君と2人だけの星(本編)
俺の名前は香村康二。47歳。俺は、天才科学者と言われていた。主に惑星の研究をしていて、ロケット開発にも携わってきた。が、2年前に退職した。経済的自立と早期リタイア、いわゆるFIREというやつだ。今は無職だが、俺には最愛の恋人がいる。彼女の名前はリリカ。彼女は異邦人で、この世界ではありえないくらいの美貌を持っている。彼女は、強く賢い女性だった。しかし、ある日突然声が出なくなってしまった。それに、身体が思うように動かなくて、俺がなんでもやってあげないといけない。そう、俺が彼女を守ってあげないと、彼女は俺しかいないんだ。
彼女との出会いはどこだったか....。だが、俺の一目惚れだったことは覚ている。こんなにも美しい女性がいるのかと感動した。段々と、彼女からの熱い視線を感じるようになり、両思いだと確信した俺は、思い切って交際を申し込んだ。今では順風満帆なラブラブカップルだ。
街を歩けばみんながリリカを見る。そりゃそうだ。こんな絶世の美人、見てしまうのも無理はない。だが、リリカは俺のだ。誰にも渡さん。あぁ、リリカ。今日も美しいよ。声が出なくたって、俺たちは通じあっている。君が居てくれるだけで俺は毎日幸せだ。
ある日、リリカが悲しそうな顔をしていた。声は出ないが俺にはわかる。
「どうしたんだい?リリカ。嫌なことでもあったのかい?」
『.......』
これはなにか嫌なことがあったみたいだ。だれだ、リリカを悲しませるやつは。いや、まずはリリカを元気づけることが先だ。
「リリカ、これ、いつもの。」
"魔法の水"。これを飲めばどんな薬よりも元気になれるのだ。俺は毎日、水分補給はこれを飲んでいる。"魔法の水"とリリカのお陰で、俺は元気で毎日が幸せだ。リリカ....どうして君は声が出せなくなってしまったんだい?昔は女神のような美声を持っていたじゃないか.....。こういう時は調べてしまおう。Googleで.....《急に声が出ない 身体が動かない 原因》検索っと。ストレスによる失声症......?鬱によるもの.....?そうか....!!リリカ、なにか辛いことがあったんだな....!?クソ、俺はなんで早く気づいてやれなかったんだ.....!!!
リリカのストレスの原因.....なんだ?何不自由なくさせてやってるつもりだが....。何が足りない.....何が.........。
(テレビから女優の話し声が聞こえる)
「────私のストレス発散方法は、地元に帰ることですかね。地元が恋しくなっちゃう時もあるんですよ。だから、地元に帰って、友達と遊んだり、家族と会ったりすると、気分が軽くなるんです。」
.....地元。そうだ、リリカは異邦人。地元が恋しいんだ。この国の生きづらさがストレスで声が出なくなってしまったんだ。
「リリカ!リリカの故郷に帰ろう!リリカの鬱や失声症が治るかもしれない!!よし、決まれば早速準備だ!!んー、でも、飛行機とかは無理だった、どうしよう。あ、そうだ!俺が作ればいいんだ。俺はロケット開発に携わってきた。これくらいひとりでできる。」
俺は、棚にあった参考書を片っ端から引っ張り出した。研究者時代の血が騒ぐ。ノートにガリガリと設計図を書き始める。リリカ、俺と逃げ出そう、こんな世界から。俺は君の手を離さないよ。
そこから俺は、リリカとの逃亡計画の準備に明け暮れた。今日は、リリカを車椅子に乗せ、ホームセンターで買い物をしにきた。蝉の声がうるさい真夏日だった。
「えーっと、鉄アレイと、ドライバーと、ネジと.....」
「香村さん....?」
後ろから声をかけられた。振り返ると、元職場の部下、杢野がいた。
「杢野、久しぶりだな」
「香村さん、と、、、?」
「彼女のリリカだ。すまない、彼女は病気で声が出せないんだ。」
「あ、そ、そうなんですね、は、初めまして、杢野です.....。あ、香村さん、まだそれ、やめれてなかったんですね、」
「ん?あぁ、"魔法の水"か。やめれるわけないだろ。俺の生きる源だ。俺はこれのお陰で全てが上手く言っている。リリカとも付き合えたしな。」
「そ、そうですか.....。僕、これから用事があるので....失礼します。」
「おぉ、またな」
杢野は足早に去っていった。
「香村さん、まだやめれてなかったんだ、アレ。それに、リリカさんって.....。」
「杢野といい、元職場の奴らは"魔法の水"にやたら突っかかってくるな.....。コレがどんなすごい飲み物か知らないくせに......。」
俺はカバンから"魔法の水"を取り出し、勢いよく飲んだ。そうそう、この感じ、やっぱこれがないと生きていけない。
「リリカ、暑くないかい?そこの日陰で少し休んでいこう。」
公園にある木陰のベンチに腰掛けた。車椅子に座るリリカの顔に木漏れ日が注ぐ。あぁ、なんて美しいんだろう。靡くオレンジレッドの髪、琥珀色の瞳、スッと通った鼻筋、シュッとしたフェイスライン。全てが完成された美しい造形物のようだった。
「あ!ママ!!リリカちゃんだよ!!!」
「こうき!あんま見ちゃダメ!!」
は?俺のリリカを指差して名前を呼びやがったな?見ちゃダメって.....、まるで可笑しなものを見るように言いやがって.......。許さねぇ....。
気づいた時には、ガキの胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「やめてください!離して!!!!」
「ママー!!!!」
子供が泣き叫ぶ。母親が許しを請う。はは、リリカ、俺はリリカのために戦うよ。あぁ、リリカが嬉しそうに俺を見つめてくれている。俺は君のためならなんでもするさ。
「そこのお前!!何をしている!!!!!」
あぁ?警察?俺がリリカを守ってるんだから邪魔するなよ。
なぜか俺は警察に厳重注意を受けた。あのガキが俺のリリカを見てきただけなのに。まるで俺が悪いみたいな。はは、やっぱこの世界はクソだ。リリカがこうなってしまったのも無理ない。リリカ、早く行こう。"君と2人だけの星"に。
俺は毎日コツコツと逃亡計画の準備を進めた。"魔法の水"を買いに行く以外は外に出なかった。俺は天才科学者だ。こんなの簡単だ。あぁ、参考書に描かれたリリカも美しいよ。
────そして3ヶ月が経った。ついに完成した。完璧だ。俺ら2人だけのロケット。今日の11時。飛び立とう、こんなクソッタレな世界から。今日は火曜日。可燃ごみの日だから、不要なものは捨ててしまおう。
「リリカ、今日はいよいよこの世界から飛び立つ日だよ。俺が作ったロケット。君が来た時に乗っていたロケットにそっくりだろ?参考書を何回も読んで完成させたんだ。乗る前にね、これを君に書いて欲しい。」
俺は、リリカの前に婚姻届を差し出した。2人の永遠の愛を誓うチケット。
「さ、ここに名前を書いてくれ。俺はもう書いたから。...........やっぱ、身体が思うように動かないか?じゃあ、俺と一緒に書こう」
俺はリリカの後ろに行き、ペンを持つリリカの手に自分の手を重ねた。そして一緒に文字を書く。ゆっくり、少し歪だが、2人での共同作業に胸が熱くなる。これで俺たちは夫婦だ。
"リリカ・マーズ・アレス"
「書けた.....!リリカ、愛してるよ....!!!」
俺たちはキスをした。それは熱く、深いキス。
「リリカ、幸せそうな顔してる。」
『──────愛してる』
「え、リリカ、今愛してるって.....!リリカ!リリカ!!俺も愛してる!!!」
リリカの声が確かに聞こえた。俺はリリカを思いっきり抱きしめた。リリカ、早く2人だけの星に行こう。
市役所に婚姻届を出しに行った。受付のやつ、驚いた顔してた。まぁ、無理もないだろう。だって、純白のドレスを来た、美しいリリアがいるんだから。美しさのあまり慄いてしまったんだろう、あぁ、リリア、美しいよ。
俺はこの日のために借りたレンタカーに、ロケットとリリアを乗せた。海沿いを走らせた。
そして、誰も来ない、穴場の海岸に来た。ここで打ち上げよう。
ロケットのセットはバッチリだ。あとは燃料の"魔法の水"を入れた。ロケットは何で走るか知らないが、"魔法の水"ならロケットも動くだろう。よし、リリカも乗せた。長く伸ばした導火線に火をつけて、俺もロケットに乗り込む。
「リリカ、ようやく君の故郷に行けるよ。君の声をまた聞きたいよ。2人で愛し合いたい。2人で幸せな生活を送ろう。2人だけの星で。」
『........』
「俺には伝わってるよ、リリカ。飛び立つ前にキスしよう。」
もう一度キスをした。唇が離れてもなお、額を離さず、俺らは見つめあった。
導火線がどんどん短くなる。リリカ、もうすぐ行けるよ、君の故郷────火星に。
いつか人間は火星に住めるようになるって言われてるんだ。俺は、世界で初めて火星に住む男になるよ。でも、他の奴らは来て欲しくないな、2人きりでいい。
さぁ、出発だ。愛してるよ、リリカ。行こう、"君と2人だけの星"に。
『──────次のニュースです。先日火曜に、〇〇県の××海岸で爆発事故がありました。事故現場からは、男性と思われる遺体が見つかっています。現場付近に残された車には、香村康二さん(47)の私物があり、遺体と香村康二さんの関連性を調査中です。....ただいま入った情報です。現場で見つかった遺体が香村康二さんであることが判明しました。』
「か、香村さん......」
「杢野くん、知り合い?」
「は、はい、元職場の上司で....。」
「え、そうなの?なんで爆発事件なんて.....」
「分からないです....」
ここまでご覧頂きありがとうございました!
次のアフターストーリー編は、今回のお話の解説のようなものになっておりますので、合わせて読んで頂けると幸いです。




