第二話 三種の宝具
「して、つまるところこういうことだな、お前がここに来たのは、お前の力を奪ったやつがこの周辺に潜伏しているから。そして俺のところに来たのはなんとなく、そしてさらにお前の力を取り戻すのは俺の役目と」
「そうじゃ! よくわかっておるじゃないか」
「って、なんで俺がやらんといけんのだ!」
アイムがここに来たのは先ほどもいったとおり自身の力が奪われてしまったからだそうだ。よくある話で自分の出した魔法は自分には効かないというルールがあるらしくアイムの力をもった相手にはアイムの攻撃は効かないらしい。だから自分ではない誰か、つまるところ俺のところにきたわけだ。別に人は選んだわけではないらしい。もともと違う世界・・・・・・人外界という人でないものの生きる世界から来たときに、たまたま落ちた場所が俺の家だったから俺を選んだらしい。正直、迷惑千万だ。
「つかよ、俺はさっきお前の力をみたから言うが、お前の力を持った相手に俺が敵うはずねえだろ。俺なんかがしゃしゃりでても瞬殺されてお終いだ。絶対いやだかんな」
「ふむ、確かにお主の言うとおりじゃ。まぁ本当にいやというのなら別に我はいいのじゃ。他の者に厄介になりにいくからの。でものう、そうするとお主、死ぬことになるぞ?」
「は?」
俺は思わず口をぽかんとあけてしまう。アイムはそんな俺を見ながらニヤリと顔を歪ませる。俺にとってそれは悪魔のように見えてしまった。まぁ実際は悪魔なのだが。
「つまりのう、我がここに来たことはすでに敵方には知れているのじゃ。我が敵方の同行を知れるのは我の力をもっているから。それはつまり逆もまた然りということじゃ。そしてさらにいうなれば、ここが攻められたとき我がいなければお主が我の居所を問われるじゃろう。それに答えられなかったお主は、無駄足を踏まされた腹いせに殺されるのじゃ。どうじゃ!」
アイムはふふんと鼻息を漏らし高らかに宣言した。
「因みにお前の力を奪ったやつとの平和的解決は」
「無理じゃ」
「俺が助かるには?」
「戦うのじゃ」
「・・・・・・」
「ふむ、納得したかの?」
「まぁまず言わせてくれ・・・・・・納得できるはずがないッ! しかし、今はそんなこといってる場合じゃないってことくらいわかった」
「うむそのとおりなのじゃ」
「でもよ、思ったんだが別に人間じゃなくて同じ悪魔の仲間とかに手伝ってもらえばいいんじゃないのか?」
「・・・・・・・・・・・・」
アイムは沈黙を貫いている。
「お前、友達とかいねえのか?」
「ぅぬ~、っべ、別に友達がいないわけじゃないのじゃ。ただのうプライドが・・・・・・っそう! プライドの問題なのじゃ。我みたいな高貴な存在が力を奪われたなんて知られるわけにはいかぬからの! だから秘密裏に人間に頼ることにしたのじゃ。本当だからの。ウソは言っておらんのじゃ! 何故そんな細い目で我を見るのじゃ? 信じておらんな、おらんのだな!」
あぁ、きっとアイムのやつ友達いねえんだ。まぁなんとなく分かる気はする。まだ少ししか話していないが、こいつは如何せん我が強い性格をしている。きっと周りの奴は気にくわないのかもしれない。俺から見ればいい迷惑な存在だが、アイムのキューティーさにすでにやられているため、この性格もかわいく見える。
「いやわかった、信じるから話を進めよう。俺は周りくどい事が嫌いでな、本題に入りたいと思う。さて、お前の力を奪った奴を仮に怪人Aとする。こいつと戦うにあたってなにか策みたいなのはあるのか? 俺はただの人間だからまともにやっても勝ち目はないと思うんだが」
アイムは軽くうなずき、何か呪文らしきものを唱えた。するとアイムの両手からまばゆい光が放たれる。その光が収まると両手の上にはアイムと同じくらいの宝箱がでてくる。それを床に置きふたを開くと中には3つのアクセサリーが入っていた。
「ふむ、これが策というか、人間専用の対人外戦闘用宝具じゃな」
「なんだこれ、指輪に腕輪にネックレス? つか、対人外戦闘用宝具って・・・・・・」
「ではまずアイテムの説明をしてやるからの心して聞くのじゃ。これは大昔に作られたものでな、現代においてはほとんどないがの、古文書などにはよく悪魔やら鬼やら妖怪やらと人間の話が書かれておるじゃろ? あれは真偽りなき話なのじゃ。現にこうして人間、つまりお主の前に我がおるからこれは信じられるな?」
「あぁ」
「してな、やはり言い伝えどおり人外は人間を襲っていたのじゃ。やがてそれに対抗できる人間が現れた。日本で言えば陰陽師、外国で言えばエクソシストなどのことじゃな。そしてこの三つの宝具はこやつらが作った戦力強化アイテムってところじゃ。どうじゃ? わかりやすかったじゃろう」
アイムは自信満々に俺をみた。確かに、確かに分かりやすかったが。
「何故それをお前がもっている?」
「ひゅ~ぷひゅ~」
「おぃ、俺から目をそらして吹けもしない口笛をふくな」
「なら! お主に問おう」
「なんだよ」
「それは今重要なことかの!」
「いやそうでもねぇけどさ」
「なら聞くな!」
確かにあんさんの言うとおりですがね、少し理不尽ではないかい。
「っで、これにはどんな効果があるわけ?」
「そうじゃの、まずこのネックレスじゃがの、これはつけているだけで、所有者の潜在能力が開花するのじゃ。ただ難点は所有者の潜在能力がなんだったのかわからないところじゃの」
「あんまし意味ねぇな! ってかそんなん、対人外なんちゃらでも何でもねぇじゃんか!つかどうやってそんなもん作ったんだ昔の人間は」
「知らん」
俺の渾身の疑問を一言で片付けるとアイムは指輪の説明にはいった。
「これが重要じゃな。これはのう、所有者の肉体を人外レベルまでに引き上げるのじゃ。人間の体なんて脆いからのう。悪魔にひと撫でされればたちまちにただの肉片になってしまうのじゃ」
「・・・・・・」
「で最後に腕輪じゃ。これは外部から与えられた力を所有者に供給するものじゃ。たとえば我の力を与えたとすれば、その力はお主自信の力に変わる。」
「っあ、でもお前の力は怪人Aには効かないんじゃないのか?」
アイムはやれやれといった感じで頭を振りかぶる。
「ちゃんと言ったじゃろう? お主自信の力になると。つまりの、我の力として与えたものだとしてもその腕輪が強制的にお主の力に変換させてしまうのじゃ。色で説明するとじゃな、我の力が黒、お主が白だとしよう。このとき我の力はその腕輪を通してお主に蓄えられる。がこの腕輪を通ることで黒の力がお主の色つまり白に変わるわけじゃ、当然、黒と白は別物となるわけじゃ」
「なるほど、つまりお前の魔力は俺のも。俺のものも俺のもの。ってことだな」
「なんか言い方が気に食わんがそういうことになるかの」
アイムが一通り説明し終わり一息を付いた。大体は理解できたつもりだ。俺がこいつの面倒ごとに巻き込まれるのはゴメンだが、もうすでに巻き込まれてしまった以上俺に逃げ道はない。ただ本当に俺にできるのか? アイムの力は見た。力を奪われて弱っているあいつでさえあの威力。そう考えるとアイムの力を持った悪魔と戦うのは正直無理なんじゃないか?
「お主、なんて顔しておるのじゃまったく。安心せい、お主に戦ってもらうことにはなるがの、いざとなったら我が身を挺して守ってやるのじゃ」
「んなこといっても、あの威力だろ? お前ともども俺も死ぬ気がするけど」
俺がそういうとアイムはあきれた表情になる。
「バカをいえ、我の力を我以外が使いこなせるはずなかろうに。忘れたのか? 我はソロモン七十二柱の一人なのじゃぞ。それこそ我と同程度の力を持つやつじゃなきゃ意味がない」
それは確かにアイムの言うとおりかもしれないが、それだったらアイムの力を奪うことに意味はない。
「腑に落ちないって顔をしておるの。まぁこれは予測に過ぎないんじゃが、我の力が弱まることで得をするものがいるんじゃと思う。おそらくは我の柱を狙っているんだと思うのじゃ」
「なんでまたお前のなんだ?」
「本来、柱たちは自分の席を守るために常に警戒を怠らないんじゃがの、我はいかんせん柱にたいしてさほど執着心がなくてな。油断してほんの十年ばかり眠ってしまったらその隙にやられてしまったのじゃな」
十年って眠りすぎじゃないのか、でも眠っている間に殺ることができずに力を奪って終わりというのはきっとアイムの力がそれほどまでにそんじょそこらの悪魔とは桁が違うってことなのだろう。
「まぁなんにせよ我がついておる心配するな」
そういうアイムの笑顔は根拠のない言葉を吐いたがそれは何故か信じられるようなきがした。
「さての、さっきからドアのほうから人の気配がするのじゃが」
アイムの言葉が気になり俺がドアの方を見ると、じゃっかんだが扉が開いていた。そしてその隙間からは二つの目が見える。その目はじっとこちらをうかがっている様子。俺が見ていることに気が付いたのかゆっくりとドアが開かれる。そこから顔をのぞかせた母さんの目は慈愛に満ちていた。
「あの、なんすかその目は」
慈愛あふれた目にちょっとした怖気を感じながら尋ねると母さんは目を少し潤ませた。
「私は決して変だなんて思わない。私の可愛い可愛い息子が可愛らしいお人形さん相手に一生懸命お話したり、突っ込みしたりしているところをみても私は決して・・・・・・だめ、やっぱり変だわ」
母さんは何かを誤解していたようだ。アイムは人形なんかではないし俺と対等に話しをしていた。
「母さんが誤解してる、話してやれ」
俺がそういうと母さんはついに目に涙をうかべてしまった。アイムはというと何故かぐったりしていてうごかない。
「やめて! 浩介。そんな悲しいことお母さんの前でしないで! いくらお話ができる女の子がいないからってお人形さんに・・・・・・」
「っな! ちょ、アイムマジでふざけてる場合じゃないって、母さんが誤解しまくってる」
しかしアイムは動かない。これはいったいどういうことだ。
「まぁ、お人形さんに名前までつけて」
「あ、ぃや」
「ごめんね」
「え、いやなんで母さんが謝るの」
母さんがすごく悲しい顔で俺を見てきた。もしここで母さんが俺を変な目で見てきたなら俺もあきらめがついたかもしれない。しかし母さんの目は、まるで自分の育て方がいけなかったと言わんばかりな目をしていた。それは母さんが自分自身をせめているときの目だった。
母さんは昔からかなりマイナス思考の面があった。簡単な失敗などもかなり引きずるし、俺が反抗したりするとすぐに悲しそうにする。そのため一瞬で反抗する気が起きなくなる。だからなのか俺には反抗期というものがなかったかのように思われる。
そんな母さんだが、普段は優しいし美人だし気立てもいい。しかし今回はそんな母さんのいい面、悪い面があわさり余計な自体を引き起こしてしまった。
「いいの、お母さんが悪いの。浩介が女の子とお話できないからってお人形さんにお話するようになるくらい悩んでたなんて気づかなくて。私、お母さん失格ね」
「あ、だから」
「でもお母さん決めたわ、お母さんはまだ浩介のお母さんでいたい、でもこんな浩介は見てられない。だから、お母さんが浩介に、とっても綺麗な女の人を紹介してあげる」
「は?」
それだけ言い残すと母さんは俺の部屋からでていった。久しぶりにみた母さんの気合の入った表情に俺は思わずげんなりしてしまった。
それにしてもどういうことなんだ? 俺とアイムはお互いに会話をしていたはず。なのに母さんにはアイムの声は聞こえていない。
「おいアイム」
俺は端的アイムを呼ぶとムクリと起き上がる。そして俺の顔を見るとくすくすと笑い出した。
「てめ! さっきはなんで無視しやがったてかなんで!」
俺がそう叫ぶと扉が突然開き母が入ってきた。
「あと少し、もう少しだけまってね、一緒にがんばりましょう?」
そういってまた出て行った。
もはや俺はアイムに怒る気すら失われた。またここで怒鳴っても母さんが心配するだけだ。ここは少し俺が大人になって我慢すればいい。
「でだ、なんで母さんにはお前の声が聞こえてなかったんだ?」
途中で母さんが入ってきたため再度ぐったりしていたアイムはまたムクリと起き上がった。
「それはの、必要以上に我ら、つまり人外のことを人間にしられないためにじゃ。人間は人外というものを理解はしておるかもしれないが。信じてはおらんじゃろ? だったらそのままのほうが何かと都合がいいんじゃ」
「どうしてその方が都合がいいのさ」
「実はの、この人間界には人間にまじって人外が生活しているのじゃ。それを人々に知られれば、我らのようなものが受け入れられるわけがないのじゃ。お主みたいな奴は別として、大半の人々は我らに恐怖してしまうからの」
そういうとアイムの表情には影が落ちた。
アイムの言うことに別段驚きはしなかった。それはアニメや小説でもよくあるような話だったからだ。ただ実際にそういうことがあるんだなという感慨にはふけっていたが。
「まぁアイムみたいな人外だったら怖くねぇけど、物語で出てくるような悪魔とかいたら怖いよ」
「そうなのじゃ、大半の人間は後者を想像してしまう。人外にいいもなにもない。ただ人間を脅かす存在なのだと勝手に認識してしまう。だから余計な混乱を惹き起こさにためにも我の存在は公にしないほうがいいのじゃ」
「なるほどな、いろいろ考えてんだな」
アイムはあたりまえなのじゃ、と言いながら俺のベットにもぐりこんだ。
「今日はもう遅いのじゃ我は眠い」
するとすぐにちいさな寝息が聞こえてきた。寝ているアイムの表情は穏やかで本当に悪魔なのか?って考えさせられるくらい綺麗だった。俺にとって悪魔やらなんやらってのは、人間にとってよくない存在なのかと思っていた。が、アイムを見ていたら全然そんなことないように思えた・・・・・・
「いやまて、俺はさっきから悪いことずくしじゃねえか」
前言撤回。まぁそれでもアイム自身はいい奴に思える。今日は色々あったが明日からはもっと大変なことになりそうだ。
それでもこれから始まる少し、いや大分変るであろう生活はとても魅力的だった。
俺の人生に沢山の色彩を加えるアイムとの生活はここから始まったのであった。
「にしても、この寝顔は反則だよなぁ・・・・・・ぁ、俺ロリコンなのか? 認めんぞ決して」
小さいものは皆かわいいきっとそういうことだ。そう思いながら俺はアイムの隣で寝むりについた。