大阪府警のサバイバル 15
将と翼は藤原美也子と八重塚圭と隠れていた男を連れて船へと戻った。その頃には停泊していた船は湾岸警察に警告が入ると立ち去っていた。
桐谷世羅は5人を乗せると省吾に監視を任せて船の会議室へと全員を入れた。
最初に口を開いたのはカメラを持って隠れていた男であった。彼は八重塚圭を見て
「悟と突然連絡が取れなくなって心配になって警察学校に隠れて行ったら圭ちゃんがいて雅樹に聞いたら悟と連絡が取れなくなって圭ちゃんに話したら自分が調べると言って成り代わったと……そう聞いて」
と告げた。
桐谷世羅は腕を組み
「それで貴方は心配になって先にここに隠れて待機していたってことか」
と告げた。
「佐藤雅樹から話を聞いたってことだな」
八重塚圭は男を見ると
「秋日兄さん」
と呟いた。
将は男と八重塚圭を交互に見て
「知り合いなのか?」
と聞いた。
彼女は頷いた。
男は息を吐き出し
「俺の名前は遠野秋日でフリーのカメラマンをしています」
と言い真っ直ぐ彼らを見て
「そして……こんな事になったのは俺のせいです」
と告げて土下座した。
「すまない! 本当に申し訳ない!」
叫んで
「二人に良かれと俺が……組織に誘ったんだ。二人とも頭も良かったし……組織に入れば就職にも困らないと思って幸せになると思って……俺たちは就職が難しい。どうしても両親や家族を調べられて……口利きでもない限り良い就職が出来ない。だが……間違っていた」
と付け加えた。
……就職先の心配はないがそれは最初だけだった。直ぐに組織からこういう記事を書けとかこの記事を書いた人間を知らせろと言われて……
「もし警察でそんなことになったらと心配になって二人に連絡をとったら悟の行方がわからないと雅樹に聞いて……雅樹は圭ちゃんを守るからと……俺が下手に動くと圭ちゃんまで巻き込むと思って下手に動けなくてと……雅樹から今回のことを利用して酒家が悟が通っているのを不審に思っていて藤原美也子に何かを仕掛けさせようとしているかもと」
……その話をした直後に雅樹が車に……
桐谷世羅は息を吐き出し
「じゃあ兵庫県側の救急に連絡を入れたのは貴方だったのか。少し前に彼が意識を取り戻して名前を告げたのでこちらに連絡が入った。そのまま兵庫県警に護衛を頼んだが」
と呟いた。
遠野秋日は静かに頷いて
「雅樹は圭ちゃんが一人藤原美也子と対峙するから俺に先回りして守ってくれとそれで」
と八重塚圭を抱きしめ
「すまない、二人に良いと思ってバカなことをしてしまった」
と告げた。
圭は首を振ると
「兄も雅樹兄さんも秋日兄さんを恨んだりしていないです。秋日兄さんが私たちのことずっと心配していたの知ってるから」
と告げた。
翼はそれを目にすると視線を伏せた。且つて、自分と省吾にも彼と同じ様な兄的存在がいた。自分たちの未来を思って組織へと誘ってくれた。
反対に彼の方が組織に殺されてしまったのだが……組織に入ったことは悔やんでいる。だが、恨んだりしていない。その兄的彼もまた組織の正体に気付いて抜けるように勧めてくれたのだ。
だから、わかるのだ。
彼もまたこうやって後悔していたに違いない。自分と省吾を思って後悔していたのだろう。
そんな彼が殺されたことが悲しくて。悔しくて。
「でも抜け出せば自分と省吾には死しかないと分かっていたから……動けなかった」
藤原美也子は俯いたまま小さく震えていた。
全てが明るみになった今は自分に降る運命を理解していたからである。
そして自分には彼らのような他の繋がりもないのだ。
将は立ちがあがると
「俺は絶対に許さない」
と言い
「人の不幸や人殺しの上に成り立つ組織を存在させるわけにはいかない」
と告げた。