愛知県警のケイドロ 3
10月12日。
秋晴れの快晴であった。
将と翼は伊勢湾入り口に土砂載積所として人工的に作られたポートアイランドの波止場に76名からの新人警察官と共に降り立ち、急遽作られた設営を前に笑みを浮かべた。
短期間だが良くここまで作り上げたものだと思ったのである。
反対に実地研修と言われてやってきた新人警察官たちはまるで映画のセットのような光景に誰もが息を呑み込んでいた。
これから何をさせられるのか?
そう考えていることがアリアリと見える表情であった。
将はふっと口元を歪めるような笑みを浮かべた。
「俺たちも同じ表情を浮かべていたんだろうな」
そう考えた。
大阪府警でも同じだったのだ。
緊張。
不安。
疑惑。
だが……と将は考えた。
「それは正しい。これは実地研修じゃない本当のケイドロゲームなんだからな」
参加者全員にベストを着用させた。但し、大阪府警のサバイバルゲームの時のような的はない。
将は横に10列で並んで待機している面々を見つめ静かな声で
「してもらうことは……警泥ゲームだ」
と告げた。
全員が目を見開いて顔を見合わせて騒めいた。
実地訓練と聞いてきたのだ。
それが、ケイドロ? と誰もが不意を突かれたということだ。
小学生くらいの子供がする遊びだ。
将はざわめくのを気にした様子もなく
「ケイドロを知らないものはいるか?」
と聞いた。
誰もが首を振った。
将は頷くと
「よし、特殊ルールがあるので説明はしておく」
と告げた。
翼はその間ジッと並ぶ新人警察官たちを見つめた。
将は見極めを翼に任せてゲーム進行に集中した。
「特殊ルールの一つだが、ある条件下にあるものはクビになる可能性がある」
全員が目を見開いて将を見つめた。
ゲームでクビ? 何を言っている? という具合である。
将は広がった騒めきを気にせず粛々と話を続けた。
「これから3時間ゲームを行うが3時間後の時点で泥棒は牢屋に入っている状態だったもの。警察は確保が一度もできなかったものがその対象となる。ただ泥棒は抜け出したものはその限りではない。警察の場合は逮捕した相手が逃げた場合はポイントのカウントはゼロになる」
つまり下手をすれば9割の人間がクビになる可能性があるのだ。
無茶苦茶である。
誰もが口々にざわめきを広げた。
将は息を吐き出すと
「私語は厳禁だ。話を聞け」
とそれほど大きくはないが強制力のある声で告げた。