魔獣の牙
『オン・イダテイタ・モコテイタ・ソワカ』
僕の足に韋駄天様の力がみなぎる。
『風神様、その袋は風を吐き出すだけしか出来ませんか?』
僕は湖の中にいる風神様に確認した、出来れば自分の考えを立証したい、その為には風神様の協力が不可欠だった。
『まぁ吸い込む事も出来るけどよ…何したいの?淳一先生~?……』
(出来るのか!よし!)
『風神様!袋にありったけの水を吸い込んで下さい!』
(後はタイミングだ…かなりヤバい距離を詰めないと…)
『淳一店長~!お水入りました~!』
『ありがとうございます!次は僕の合図で思いっきり前に水を放水して下さい!白狼に水をかけますから!!』
『お…おう!…水ね、…水…?…白狼に…』
これで準備は整った、後は白狼が襲ってくるのを待つだけだ…冷たい気流が僕の身体を包み込んだ。
グルルルルルッ
白狼は二本の鋭い牙を剥き出した!
『さぁ~!来い!』
『ほいきた!!』
バシャ~ッ!!
突風と共に僕の背中に津波のような大量の水が押し寄せた。
『………まだ…ですけど……風神様~…』
白狼が放つ冷気と風神様の放水でずぶ濡れになった僕は曇り空のプール授業のように寒さに耐えなければならなくなった。
『だって淳一先生!合図したじゃんよ~!おいら気合いバリバリで、チョベリグ~なモエモエ~なイケイケ~だったっすよ~!』
『なに言ってるんですか!じゃ、僕が《はい!》と合図したら放水して下さい!』
『OKベイベ~!』
まだ体力も使ってないのに更に疲労度が増した気がした。
僕は白狼と睨み合いながら舌をだして湖の水を舐めてみた、風神様の言われた通り甘じょっぱい味がした。
(後は…僕の体力がどれだけ持つか…)
白狼もそろそろ限界の様子に見えた、僕は白狼を挑発するように石を拾って投げつけた!
ウォォォゥ--ッ!
ついに白狼は大きな口を開き飛びかかってきた、口からはまるで消火器から吹き出すような白い気体が僕に向かって吐きつけた。
僕は素早く右に飛び移る!
『ハイ!』
『おりゃ~!』
バシューーン!
風神様は袋を正面に向けて水を放出したが白狼に当たるまでには数メートル足りなかった。
『風神様!もう少し威力を揚げて下さい!もう一度僕が白狼を引きつけますから!』
白狼を引きつけるにはまた僕は白狼の前に身をさらけ出さないといけない…。
(次は水辺ギリギリで誘い出さないと…風神様もそれほど湖の中には居られないはず…湖の香りも気になるし…)
僕は白狼と目を合わせながらジリジリと水辺ギリギリに移動していく、白狼の口がまた僕に向けて開いた!
(また冷気か!!)
僕は一瞬早く動いたが、白狼は口を開いたまま僕の動きについてきた!
(冷気じゃない!!くそっ!)
僕の顔の前に大きな白狼の口が見えた、僕は反転するように身体をよじった。
♪バシャ!バシャ…
水辺に僕は倒れ込んだ、僕は頭をかじられる覚悟をしたが何とか回避出来たようだった。
(危なかった……うっ…えっ!…)
右腕がとてつもなく熱い!感覚も解らない…僕は右腕を見た。
『ぐあぁぁぁぁぁ!う…腕が!右腕が~…!あぁぁぁ!!うわぁぁぁ…』
まるで紅蓮の炎に焼かれるような痛みが噛みちぎられた腕の傷から伝わった!
右腕の痛みが全身を支配していき更に吐き気が僕を襲ってくる。
『うっ…うごっ…うぇっ…うぇっ…うげっ…』
『淳一~!どうしたんだ?おい!淳一~!返事してくれ!淳一よ~!』
小さな滝のようにちぎられた右腕の傷から血が流れ落ちていく、出血のせいか痛みのせいか僕の意識も朦朧としていた。
(今倒れちゃだめだ…倒れちゃだめ…だ…)
白狼は僕の血で口を染めながら容赦なく次の攻撃を仕掛けてくる姿勢をとっていた。
『どうしたんだ!淳一!…おいらに教えてくれ~!』
風神様が心配して叫んでいる、白狼は一瞬で僕の腕を噛みちぎるほどの強さだ、ある程度弱点は解ってきたけども肝心の僕の身体能力がついていかない…僕は風神様に逃げてもらおうと思っていた。
『う…腕を噛みちぎられました…今にも意識が失いそうです…風神様…水の中だと白狼は来ませんから、夜が明けるまで湖の香りを防いでから、逃げて下さい!』
意識が薄れるつれて徐々に痛みが麻痺していく…急激に身体も冷えてきた。
(ここまでか…次は間違いなく頭をやられるな…ちくしょ~…ちくしょ~…僕は負けるんだ…)
僕はどうせ負けるのなら最後の最後まで白狼を見つめていようと覚悟した。
(さぁ…来いよ…僕を噛み砕きに来い!)