりと白狼の頭の方に歩いた。


僕が近づいてくる臭いで解るのか、白狼は横たわりながらも唸り声を出していた。


グルルルルルッ…


『大丈夫…僕達もう襲ったりしないよ…』


僕は白狼の顔の前にしゃがんだ、衰弱し横たわりながらも牙を向けて僕を睨み付けている。



『こんな世界だ…食べ物なんて無いもんな…さぁ…これを…』


僕は噛み砕かれた右腕を白狼の口元に置いた、白狼は口を開けるが衰弱しきっているのか上手くくわえる事が出来なかった、僕は右腕を取り白狼の口の中に入れてあげた。


♪バキッ…グチャ…バキッ…バキッ…


白狼は僕の腕を食べた。


(自分の腕が食べられるシーンって…超グロいな……)


白狼の体内の血液は全体に勢い良く流れていた。


僕は恐る恐る白狼の頭を撫でてみた一瞬、牙をむき出したが白狼はすぐに牙を元に戻した。


『はは…もう大丈夫だ…大丈夫…良かった…』


白狼は満足したのか横たわりながら口の周りを舐めていた、いつしか白狼からの冷たい冷気は消え、頭を撫でている僕の手に温もりが伝わってきた。


『風神様~!終わりました!…もう水から出て来ても大丈夫ですよ~!そのまま前に進んで下さい~』


『お…おう!…何か…よう解らんが…おいら達勝ったんだな…』


♪パシャ…パシャパシャ…


風神様が水から出てきた、風神様はまだ辺りを警戒しているのかまるでマシンガンを向けるように、袋の吹き出し口を左右に振り分けていた。


『風神様…もう大丈夫ですから…もう…大丈夫…』


僕は急に意識が薄れ、白狼の横に倒れた。


『淳一!おい!…淳一…おい…寝ちまったのか…』


……………

……………

……………

んっ………

……うっ…


(風神様…僕の顔…雑巾で拭かないで…)


…うっうーん…


ゆっくりと僕は目を覚ましていった。


『あぁぁぁぁぁ…よく寝た…はっ!右腕!!』


僕は慌てて右腕を見た!


『はぁぁぁぁぁ~…良かった~…元に戻ってる~…』


僕は自然と涙が流れてきた、何度も右腕を回したり指を開いては閉じたりした。


ベロ----ッ…


僕の左側の顔がまた雑巾で拭かれた感じがした。


『風神様!雑巾で僕の……うっわ--!!!』


夜が明けて目覚めた僕の真横に白狼が立っていた。


『ふ…風神様~……ふ…風神様~…』


僕は風神様を探した。


『は~い!……僕はここよ~!』


いつの間に湖へ逃げていたのか、まるで晒し首のように水面から顔だけを出している風神様を見つけた。


『ふ…風神様~…ズルいし……』


僕は白狼と目線を合わせた。


(あれ?…殺気が無い…目が…優しい…それに、冷気も感じない…)


僕は白狼の顔に手を伸ばすと、白狼は僕の手を頬ずりするような仕草を見せた。


『あは…あははは…あははははは~!よし、よし!…』


白狼はずっと僕を舐めていてくれたと思うとなぜか嬉しくなって笑いが込み上げてきた。


『あははははは!あはははははっ!よしよし!』


『淳一先生っ!御乱心あそばされましたか~?怖くて頭プッチンしちゃいましたか~?淳一先生~!…』


風神様は僕の姿に呆気に取られていた。


『大丈夫ですよ!もう昨日の白狼とは全然違いますから!早く風神様もこっちに!』


風神様はまだ疑いの眼差しをしていた。


『さぁ、風神様!大丈夫ですから!』


風神様は僕の笑顔で安心したのかゆっくりと水面から姿を現した。


『いや~!一時はどうなる事かと思ったぜ~!まっ、淳一が無事で何よりだ!!』


『さっきまで湖に避難されてたのは誰ですか……』


僕は風神様に軽蔑の眼差しを送った。


『淳一君!…君は勘違いをしているよ!…僕は朝風呂を満喫していたんだよ…言わば戦士の休息だ!』


風神様は強気な態度で白狼の身体をポンポンと撫でた。


『しかし、どうして傷の癒えた白狼がまだ僕達の側にいるんでしょうね……』


『さぁな…こいつもずっと孤独だったのかも知れねーな…寂しくて、寂しくてとうとう心まで冷えてしまって、あんな化け物になったのかもな…』


風神様は馬の顔を撫でるように悲しそうな表情で白狼の大きな顔を撫でた。


『…風神様…この子も一緒に連れて行きましょう~…』


『えっ!?マジか!!修羅界の狼だぜ!』


『でも、人間ならまだしも異界の者を同行させてはいけない規定なんて無いんでしょ?…』


『う…まぁな…』


何か風神様は思案しているようだった…。


(えっと…弱っちい淳一をおいら1人で守るのは荷が重い…白狼の力はケタ違い…いざって時は…おいらの盾になってくれそう~…)


『しょうがねぇ~な~!特別サービスにおいらが許してやるよ!旅は道連れ世は情けだ~!』


絶対、風神様は何か考えていたと解っていたけど白狼がついて来てくれたら心強かった。


『僕達と一緒に来てくれるかい?』


僕は白狼の首を撫でながら聞いた。


♪ウォォォ~ン‥


白狼は僕の願いを聞いてくれたように赤い空に向かって遠吠えをした。


『よし!淳一!じゃ、コイツが仲間になってくれたからには、名前を付けてやらねえとな!』


『そうですね~!名前ですよね…う~ん…』


『どして淳一が悩むんだ?命名権はおいらでがしょ?』


『どうして~?』


『おめぇが超~~~ピンチの時に励ましてくれたのだ~れ?』


『風神様…』


『おめぇが、あ~~~僕ちゃん!もうダメだ~って時に修羅界のシステム教えてくれたの、だ~れ?』


『風神様…』


『もう一度聞いちゃうよ~!この狼の命名権がある人はだ~れ~?』


『風神様…』


『だよね~♪』


風神様はご機嫌で白狼の姿を眺めながら、名前のイメージを浮かばせていた。


『淳一~‥おいら名前考えてるからさ~‥先にその邪魔な小さいプラン~プランをパンツゥ~で隠しててくれる~?おいら笑けて考えらんな~い!』


『わっ!忘れてた!』


腕が元に戻った事でいつしか雑草パンツは地面に落ちていた。


僕は急いで雑草パンツを履き直した。


『風神様~‥名前決まりましたか~?』


『まぁそう焦るな!‥このトレンディーな風神様が現代の流行を先取りしたオシャレで誰からも愛されるウィットでシュールな名前を付けてやる!』


(風神様の必殺技の名前が…頭から離れない…)


『いよ~し!白狼!喜べ!この風神様が名付け親だぞ~!!お前の名前は~~!!』


『白狼の名前…………………あの威圧感と圧倒的な強さを誇る白狼………風神様は…どんな名前にしたんだ……』


僕は息を呑んでその時を待った…。


『今日からおめぇは~~~~!』


(いよいよだ!)


『《ポチ》だ-----!!!』


『………ポチ…?…ポチィ---!!!…』


戦ってもいないのに僕の意識が薄れていった…。

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