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十三番目の神将  作者: 夕風清涼
第一章夢か?
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えっ?神様?

♪ピピピッ♪ピピピッ♪ピピピッ♪


(誰からかな?…わっ!…また…あいつ…)


携帯メールの差出人を見て僕は憂鬱になりながらも、ついつい本文を読んでしまう。


《お前!いつまで学校来てんだよ!うぜ~んだよ!早く辞めろよ!》


僕は〈生駒淳一〉(17)ある私立高校の二年生、今年の春にこの学校に転校してきたけど、転校二日間目にたまたま缶コーヒーを持っていたクラスメートの〈現場健司〉にぶつかってしまい、彼の制服にコーヒーをかけたのが原因で、その日から必要に僕を敵視するかのように嫌がらせをしてくるようになりました。

彼の父親は有名な代議士で、地元でもかなり裕福な家柄であり、この学校にも莫大な援助をしているらしく、そのお陰か誰もその息子には逆らう事が出来ない状況でした。

そんな彼に僕は目を付けられてしまったのです…。

《明日は学校に来んじゃね~ぞ!糞野郎!》


毎日、夜21時くらいからこのようなメールが僕の携帯に届きます、最近は他のクラスメートも彼からの指示なのか、それとも面白がってか僕の携帯にメールを送ってきます。


《ねぇ‥あなたキモいんだけど!あまり女子の近く寄らないでよね!!学校に来ないでよね~》


《お前!飯食ってる時の顔って、まるで山羊だな~(^_^)めぇぇ~》


《クラスメートの為にまた転校して下さい》


僕が一体何したって言うんだよ!!

ただ〈現場健司〉にぶつかっただけじゃないか!

他のみんなには何もしてないじゃないか!

どうして…。

そりゃ、僕はスポーツも苦手だし、最近はクラスのいじめが気になって勉強にも力が入らないから、成績も最悪だし…。


学校行きたくないよ…


そう思っていても時は瞬く間に過ぎて、東の空から太陽が昇り始めます。


『淳一!早くしないと学校遅れるわよ!早く支度しなさい!』


毎朝、目覚まし代わりの母親の怒鳴り声で1日が始まる。


『母さん、今日学校休むわ!なんかダルくて…』


『何言ってんの!学費も高いんだから、さっさと起きて学校に行きなさい!ほら!』


母は布団を捲り、僕をベッドから押し出した。


『さっさと制服に着替えて、ご飯食べて学校に行きなさいよ!』


そう言って部屋を出て行く母親に僕は


(本当は学校でいじめに遭ってるんだ!)


なんて言えず、ただ渋々と着たくもない制服にまた袖を通すのでした。

朝食もパンを一口かじっただけで、僕は家を出た。


(このまま学校行くのやめようかな…)


そう考えていてもズル休みする勇気もなく、足取りが重いまま僕は学校に登校した。

いつものように、僕の下駄箱を開ける


ボタッ、ボタッ…


僕の目の前に生ゴミが落下していく、その光景を見ていた下級生達がクスクスと笑いながら通り過ぎて行った。

僕は慌てて素手でゴミを拾い集めて、ゴミ箱に捨てた、情けなくて目から涙が溢れてくる、何度も手を洗い流してからゴミ臭い上履きを履いて教室に入った。

クラスメートの突き刺すような視線が痛いほど解る…


『くん…くん…おいおい!なんか、くっせ~な!誰だ?ゴミ持ってきた野郎は~!』


椅子に座りながら机に足の乗せていた〈現場健司〉が大声を出した。

クラスメートが一斉に僕を見つめる。


『ゴミは焼却場に行きましょう!…ってね!…はい!そこのちみ!焼却場に行きなさい!ちみだよ!ちみ!』


現場が僕に目線を合わさずに指を差している。


『そうだ!お前1人じゃ寂しいだろ?おい!そこの、がり勉メガネ君!お前も行けや!』


現場の差した指が、クラスメートの〈広山信一〉に向いた、広山は無視してパソコンの雑誌を読んでいた。


『おい!聞いてんのか?糞メガネ!おめぇ~だよ!』


現場が机を立ち、広山の席に近づいていく


『メガネ君…僕ちんの言葉聞こえないのかな?…いくらお勉強が出来ても、世の中の事を知らないと社会では生きていけないんだよ~!』


♪プシュッ♪ジュワジュワ~♪


現場は手にしていたコーラを開けて広山の頭に流した。

クスクスとクラスメートが笑っているが広山は現場を無視しながらポケットからハンカチを出して、顔を拭っていた。


『おい!てめぇ~な~』


現場は怒り出すと何をするか解らない性格なのはクラス全員が知っている!

僕はいきなり広山の手を掴み教室から出た、ただひたすらに走り続けて体育館裏に逃げてきた。


『はぁ、はぁ、はぁ、広山…君…勇気あるね‥』


『はぁ、はぁ、あんな奴らは無視しとけばいい…はぁ、はぁ』


少し息を整えて僕は広山に質問した。


『毎日こんなので、君は嫌にならないのか?』


広山は汗で濡れたメガネを拭きながら無表情で答える


『こんな事が永遠に続くわけでなし、後一年でここともお別れなんだから、それまでの我慢だよ!僕には将来の夢もあるしね!』


夢…そういえば、僕にはそんなの無い…やりたい事や将来の希望なんて、考えてもなかった。


『生駒も何か夢を持ったら、いいんじゃない?…そしたら、あんな奴の事も気にしなくなる…』


そう言い残して広山は教室に帰って行った。


(広山は強いな…僕なんか…教室にも戻れない…)


僕は夢無い奴は弱い奴で夢のある奴は強い奴だと思い込んでしまい、益々何も出来ない自分を恨めしく思っていた。

寂しい体育館裏で僕は1人で考え込んでいたけど、気持ちが明るくなるどころか余計に暗い事を考えている自分が居た。

しばらくして担任の先生が僕を見つけ、そのまま教室に連れ戻された。僕が教室に入ると、黒板には来週行われる体育祭の各種目の出場者が書かれていた。


(どうして僕と広山が100m走に?)


僕は驚いて先生に


『僕が…100m走…なんで…?』


『現場から聞いたぞ!お前と広山は体育祭に出たくないそうだな?だからさっきまで逃げていたんだろ?これはその罰だ!』


『そ…そんな…せ…』


いきなり現場が席を立ち先生に発言した


『先生!生駒と広山はクラスでも目立ちませんが、実は走りはめちゃくちゃ早いんですよ!期待して下さい!』


『そうか!現場が推薦するなら間違いないな!よし、これで決まりだ!』


♪パチパチパチパチ♪


現場を筆頭にクラス中に響き渡る拍手が僕の心臓に突き刺さる。

僕が席に着くと現場が僕に耳打ちしてきた。


『頑張れよ!ドン亀!』



僕は何も言えずにうつむいていた。


『おい!現場!お前いい加減にしろよ!』


現場の机に1人の男子生徒が立ちふさがった。


『何だ!加藤か!おめぇ今日は生活費稼ぐ為のバイトじゃねぇのかよ?』


〈加藤英太〉なぜか現場が僕にからんでくると助けてくれる 、両親を原因不明の交通事故で亡くしていて妹と2人暮らしらしく、生活費を稼ぐ為によく学校を休んでいるのに、現場の標的にならないのが不思議だった。


『ちっ!正義の味方気取ってんじゃねぇよ!』


現場は椅子を蹴飛ばして教室から出て行った。


しょぼくれている僕に加藤は声をかけてきた


『生駒、いつまでもウジウジすんなよ!じゃな!』


『ありがとう‥加藤‥』


僕は恥ずかしくて加藤の顔も見れなかった。


『生駒君!お礼言うなら、相手の顔を見ながら言うものよ!』


隣りの席の〈水川瞳〉が話しかけきた、クラスの女子はほとんど僕を無視するけど加藤と彼女は違っていた、水川はバスケット部で髪が長くいつもポニーテールにしていて男子からも人気があり、その中には僕もいた。


『う…うん…』


水川に話しかけられると僕の顔が熱くなっていく…


『ほら、しっかりお礼言って!ねっ!』


僕は顔を上げた


『あ…ありがとう!加藤!』


『おう!』


Vサインを出して加藤は教室から出て行った。


『生駒君、やれば出来るじゃない!…』


水川は優しく僕を見て笑った。


(どうして僕はいつもダメなんだ!まるで何も出来ない赤ちゃんと同じだ!)


いたたまれなくなり、僕はカバンを手に取り教室を飛び出した。

走って、走って、心臓が破裂してほしいほど走った!自分の中の水分が全て涙になっているくらいに、目から流れている。


(もう、こんな人生…いいや…)


僕は高架橋の上から下を走っている列車を見つめていた、高架橋にはこの時期としては珍しく強い風が吹いていた。


(僕は広山や加藤のように強くないから、生きていても意味がない…好きな女の子にも子供扱いされるなんて、最低だ…)


僕はカバンからレポート用紙を出して、震える手で遺書を書いた、でもなぜか現場の名前が書けなくて、ただ、ただ謝罪文のような文章だった。

遺書を書き終え、高架橋から景色を眺める、線路の先には綺麗な夕日が輝いていた。


(お母さん、お父さん…親不孝で、ごめん)


僕は目を瞑り、手すりを跨ぎながら下の線路へと体重をかけた、ふわっとした感覚が僕を刺激した。


(終わりだ…もう)


ビューーー!


バン!!


落ちた瞬間、強い風と共に何かにぶつかった気がした!


……………。


………。


…。


『うっ~…』


気が付くと僕は線路脇の草むらで寝ていた。


(僕…死んだよね…)


僕は草むらから高架橋を見上げた。


(やはり落ちた…死んだんだ…)


僕は呆然と高架橋を眺めていると横から声がした。


『いたたた…誰だ!オイラにぶつかった、スットコドッコイは!!』


僕は声する方に顔を向けた。


(!!!!)


そこには全身緑色で頭に角が生え、大きな白い袋を持った化け物が背中をさすり座っていた。


『わっ!妖怪!!』


僕は初めて見た化け物に冷や汗が吹き出した。


『やっぱり自殺したから、地獄に来たんだ~!!』


僕はパニクっていた。


『おいおい!誰が妖怪だって?えぇ!おめぇたいがいにしろい!おいら、これでも神様だぜぃ!』


『えっ!?神様‥』


『おうよ!こちとら仕事で、強い風吹かして汚い空気を追い出そうとして飛んでたらよ、おめぇが俺の背中に落ちてきて、墜落しちまったのよ!』


『はぁ‥すみませんでした‥』


『おうよ!ってか、何でおめぇさん俺の姿が見えるんで?それに会話してるし‥』


『さぁ‥僕にも解りません‥』


『おめぇさん、あの橋から飛び込んだんだろ?で、俺とぶつかった時に俺の神通力がおめぇさんの身体に入ったのかも知れねえな‥』


『はぁ‥‥』


緑色の化け物は腕を組み僕を見つめて更にこう言った。


『おめぇさんよ、何で自殺しようとしたんだい?人間界では自殺って、自分が楽になると思ってるらしいが、そうでもないぜ!俺神様だから解るのよ!自殺したヤツら苦労してるぜ!』


『そうですか‥あの‥あなた‥本当に神様?』


『よくぞ聞いてくれたぜ!っていうか、遅ぇよ!俺は風神様!で相方は雷神様よ!』


『あっ!知ってます!屏風の絵で見た事あります!』


『あ~‥なんたら美術館にある絵か~‥あれは失敗作だぜ!現物のほうがもっといい男だぜ!わかるだろ?』


『まぁ‥はい‥』


『で、話し戻すけどよ!何で死のうとしたんでぃ?』


僕はさすがに怖くて神様には嘘はつけなく洗いざらい風神様に話しをしました。


『そうかい…最近の人間界は‥悲しいねぇ~‥こんなに神様の俺達頑張ってるのに‥どうりで閻魔様も忙しいわけだ‥』


溜め息混じりに頷く風神様。


『‥で、どうせ体育祭のリレーの時にみんなで僕を笑い物にしたいみたいです‥はは‥何だか風神様に話したら気分が楽になりました‥さっ、あの世に連れて行って下さい!』


『おいおい!俺は死に神じゃないぜ!それにおめぇさん生きてるんだからよ!』


『えっ!?』


僕はほっぺをつねった!ギュッと痛みが感じられた。



『なっ!生きてるだろ?…ふぅ…しょうがねぇ…俺とぶつかったのも何かの縁だ!ちょいと待ってな!』


『えっ!?どうしたんですか?』


『いいからここで待ってやがれ!要はてめぇが体育祭やらで恥かかなきゃいいんだろ!』


そう言うと風神様は一瞬で目の前から消えた…。


(夢…それとも、頭を強く打った?)


それから何分経ったのか解らず、僕は草むらに座り込んだままだった。


ビューーー!


いきなり強い風が僕をかすめた。

風の中から風神様が現れた、かなり急いでいたのか風神様の息が荒々しかった。


『ふぅ~…まいっちまったぜ‥上司と会うのは緊張しちまうからよ~…』


『はぁ…』


『はぁ…じゃねぇよ!こちとら、おめぇさんの為に天部まで行ってきたのによ!』


『天部…ですか…?』


『おうよ!天部は俺達よりもすげぇ神様がいらっしゃる、いわば俺達の上司みたいなもんよ!』


『へぇ~…』


『おい!もっと驚いてもいいところ!』


『すみません…』


『でだ、俺様は哀れなおめぇさんに慈悲深く上司の韋駄天様に頼み込んで、お力添えをしていただいたのだよ!!』


『はい‥』


『そこは熱烈に感動していいところだぞ!!』


『すみません…』


『ったく!ほら、おめぇさんのデコ見せな!』


僕は前髪を上げておデコを風神様に見せました。

風神様はおデコに手をやり、


『いいか!今から俺が言う真言を覚えさせてやる、必ずリレー前に唱えるんだぜ!解ったか?』


『はい!』


『オン イダテイタ モコテイタ ソワカ』

僕の頭に自然とその言葉が記憶された。


風神様は僕のおデコから手を離し、


『これで心配いらねぇ!おめぇさん、体育祭では大活躍だぜ!』


『はい‥ありがとうございます‥』


『あのよ!ここは感激の涙を流すのが普通だぜ!あの韋駄天様の神通力を頂いたんだからよ!』


『はい‥すみません』


『もういい‥俺の役目は終わった‥本業に戻る‥体育祭頑張んな!それから、二度と馬鹿な事すんじゃねぇぞ!じゃな!』



突風のような風が草を揺らし、またしても一瞬で風神様は消えた‥。

まるで夢遊病のように僕は高架橋を見上げると、そこには大勢の人集りと警察官がいて、僕はパトカーに乗せられた。

警察署でこってり絞られ、さらに両親も呼び出されたけども、自殺志願理由と遺書も見つかっていたので二度とこんな事はしないと誓約させられてから両親と深夜に帰宅した。

帰宅後、両親は僕に転校を薦めたけどもなぜか風神様の事が頭から離れず、とりあえずはもう少し頑張ってみると僕は両親に告げた。

あの風神様との出逢いは夢だったのか‥単なる僕の妄想だったのか‥それとも‥いずれにせよ体育祭で答えは出る。

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