警狼ゲームのはじまり 7
桐谷世羅は冷静に
「……何だ?」
と短く聞き返した。
将は顔を上げて
「根津は狼ですか?」
と聞いた。
桐谷世羅は目を見開き沈黙を広げた。
……。
……。
今ここで知りたいのはそれか? である。
将は冷静に
「ああ、俺はドボンなので言えませんけど、気になるので」
と返した。
桐谷世羅はじっと将を見て
「お前、完璧主義だろ」
と告げた。
将は困ったように笑って
「え? 完ぺきではないですけど……結構、手を抜かないタイプで嫌になってしまいます」
と返した。
彼は笑って
「狼だ」
と短く答えた。
将は目を細めると
「だとすれば、やっぱり」
と呟いて、肩を上下に動かすと
「あの、俺……2番目にドボンなのでクビですか?」
と真っ直ぐ桐谷世羅を見つめて聞いた。
将にとって重要な事だ。
クビになるか。
クビにならないか。
心拍数が上がり、息苦しささえ感じられた。
一生が……掛かっている。
桐谷世羅はじっと将を見ると
「クビ、だと言えば?」
と静かな声で答えた。
将は震えながら俯き涙を落として桐谷世羅の両手をガッ! と握りしめた。
「あ――――りがとうございます! ほ、本当にクビにしてくれるんですね!」
世羅は咄嗟に手を払ってドン引きすると
「待て! く、クビになりたかったのか?」
と聞いた。
将は大きく泣きながら頷いた。
「はい!」
桐谷世羅は蒼褪めながら
「いやいやいや、だったらなんで警察官の試験を受けたんだこいつは!?」
と考えた。
将はフゥと息を吐き出し
「俺の亡くなった父は警察官で……あ、でも、ノンキャリでずっと交番勤務だったんですけど」
と言い
「母さんと姉さんが父さんの夢だった刑事になれと無理やり」
ゴリゴリ押しの命令で、と突っ伏して泣きながら訴えた。
本当はIT業界でゲーム作りをしたかったのだ。
「俺、ゲーマーでゲーム作りをしたかったんです! 俺の人生は俺のものですよね? だから、これを聞いた時にチャンスだと……占い師って大体最初にやられるでしょ? 騎士がいたとしても最初の一回だけしか救われない。いや、騎士がいなかったら今回みたいに初夜にアウトだと思って最初にぶっこみました! 不可抗力のクビ!! 理想です!!」
ドーン!! と告げた。
桐谷世羅はワナワナ震えながら目を見開いて思わず吹いて笑いかけた。
将は冷静に
「笑わないでください、真剣なんです!」
と告げた。
確かに一生の問題だ。
桐谷世羅は笑いを堪え
「いや、確かに一生の問題だなぁ」
と言い、ふっと笑みを浮かべると
「だがなぁ、言っておくがお前はクビじゃねぇよ。俺はクビの可能性があると言っただけだ」
と告げて、ガビーンとショックを受ける将を見ると
「だが、ゲーム作りを存分にさせてやる」
と諭して
「あ、そうだ。お前が根津を選んだ理由は……これか?」
とグッと親指を上げて聞いた。
将は驚いて
「気付いていたんですか!?」
と目を見開いた。
桐谷世羅は「ああ」と短く答えてテントを出た。
「まあ、どうせ次で決まるだろ」
そう言って9番テントに戻り、多々倉聖を見ると
「多々倉、次から東大路を連れていく」
と告げた。
多々倉聖は目を見開くと
「東大路ですか? 彼は狼では……」
と呟いた。
桐谷世羅は笑みを浮かべて
「じゃねぇよ」
と答え
「狼は次でわかる」
と告げた。
「奴らは俺たちが仕掛けた罠に気付いていないだろうからな。生き残らなければ先がない。東大路のお気楽な理由じゃなくて本当の生死が掛かってる。それが判断を鈍らせる。どんなに頭が良くてもな」
多々倉聖は頷いた。
その瞬間、携帯のアラームが決着の時を知らせた。




