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カルト宗教がとんでもない悪行を重ねまくっている件に関して小説化してみた  作者: フランスのセクトは破壊的カルトと同じ意味合いらしい
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ヤクザではありません。あくまでも、創成教会の職員です。

 創成教会そうせいきょうかいの地方組織は、下からブロック、地区、支部、本部、総本部、県本部となっていた。ブロックは数世帯の教会員からなる最小単位で、例えば、マンションや団地の場合、一つの棟に住む教会員で一つのブロックを作っていた。


 地区になると五十世帯~百世帯程度で町内会単位。支部は中学校の校区単位、本部が二~三校の中学校を一つにまとめた程度の範囲で、総本部が地方自治体の市と同じ、という具合だった。


 創成教会の会長秘書室には、藤村富政という管理官と呼ばれる七十過ぎの男がいた。彼は単なる本部職員ではなかった。教会内序列では副会長に匹敵するような高位であるにもかかわらず、何十年もずっと秘書室に配属されている。


 この男こそが、教会の非合法活動を取り仕切る闇部門の頂点であった。

 教会では、問題が起きると、まずは幹部に相談する。その幹部経由で池崎大山会長に話が昇り、会長の許可が出ると、その話が藤村のところに回ってくる。


 藤村は秘書室にいた。東京にある教会総本部の建物は、外観は豪奢だが、秘書室などの事務方の作業部屋は質素な作りで、小ぢんまりとしている。市役所の各課の部屋よりまだ質素だった。


 固定電話の受話器を取り、創成教会愛知県本部教導部長(きょうどうぶちょう)高杉真一に電話した。

 県本部役員は基本的に創成教会の職員なので、常に県本部の施設に詰めている。


 なお、教導部とは、その名とは異なり、敵対者やライバル教団の偵察・情報収集、及び、それらに対するごく軽微な嫌がらせを行う部署で、その内容は、法に触れるか、触れたとしてもごく軽いものに限れる。


 創成班そうせいはん宣布部せんぷぶの前哨戦を行うところだ。


『はい、創成教会愛知県本部教導部長の高杉でございます』

「おお、高杉くんか」

『はい、そうでございます』

「藤村だ」

『いつもお世話になっております。本日はどのようなご用件でしょうか?』

「うちの池崎に関して嗅ぎ回ってるフリージャーナリストの生ごみクズ野郎が愛知に住んでいるらしい。これから交渉に入るから、個人情報を集めてくれ」


 政権政党の支持母体の幹部とは到底思えない汚い口調だが、藤村は教団が小さかった頃に入信した池崎の懐刀であり、一時期はヤクザとも交流があり、反社に片足突っ込んでいる人物だった。


『失礼ですが、そのジャーナリストのお名前は?』

菅原すがわら太茂津たもつだ。名東社とかいう聞いたこともないみみっちい出版社に出入りしてるみたいだ」

『かしこまりました。必要な情報は全て揃えさせて頂きます』

「頼んだぞ。じゃあな」


                *  *  *


 高杉は教導部長室にいた。面白いもので、地方組織の教会施設の方が総本部よりも部屋が広い。単に土地の値段と建設費が安い頃に立てられたからだが、使う側からしたら広い方がいい。


 本棚から愛知県本部に所属している創成班員リストを綴じたファイルを取り出す。アナログではあるが、情報流出に備え、拙い情報はデジタル保存でなく、原則、紙で保存していた。


 出版社に勤務している班員が数名見つかった。

 早速電話する。


『もしもし、鈴木ですが』

「鈴木さん、初めまして。創成教会愛知県教導部長の高杉と言います」


 高杉が名乗ると、電話越しなのに、相手の空気が張り詰めるのが伝わってくる。


『こちらこそ、初めまして! わたくし、名古屋総本部第十三東名古屋本部の創成班員鈴木伸一と申します!』


 すると高杉が笑った。


「そんなに肩肘張らなくて大丈夫ですよ。ちょっと頼みごとをしたいだけですので」


 高杉の笑い声を聞き、鈴木は緊張の糸が解けた。


『すみません。突然のお電話で、緊張してしまいました! それで、どのような内容でしょうか?』

「名東社という小さな出版社に出入りしている菅原太茂津というフリージャーナリストについて、住所、電話番号、とにかく、可能な限り、個人情報を調べて欲しいんです。ただし初期調査なので、更に突っ込んだことはこちらで再度やりますから、調査していることを彼に気づかれないように、慎重にやって欲しいんです」


 鈴木ははりきって答えた。


『わかりました! 後日、こちらの電話番号にご連絡させて頂きます』


 四日後の午前中、教導部長室に電話がかかってきた。


「もしもし、高杉です」

『高杉さん、おはようございます! 名古屋総本部第十三東名古屋本部の創成班員鈴木伸一です』

「鈴木さん、おはようございます。ところでどうでした?」


 鈴木が報告した。短期間ではあったが、必要な情報は全て揃えられていた。

 出版業界の知り合いと大勢会って会食したり、喫茶店で雑談したりして、その中に菅原の名をさり気なく混ぜ込み、個人情報を引き出したのだ。


 決して大したことわしたわけではないが、昼休みや退勤後の私的な時間を用い、別段、会いたいわけではもない人間と会い、自腹で食事して話を聞き出し、金と労力を教会の為に惜しげもなく差し出す。


 カルト宗教の活動は、こうした活動家信者達の自己犠牲の下に行われている。


『菅原太茂津43歳。1981年9月24日生まれ。愛知県守屋市出身、守屋市立今川小学校卒、守屋屋市立黒居中学校卒、愛知県立庄内川高校卒業、愛知学園大学文学部卒。結婚歴なし、子なし、実家を出て名古屋市内のマンションで一人暮らし。現住所は愛知県名古屋市中央区七日町1-5-66、メゾン中央七日町505号室、電話番号は090-xxxx-xxxxです』


 高杉が彼を誉めちぎる。


「素晴らしい報告をありがとう。これで万事上手く行きます。鈴木さんの善行は教会の勝利に向けて非常に大きな前進となることでしょう。よき功徳を積まれましたね」


 鈴木は嬉しそうに言った。


『お褒めの言葉、恐縮です。今後とも精進致します』

次回は9月2日21時40分投稿予定です


※日時を誤記していました。申し訳ありません。

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