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警狼ゲーム  作者: 如月いさみ


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警狼ゲームのはじまり 4

 太陽は少し高度を上げていた。

 初夏の強い日差しを投げかけ地面を照らしている。


 テントで待機していた全員がワラワラと出てきて、将は周囲を見回した。


 教官の桐谷世羅がマイクを持って

「警視村に朝が来た。穏やかな朝だ。しかし、その朝とは裏腹にこの村には狼が人の姿に擬態して忍び込んでいたのである」

 とナレーションを告げた。


 ……一日目、開始……


 将はすっと戸惑う全員を見回して声鷹高に

「俺は占い師だ!」

 と叫んだ。


 全員がギョッと将を見た。

 先手必勝である。


 将は口角を上げて笑みを浮かべると

「昨夜、占ったら」

 と言い、隣のテントから出たばかりの大谷大地を指さした。

「大谷、お前が狼だと分かった」


 隣のテントから出てきたばかりの親交のある天童翼が驚いて将を見た。

 いや、全員がギョッと将を見たのである。


 三番テントの前にいて名指しされた大谷大地も驚いて

「え!? な、なに言っているんだよ。大体、本当に占い師っているのか?」

 本当はお前が狼で勝手に占い師を名乗っているんじゃねぇのかよ? と慌てて反論した。


 将は全員が見つめる中で笑みを深め

「あのさ、まだ一日目で全員が生きている時に俺が狼だった場合に今回例えば大谷を処刑して村人と分かって次に狼だと処刑されるような手を打つか? 俺が狼なら一日目は鳴りを潜める」

 と説明した。


 全員がフムッと納得したように息を吐き出した。

 正論だからである。


 例え、ここで大谷大地を沈めたとしても嘘だった場合に翌日は殺される。ここで村人が減るのは2人だ。人数的には狼が2人の場合が多い。だとすれば、6人中2人そして、次は4対1になる。


 但し、将の中ではもう一つの人数設定があった。

『半数の落ちこぼれ』と桐谷世羅が言ったことである。飛躍した可能性だが8人中3人もしくは4人を狼にしている可能性もあるのだ。


 だが、セオリー的に狼は2人。

 人は正論だと直ぐに分かる理論には素直に従うものである。

 まして、警察での生き残りが掛かっている状態で自分以外の誰かが吊るしあげを食らったのなら余計にその傾向に拍車がかかる。


 自分は救われるからである。


 将は全ての可能性を計算に入れて先ずはガツンと強烈な初手を食らわせたのだ。そして、スーと全員を見回した。


 隣の一番テントの天童翼は息を吐き出して腕を組んで考えるように腕の上で指先を動かしている。


 斜め向かいの花村満也は冷静に将を見ると

「じゃあ、大谷に入れて村人だった場合はその次にお前に入れるぞ?」

 と告げた。


 将は大きく頷いた。

「ああ、是非そうしてくれ」

 あっさり答えて抑え込み、更に視線を動かした。


 大谷大地は俯いて腰を当てたまま唇に指を当てている。仙石真美也は腕を組んで肩を竦めている。

 根津省吾は俯いて考えるように両手を組み合わせて親指を弾いている。


 行き成りの展開で確かに誰もが驚くだろう。


 海野邦男は手を顎に当てて

「なるほどなぁ」

 と呟いてチラリと大谷大地を見ていた。


 初っ端からお気の毒に、という感じだ。

 その視線は富山春陽も同じものであった。


 反論は何処からも出なかった。


 静寂が広がる中で腕組みを止めて天童翼が唇を開いた。

「確かに、東大路の言う通りだな。ここはお前の言葉に乗るしかないな」


 そう言って苦く笑った。

 それに大谷大地がチラリと見た。

 

 富山春陽も頷いて

「そうだな、残念だったな。大谷」

 と告げた。


 将は全員の心が固まったのに確信を持った。ここは計算通りである。


 桐谷世羅は将を見て

「独壇場だな」

 と心で突っ込んだ。


 人を動かすには絶対的な確信の籠った言葉の力が必要なのだ。クビのかかったゲームで誰もが虚の状態で行き成りゲームを動かし方向性を決定づけたのだ。

「面白れぇやつだが……警察の敵か味方か……まだ分からねぇけどな」


 桐谷世羅は将を瞳に映し込み目を細めた。

 このゲームに参加している警察学校の新人警察官には知らせていないが、これは『本当の人狼ゲーム』なのだ。

 警察に入り込んだ悪しき余所者を排除するための林間合宿なのである。


 その事実はこの孤島の中では桐谷世羅と多々倉聖だけが知っている極秘事項であった。


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