共通の趣味
ランチタイム、放送部がいつも通りに曲を流してくる。
市原は母親の手作り弁当を食べながら、耳を澄ましていると、聞いたことのある曲が流れてくる。
「んー!!」
机を合わせた友達に、スピーカーを指すと、友達は訝しそうな顔をする。
「ちゃんと物を食べてから、話せ」
こくこくとうなずき、咀嚼すると、市原は興奮したように言う。
「この曲!! 俺の好きな曲なんだよ!!」
「え…。そうなのか?」
「歌詞が綺麗なんだよ!! あー、ありがとう、放送部!!」
手を合わせながら礼を言い、続きを聴く。
4人組のバンドで、歌番組には滅多に出てこないのだが、人気のある4人だった。
「CMの曲になったんだけど、知らない?」
「CMの曲…? …うーん、俺、詳しくないからな」
「あっそ。くそー、有名なのに」
机に爪を立てると、市原は一緒にリズムをとっていく。
キラキラ光った宝石を散りばめたような曲。
音自体が星と星と星がぶつかったような、軽くて美しい音をしており、心が静かになっていく。
「あ。ここまでくれば、聞いたことがあるわ」
サビの部分になり、友達が言うと、市原は身を乗り出す。
「そうだろう、そうだろう。有名だもん。あとでYOUTUBEを見ろ」
「分かった、分かった。とりあえず飯を食え」
宝石の雨が降ったかのような、そんな続きを聴きながら、ボーカルの声にうっとりする。
彼の声が高くもなく、低くもなく、まるで子守唄を歌うような、優しくて澄んだ声。
毎日、毎日、家で聴いているので、市原はリラックスしていく。
「…あ、終わった」
曲が変わり、違うバンドの曲になった。
残念に思っていると、教室の別の場所から声が上がる。
「あーもう!! 終わっちゃったじゃない!!」
同じクラスの山内だった。
ショートカットなのだが、明るくてさっぱりしているので、男子に人気があった。
市原も実は狙っており、今が声をかけるタイミングだと近寄る。
「お前も、さっきのバンドのファンなのか?」
「そうよ。それがどうかした?」
「俺もなんだよ!! だから違う曲に変わったのが悔しくて!!」
「悔しいわよね、うん」
2人でうなずくと、スマホを差し出す。
「お前、どの曲が好きなんだ?」
「あたしは…そうね、これかな」
「それか。それも良い曲だよな。胸に言葉が突き刺さるというか。…俺はな、これかな」
一曲選んで指差すと、山内は「きゃー」と悲鳴を上げる。
それは否定のものではなく、肯定からくるものだった。
「LIVE、行ったことがある?」
「ない。行きたいけど、一緒に行ってくれる人がいないし」
「あたしと一緒に行かない? 申し込んでおくから」
「まじで!? いいの!?」
「いいわよ!! あんたもバンドのファンと分かれば、味方だもん」
山内は胸を叩くと、堂々と言ってきた。
市原は「わあ」と興奮し、山内に言う。
「LIVE、行けるといいな。抽選なんだろう?」
「そうみたいね。絶対、当選してやる」
「そのいきだ。頼んだぞ」
2人で笑い合うと、ハイタッチする。
周りの皆は、何2人で話しているんだと注目されたが、山内とならいいかと無視する。
「誰のファン?」
「えっとね、この人」
「そうか。人気あるもんな。俺は…この人」
「え? そうなの? 意外」
ずっと2人で話していたかったが、それぞれの友達が名前を呼んでくる。
「ちょっと待って。ねえ、連絡先を教えてよ」
「え…。い、いいけど…。お前のも教えろよ」
「うん、もちろん!! 仲間だもん」
「仲間…」
その言葉にじんとし、市原は嬉しくなってくる。
近くに同じものを共有できる人間がいると思うだけで、強くなれる気がした。
2人はスマホを操作し、互いに連絡先を交換し合う。
「…、よし。じゃあ頼んだぞ。また話そうな」
「うん!! いっぱい喋ろうね」
手を振られ、小さく手を振り返す。
それから自分の席に戻り、箸を持つ。
「おい、市原。何、山内と話していたんだよ?」
「教えなーい。ふふ、楽しみだな」
満足そうに呟くと、卵焼きを口にしたのだった。




