警狼ゲームのはじまり 3
多々倉聖がそれに合わせて
「天童から順に取りにくる! 1番!」
と強い口調で告げた。
それに将の隣の天童翼が素早く多々倉聖の前に立った。
彼は携帯を渡して
「1番テントに入って確認するように」
と手渡した。
桐谷世羅が笑みを浮かべ
「誰にも見せるなよ」
と付け加えた。
天童翼は一礼すると1番テントに駆け込んだ。
将は「次だ!」と心で叫び多々倉聖が「二番!」と言った瞬間に前へと走った。
そして携帯を受け取ると直ぐに内ポケットに入れて2番テントへと走った。
中で携帯を立ち上げて目を見開いた。
『Make』と出てきて『役割:占い師』と書かれていた。
電話登録は一件だけ。
恐らくは桐谷世羅か多々倉聖に繋がっているのだろう。
「占い師か」
将は小さく呟き口角を上げて笑みを浮かべた。
これは好都合であった。占い師は強力な役柄である。その一言で誰かをドボンできる。代わりに即座にやられる可能性も高い。騎士が存在するかが大きなカギになるだろう。
将には圧し沈めた秘密があった。
警察に入りたくて、警察官になりたくて、なったわけではない。
『絶対に刑事になれ』という命令によって警察学校に入ったのだ。
だからこそ、このゲームの立ち回りを計算し自分の思い通りにコントロールしなければならない。
将は瞳に鈍い光を宿し
「占い師は好都合の職業だ」
と不敵な笑みを浮かべて呟いた。
テントの防音はそれなりに利いているようで外の音は遮断されていた。静寂が広がり携帯を見ていると時間だけが刻々と進んでいるのが目に入る。
失敗したら……クビだ。
将は桐谷世羅の言葉を思い出しながら何故警察学校が急にこんな林間合宿をしたのかは見えないが『やり切ってやる』と静かな笑みを浮かべ携帯が9時50分を示した時に掛かってきた着信に出た。
教官の桐谷世羅であった。
「占い師、誰を調べたい?」
最初は誰でもほぼ一緒である。運が良ければ狼に当たるが何も情報のない状態では正にフラットだ。
将は左隣に立っていた天童翼の顔を思い出したものの少し考えて
「あ、じゃあ。大谷で」
と告げた。
天童翼は将にとっては同期の中では良く話す方で色々話しかけてくれていた。そう言う意味では手心を加えたと言うべきだろう。
僅かな間の後に
「狼だ」
と返った。
将は携帯を切って目を見開いた。
「マジか!」
初っ端からビンゴを引いてしまった。
運か? 幸運か? それとも不運か?
将は小さく深呼吸をして携帯が10時にアラームを鳴らすと同時に『朝の始まり』の表示を出すのを見てテントを出た。
仮想警察村の……夜明けであった。