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十三番目の神将  作者: 夕風清涼
第一章夢か?
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一難去ってまた一難

どれだけ僕は眠っていたのだろうか…。

たった1日であまりにも多くの出来事が続き、精神的にかなり疲れていた。

鬼との闘い、険しい岩山、湖の罠、暗黒の恐怖…今日は何が起こるんだろう…。

不安と共にゆっくりと僕の瞼が開いた。

また、赤い空と黒い雲が目に入った。


(やっぱり、僕は修羅界にいるんだ…)


どんよりとした重い気持ちが僕の胃の辺りにのしかかってくる、これが夢だったらかなり笑える話になっていただろう…。

しかし、今僕が見ている風景が現実なんだ…


『おっ!淳一!目が覚めたか~、バットモーニング~!』


風神様は湖方向に風を送って香りを防いでいてくれた。


『なんですか?バットモーニングって‥』


『今日も前途多難な1日だろうから、このご挨拶がいいと思ってな~!』


僕は目をこすりながら起き上がった。

やはり不思議な事に目覚めると身体の疲労感が消えていた。


『風神様、昨日あれだけ大変だったのに、また目覚めたら体力が回復してますね‥』


僕は身体をほぐすようにラジオ体操を始めた。


『おいらも目覚めたら、元気ハツラツよ~!これも修羅界の魔力なんだろうな~』


今日で湖と離れられるだろうか?次はどんな罠があるのか?

目線の先にはまだまだ不気味なピンク色をした湖が遠くまで続いていた。


『さて、風神様!そろそろ北に向かいましょうか?』


準備体操も終わり、また日が暮れる前に少しでも僕達は湖から離れたかった。


『よっしゃ!行くか?淳一!』


僕達は右手に湖を眺めながら歩き出した、まだまだ先は長そうなので僕は昨夜の大暗黒天様の出会いを風神様に話した。


『ほんとかよ!淳一!!天部の者が修羅界に入る事はかなり危険なんだぜ!!それをわざわざ淳一に会いに来たのかよ!』


風神様はのけぞって驚いていた。


『えぇ、ですから気配を消して僕達の足取りを歩いて探していたそうです』



『そこまでなさるとは…で!淳一!……何でおいらも起こしてくれなかったんだ~!!』


『えっ!?…い…いえ…風神様はよく眠ってらっしゃるから起こすと可哀相だと…大暗黒天様が…言われて……はは…』


『そうなの~?うぅっ…何てお優しいんだ~!大暗黒天様は!おいら大暗黒天様に一生付いていくぜぇ~!』


(‥それはかなり迷惑かと‥)


僕は暗闇での大暗黒天様の経緯と更に大暗黒天様の真言を承った事も風神様に話した。


『そいつはスゲーな!‥それにしても、天部は淳一に何をさせたいんだ?‥おいらにはサッパリ解らねー‥‥』


風神様は首を傾げながら考え込んでいた。


朝からずっと歩き通しなのに、まるで湖をぐるぐる回っているようなそんな気分になる程、僕達の右手側から湖は離れていかなかった。

左側には雑草の草原、右側にはどこまで続くか解らないほど広い湖、いつしか風神様との会話も途切れて、遥か北にうっすらと見える須弥山を目指して歩いた。


『淳一~‥また日が暮れてきたな…今日も野宿かよ…真っ暗闇は好きじゃねぇよ~…』


うんざりしながら風神様はぼいやいていた。


『じゃ、僕が大暗黒天様から授かった御真言を風神様にも教えましょうか?』


『いや、それはできねーんだ!天部の者は他の者の真言は使えねーんだ、唱えたとしても何も起こらねー…』


『そ~なんですか……』


『だから、もし夜においらが危険になりそうだったら、淳一はおいらを助けないといけない!迅速かつ丁寧に安全を心がけておいらを助けてくれ!』


『はぁ……』


また次第に辺りが闇に包まれ始めた。


『さて、今日はここまでだな!ほら、淳一!袋~』


風神様は僕に袋を投げ渡した。


『今夜も僕からですか?…』


『あったりめ~よ!おめぇには大暗黒天様の真言があるんだから、しっかり夜営してくれたまえ!じゃ、おやすみ~!』


風神様はその場で寝転がるとすぐにいびきをかいて寝てしまった。


『まったく、しょうがないな…』


僕はまた袋を湖に向け、風を出した。



しばらくすると、また暗闇がやってきた。

普通ならある程度暗闇にいると目が慣れて少しは見えるはずなのに、修羅界の夜は全く違う!

本当に何も見えない。

静粛の湖畔にただ袋から吹き出る風の音と風神様のいびきだけが辺りに響いていた。


(やはりこの雰囲気…不気味だよな…今夜こそ早く風神様と交代して寝たいよ…)


近くに風神様が居るとはいえ、やはり暗闇では孤独感に苛まれていた。



(どうしようか‥大暗黒天様の御真言を唱えるか‥)


真言を唱えれば暗闇からは解放される、孤独感も消えるだろう‥しかし‥これも修行‥すぐに楽な方に逃げたらだめなんだ‥。

僕は目を閉じて耳に神経を集中させた、風神様のいびき‥袋から風が噴き出す音‥僕はさらに向こうへと耳を澄ます。

しばらくすると湖畔から静かに小波の音が聞こえてくる、身体の皮膚から空気の揺れを感じる事が出来る‥。

僕の左後ろで微かに暖かい温もりが左肩から伝わる、


(左後ろ‥あそこに風神様が寝ているのか‥)


まるで灯台の灯りのように左右に首を振りがら、辺りの雰囲気の変化に異常が無いかを警戒した。


(今のところ感じるのは風神様の気配だけ‥よし!もっと暗闇の中で自分を磨こう‥)


まるで瞑想をするように僕は心と呼吸を落ち着かせ、自分自身が暗闇と同化していくイメージを頭の中に描いた。

蜘蛛の巣の中心に居る蜘蛛のように僕は、混迷している暗闇の大気の流れに任せるように神経を張り巡らした。


(!!‥風神様からその更に向こう‥僅かに冷たい大気を感じる‥何だろ?‥)


僕は風神様が放つ暖かい温もりの気を越え、その向こうから霧のように漂ってくる気に集中した。


(何だろ?‥ふわっとした冷気が微かだけど、こっちにやって来ている‥)


ドライアイスから出る白い冷気のような感覚が僕の左半身に触れている。


(この冷たさ‥神様でも人間でも無い!‥鬼‥いや、先日の鬼には僅かだけど良心が残っていた‥だったらこんなに気が冷たいはずは無い‥)


僕はとりあえず風神様を起こす事にした。


『風神様‥風神様‥起きて、風神様』


『う~ん‥ムニャムニャ‥その間抜けな声はアンポンタンの淳ちゃん~?はぁ~出来れば弁天様に起こして欲しいぜ~‥』


どうやら風神様は目覚めてくれたようだ。


『風神様!さっきから風神様の右側から異様な雰囲気がしています!‥風神様も解りますか?‥』


『えっ!?‥どれ?‥』


風神様も気配を探索しているようだ。


『なんか‥鳥肌立つような‥冷てぇ気を感じるぜ‥』


『えぇ‥僕も気になっているんです‥神様でも人間でも鬼でも無い気がします‥』


『♪神様のようで神様でない!べんべん♪人間のようで人間でない!べんべん……って言ってる場合か!淳一、どうすんの?』


どうすんのと言われても相手の正体が解らない以上何も出来ない…僕は気配がしてくる方向に全神経を集中した。


『おい!淳一!早く大暗黒天様の御真言を唱えて正体を暴いてくれ~!ほら、早く~』


『いえ、まだ御真言は唱えません、もっと気が近づいて来ないと‥相手も僕達の存在には気付いてるはずです、それまでは僕が神経を集中して探りますから、風神様も気を高めていて下さい。』


『淳一先生っ!その前においらとのお約束覚えてる?迅速かつ丁寧に安全優先でおいらを守る事~』


『はいはい!覚えてますから、風神様も心構えだけよろしくお願いします!』


『は~~~い』


少しずつドライアイスのような冷気から冷蔵庫を開けた時に感じる冷気くらいに大気が冷えてきた。


『お忙しいのにすみせんが淳一先生っ!なんか冷えてきてませんか~?‥ねぇ?どこに先生いらっしゃいますか~?』


『風神様の近く居ますから、風神様!念の為に伏せておいて下さい!』


僕は湖に風神様の袋を向けながら大暗黒天様の御真言を冷気が一番強い方向へ唱えた。


『オン・マカキャラヤ・ソワカ‥』


次第に僕の目が暗闇に慣れていく、僕の目線にうつ伏せになっている風神様の姿も確認出来た。


『!!!マジ?!』


風神様から20mほど離れた距離に白クマのような大きさの白い狼が僕達に牙を向けていた。

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